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病院取材企画!第2回

病院取材企画!第2回「イエローカード作戦」で手指衛生の実施率を 向上させた感染対策推進室の対策事例 〜NTT東日本関東病院〜

投稿日:2013.03.22

感染対策においてもっとも重要なのが手指衛生。医療従事者なら重要性は認識しているはずでありながら、一方でなかなか徹底されない悩みの種でもあります。

今回は、ユニークな取り組みで院内の手指衛生実施率の向上につなげた対策例について、N T T 東日本関東病院・感染対策推進室の縣 智香子看護師にお話を伺いました。

JCI認証取得への活動がきっかけ

NTT東日本関東病院は2011年3月に、国際的な医療機能評価J C I( J o i n t C o m m i s s i o n International:国際病院評価機構)において、東京都では初めてとなる認証を取得した。

JCIとは、米国の病院評価機構(JC)から発展し、1989年から活動を行っている病院評価(国際版)。

医療機関の命題である患者の安全と医療の質の改善を具現化するために、専門的な知識を持つ審査員が中立の立場で医療機関を多角的に審査・評価し、基準を満たす病院を認証取得という形で評価するものだ。

当院は、日本で2番目となる認証取得病院として評価されるに至った。この審査を受けるにあたって、重要な項目のひとつに挙げられていたのが、「感染の予防と管理」。中でも「手指衛生」に対する取り組みが評価項目の重要なポイントとして挙げられていた。
 手指衛生の不徹底は微生物の伝播につながる。感染対策において、手指衛生の遵守は非常に重要な要素である。
JCI評価基準への取り組みをきっかけに、手指衛生の実施率を評価し、遵守にむけた取り組みを開始した。その後も継続的に対策の強化をはかっている。

手指衛生実施率の向上を目指して

2011年1月から、感染対策推進室と医療安全管理室のメンバーで、院内をラウンドしスタッフの行動を観察し、手指衛生の実施状況の調査を開始した。

手指衛生の実施率は、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のガイドラインや、WHO医療現場のガイドラインをもとに手指衛生が必要なタイミングを判断し、WHOのホームページで紹介されている計算式で実施率を出していくものだ(別図参照)。
ラウンドで調査した手指衛生の実施率は、病院感染対策委員会やICTリンクスタッフ会議、部署 別の勉強会などで報告した。また、勉強会では手指衛生が必要であるのに実施されなかった場面を具体的に紹介した。

これらの取り組みの結果、当初それほど高くなかった手指衛生の実施率は、JCIの認証取得に向けた取り組み期間とも重なり、J C I の認証を受けた3月には60%に上昇した。

「イエローカード作戦」の開始

しかしJCI認証後、スタッフの意識が緩んだのか、いったん実施率 は下降線をたどることに。そこで2 011年10月、ひとつの具体的な施策を実施することにした。

当時、サッカーの「なでしこジャ パン」がワールドカップで優勝した。
そんな中で、スタッフにわかりやすい形で手指衛生の実施についての警鐘を鳴らすことができ ないかと考え、思いついた対策。
それが、ラウンドで手指衛生が 必要なタイミングで実施していない人にイエローカードを渡す 「イエローカード作戦」だった。


手指衛生は感染対策の基本、手指衛生を行なわないスタッフにはイエローカードだ。 手洗いが必要な場面であるのに実施されていない人に、直接 イエローカードを手渡していく。
イエローカードにはWHO「手指 衛生が必要な5つのタイミング」 のイラストを載せており、手指衛生が実施できていなかった場面がどこにあたるのか、カードに丸を付けスタッフに説明して渡す。

やはりスタッフの誰もが、イエローカードなどもらいたくはないものだ。 効果は成果となって表れ、『イエローカード作戦』開始後手指衛生実施率は80%まで上昇することになった。

しかし、「ラウンドで見られているとき」だけ手指衛生の実施率が上がっているのではないか と推測された。
そこで今度は、各部署のICTリンクスタッフメンバーによる部署内調査を開始した。調査方法は、ICTリンクスタッフメンバーが調査日、調査時間を公表せず、自部署のスタッフの行動を観察し、手指衛生の実施率を調査する。

WHO医療現場における手指衛生のガイドラインをもとに、手指衛生が必要なタイミングを判断し、実施率を算出する。 調査結果を集計し、職種別実施率、WHOの手指衛生が必要なタイミング別手指衛生実施率を算出して、結果を各部署に提示した。

調査結果は、患者さんのケア後や体液曝露(またはその可能性があるとき)の手指衛生の実施率は高いが、ケアの前の手指衛生の実施率が低いことが分かった。
また、職種別の手指衛生の実施率は看護師に比べ医師の実施率が低いことが分かった。

今後は実施率が低いタイミングや職種にターゲットを絞った教育や介入を行なっていきたい。 感染対策において、最も重要なのが手指衛生の遵守。
手指衛生の遵守に向けて様々な視点で調査を 行い、問題点の把握、改善活動に活かすことで実施率のさらなる向上を目指している。
縣 智香子  看護師
●NTT東日本関東病院・感染対策推進室/感染管理認定看護師

産業医科大学産業保健学部看護学科卒業後、NTT 東日本関東病院に就職。
ICU、循環器内科・心臓血管外科病棟勤務を経て2007年に感染管理認定看護師の資格を取得。
その後、消化器外科病棟勤務を経て、2010年4月から感染対策推進室に配属。
2012年度から東京都看護協会感染対策委員会のメンバーとして活動している。
取材協力/NTT東日本関東病院[東京都品川区東五反田5-9-22 TEL03-3448-6111(代)]

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