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患者・同僚・管理者に好かれるデキるナースになる第3回

患者・同僚・管理者に好かれるデキるナースになるシリーズ第3回

投稿日:2016.05.01

        これからのナースに求められるケアの質とは ~効率的で効果的な質の高い医療的ケアを知る~
        第3回 経管栄養患者の逆流対策のポイント
     ~逆流に伴う誤嚥性肺炎発症予防のために~

 経管栄養患者の消化器トラブルとして、胃内容物の逆流およびその誤嚥による肺炎の発症リスクは少なくありません。今回は、高度救命救急セン ター、基幹災害医療センターを有する一方、地域医療支援病院として市民の健康を守る総合病院としての顔も持つ、前橋赤十字病院をお訪ねしま した。経管栄養患者の逆流や肺炎を予防するためのポイントを、同院摂食嚥下障害看護認定看護師の伊東七奈子先生にお話を伺いました。

-経管栄養患者の逆流は、どういう場合に起こりやすいのでしょうか?

個々の状態にもよりますが、以下のような場合に逆流を起こりやす いように思います。

1.円背

身体が丸まって姿勢を保持しにくく、腹部が圧迫されやすいことが 逆流の要因になります。ですから、上体を挙げる角度や枕・足のクッ ションなどの位置など、意識して姿勢を保つことが大事です。

2.痰が多い

痰が絡んで咳こむと、腹圧がかかり嘔吐・逆流が誘引されやすいため、 栄養投与の前に痰の吸引をすることは、最初のケアとしては重要です。

3.胃排出機能の低下

胃排出機能が低下している場合は胃内容物の停滞時間が長く、従来 の液体の経腸栄養剤はなおのこと、胃内圧の上昇により逆流しやすい 状況にあります。上半身を起こす角度だけでなく、左右どちら側を下 にするかにも注意が必要です。右側臥位が逆流防止になるといわれて きましたが、経管栄養患者の場合は左側臥位のほうが逆流予防になる ことが報告されています(図1)。そのためこれを考慮して、患者個々 に逆流の少ない姿勢を検討して、調整することが必要です。

4.胃食道逆流・食道裂孔ヘルニアの既往

もともと逆流のリスクがあるために胃瘻・腸瘻などの経管栄養を選 択した方たちです。

5.経鼻胃管

チューブの挿入により胃の His角が鈍角になって 胃内容物が流れやすくなっていたり、経鼻チューブ が胃に留置されたままだと噴門部が閉じきれず、チ ューブに沿って逆流することもあります。

6.加齢に伴う身体機能の低下

嚥下機能、呼吸機能、消化管機能等全身の機能の衰えに伴い、逆流 や誤嚥のリスクは高くなります。さらに肺活量の低下などにより誤嚥 したものを喀出する力も弱まるため、肺炎を発症しやすくなります。 誤嚥をしてもムセることのない不顕性誤嚥や、唾液誤嚥もあるので、 高齢者は多かれ少なかれ逆流や誤嚥をしているものと想定して、日々 のケアに注意を払うと良いでしょう。

7.看護ケアの環境

必要に応じて栄養投与前に痰の吸引をしておく、栄養投与中は吸引 をしない、投与中や直後の体位変換は行わない、などは経管栄養患者 への基本的な看護ケアです。しかし、看護業務を時間内に終わらせな ければ、という思いが優先されてしまい、これらの基本をおろそかに してしまうことがあります。それが逆流や肺炎を誘引していることに 問題があります。栄養投与する以前の看護ケアの環境を整える必要が あると考えます。

-逆流から、どのような問題が生じますか?

最も大きな問題は、誤嚥性肺炎の発症とそこから派生する問題です。 「肺炎を起こさない」取り組みがいかに重要か、私自身栄養管理にかかわるようになって痛感しています。

1.誤嚥性肺炎の発症

肺炎を発症すると、患者は体力も食べる力も免疫力も低下し、 QOL,ADLにも悪影響を及ぼします。低下した力を元に戻すのがいか に大変かは、皆さんもご承知の通りです。

2.看護業務の追加

容態の観察および嘔吐物の処理や汚れたものの取り換え、痰の吸 引・口腔ケアなどの業務が追加されます。逆流予防で投与速度を遅 めにしている場合は長時間の姿勢保持が必要となるため、褥瘡予防 の対応も必要になります。

3.入院期間の延長

肺炎が重症化するほど抗生剤の投与期間が長引き、入院期間の延 長も考えられます。

-逆流の予防や発生時には、どのような対応をしていますか?

逆流が起きたことへの対応と、逆流による誤嚥性肺炎を予防するた めの対応が求められます。

1.誤嚥・窒息の予防

顔だけでなく、身体全体をしっかり横に向けます。

2.逆流原因の見極め

体調・投与量・投与速度・姿勢などを確認し、胃を圧迫する姿勢になっ ているときは、クッションやタオル等で体位を調整します。経腸栄養 は栄養剤の粘度や患者の身体の動きによって速度が変わったり止まっ たりするため、投与中は頻回に訪室し滴下状態を確認します。

3.誤嚥予防の吸痰

痰がたまってムセや咳を惹き起こさないよう、吸引して取り除きます。栄養投与中にのどがゴロゴロしてきら、一度投与を止め低圧 で吸引します。痰が多く絡みやすい場合は頻回の吸引(1日に10回 以上。通常は1日に5-6回)が必要です。

4.栄養投与法の検討

摂食嚥下機能レベル、体力等に適した栄養投与法を選択・実施しま す。栄養投与ルート(経鼻,胃瘻、腸瘻など)や栄養剤の形状(液体、 半固形など)を検討します。

5.情報の共有

スタッフ間で患者情報を共有し、逆流発症の予防に努めます。逆流 時の状況、今後逆流した場合の対応、原疾患、褥瘡の有無、ADL等、 正確に記録し看護ケアに活かします。時間はかかりますが、詳しく記 入します。

-逆流による誤嚥性肺炎には、どのような対応が必要ですか?

全身状態の観察に注意を払い、栄養投与時には個別に適切な対応を することです。

1.NST(栄養サポートチーム)による栄養管理への介入

栄養状態の悪化は全身状態に影響するため、NSTから病棟に対し て栄養管理の提案を行います。この時、個々の患者ごとに安全な栄養 管理の提案(投与スケジュール、栄養剤の選択、トラブルを起こさな いための工夫、トラブルが起きた時の対処法など)を丁寧にしていか ないと、病棟で継続してもらえません。

2.姿勢や角度の確認・調整

胃を圧迫せず、特定部位に圧がかかって褥瘡ができない体位は個々 に異なります。

3.吸引や口腔ケアの徹底

誤嚥性肺炎は、口腔内の菌が付着し誤嚥したものを喀出できないために起こる炎症です。口腔内のケアが不十分だと、肺炎発症の原 因となる菌も繁殖します。逆流しやすい方は口腔内が汚れやすく、 誤嚥のリスクも上がります。当院では逆流の有無に関わらず、入院 時の口腔ケアスクリーニングを全員に実施し、毎週評価をして口腔 状態に応じたケアを行い、誤嚥性肺炎の予防にも注力しています。

4.治療薬(抗生剤)に起因する下痢への対応

肺炎の治療に使用する薬剤、特に抗生剤が原因で下痢を起こすこ とがあります。他の薬剤への変更を検討したり、スキンケアを行い 下痢によるトラブルを拡大させないよう努めます。

5.静脈ルートの感染予防や抜針予防への対応

抗生剤の点滴や一時的な静脈栄養に伴う感染や留置針の管理に注 意します。

-逆流予防のために栄養剤の選択に工夫していることはありますか?

当院では、消化器の手術を受ける患者の術後の栄養管理は、術前 のアセスメントにより経管栄養が選択されることが多いです。脳疾 患の既往によって、もともと経口摂取が難しい患者や消化器系の手 術で経口摂取のできない期間が長期にわたると予測される患者につ いては、栄養管理に介入し、個々の状態に合った経管栄養を行うこ とが逆流予防につながっています。

胃瘻からの投与の場合は半固形状流動食を導入し、病態別栄養剤(液状)は、とろみ材を使って半固形化しています。半固形化して 高粘度にすることで、逆流のリスクが軽減するだけでなく、通常の 食事のような短時間での投与が可能になります。通常の食事に近い 状態で胃に刺激を与えると、胃の生理的な蠕動運動が惹起され、スムーズに十二指腸へ排出されることによっても、逆流のリスクを軽 減できます。投与時間の短縮は、吸引やリハビリテーションに充て る時間を確保しやすいというメリットにもつながります(図2)。

ただ、投与方法を間違っていることで効果を発揮できていない ケースも少なくありません。直角型の接続チューブで半固形タイ プを注入して、「時間がかかる」「手が痛い」「半固形は大変」とい う評価の元に、半固形の適応の方が適応外とされていることがあ ります。使用を断念し、液体栄養剤に戻ってしまうこともあります。 これは、半固形化栄養が普及する一方で、適正な使用方法が理解 されないまま導入されるケースが増えたからかもしれません。

さらに、軽いととろみをつけたくらいで満足し、十分な効果が 出ずに逆流予防につながらない、症例によっては逆流が発生し、 それを誤嚥して肺炎を発症させてしまうことすらあります。

これらは投与する側が正しい使用法を知らなかったことによっ て生じるトラブルです。逆流予防のために半固形状流動食を導入 するのであれば、適応患者を見極め、正しく使用することが重要 なのです。

経鼻胃管の場合はチューブが細いため、流動食にとろみをつけ て投与することは困難でした。しかし現在は、胃内で胃酸と反応 して液体から半固形状に性状が変化するハイネイーゲルも使用す ることで、対応できるようになりました。
◆胃酸との混合により pHが低下 することで、液体からゲル状に 変化する濃厚流動食品 ハイネイーゲル

-逆流防止対策を行う、病院運営上のメリットについて教えてください

逆流は窒息にもつながる怖い状態です。誤嚥性肺炎を起こせば呼吸 状態がどんどん悪くなっていき、吸引と並行して酸素飽和度、呼吸状 態など、モニターをつけてのバイタル観察なども必要になります。こ まめな観察、データチェックのための時間、その結果を他のスタッフ に正しく伝えるための業務にかかる時間なども増えていきます。

病院運営の視点でコスト換算をしたとき、ケアに必要な物品の費用 だけでなく、ケアにかかる手間の部分の費用の方が大きいように感じ ます。だからこそ、逆流をさせない、肺炎を発症させないための安全 な管理にコストをかけることが、結果的に病院全体のトータルコスト 削減というメリットにつながるのではないかと思います。肺炎患者へ の看護ケアと適切な栄養管理を並行して行うことで、「肺炎を起こさない体を作る」という視点を持つことはとても大切なことなのです。

肺炎の発症リスクを取り除くことは、肺炎のケアにかかわる看護業 務の軽減にもつながります。その結果、看護の質の維持や病院全体の トータルコストを抑えることにもつながるのではないでしょうか。

トラブルを発生させないためのコストと労力を惜しまないことが、 質の高い看護ケアとなって早期治癒・早期退院につながります。それ が看護業務の軽減ももたらします。質の高いケアは地域の基幹病院 としての信頼も築いていきます。自分の行っているケアはそこまで つながっているんだという自覚を持って、日々のケアを行いたいで すね。

今回の事例でわかるとおり、経管栄養患者が逆流や逆流による肺炎を 併発すると、一般のケア時と比べて観察や申し送りの回数が増えるだけで なく、一回ごとのケアの時間も増大します。さらには嘔吐物の処理や着衣 交換、胸部レントゲンや抗生剤の投与など治療に伴う追加業務も発生し、 看護師の負荷は一般的のケア時間と比べ約7倍以上に膨れ上がります。

逆流や逆流による肺炎を起こさないためにも、逆流の疑いのある患者に対して、逆流を起こしにくい体位変換を心がけることや、患者ごとの情報 を正確に記録しスタッフ間で共有するなど、日頃の基本的な業務をおろそ かにしないことが大切です。

看護ケアの環境や安全管理に業務工数やコストをかけ、逆流・肺炎の発 症リスクを取り除くことが、結果的に病院全体の看護業務負荷やトータル コストの削減につながるといえるでしょう。

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