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菊谷 武先生の摂食・嚥下障害者ケアコラム第1回

第1回 窒息の話

今年も、その数を知らせるニュースがアナウンサーによって淡々と読み上げられる。
救急車で運ばれた方が、13名、うち、1名が死亡、5人が心肺停止の重体であるという。
元旦に東京都で起きた、餅による窒息事故を報じるものである。
年間約5000人もの人が窒息事故で命を落としている。


このほとんどは高齢者であり、この数は交通事故による死亡数を凌ぐという。
本来、くちから咽(のど)を経て食道に入るべき食物が喉頭や気管に入り込むことによって窒息を起す。
飲み込むために必要な咽などの力が十分でなかったり、間違って気管に入った食べ物を強く排出する力(喀出力)が十分でなかったりすることが原因である。


私は、かねてからこの窒息事故を減らすために、もっと多くの人が窒息について知り、
予防に心掛けるべきだと訴えてきた。
ほぼ同数の人の命を奪う交通事故は、ことあるごとに話題になりマスコミをにぎわす。
これにより、法令改正などの社会の対策も進み、交通事故死を減らす原動力になっている。


一方、窒息事故はどうか?


正月の餅に関する報道以外目に留まるものはなく、結果、社会の認知は低く、有効な対策は打ち出されない。
昨年は、窒息事故が比較的注目された年であった。
ある食品による窒息事故が相次いだためである。
製造した食品メーカーに対して批判が相次ぎ、その食品は一時製造を中止し、警告マークの拡大や品質変更などの対策を行った。


これがもとで窒息事故を特集したニュースがたびたび流れ、その予防法などが話題となった。
しかし、ある特別な食品のみが窒息を招くような印象を与える報道が目立ったように感じ、窒息事故の本質を捕えていないものも見受けられた。
厚生労働省の調査によると、窒息による死亡事故の原因食品は、餅が最も多く、このほか、米飯、パン、肉、魚など私たちが普段から食べているごく一般的な食品が並ぶ。


さらに、特定のこの食品による窒息死亡事故は、全体からすれば極めて少数であることが示されている。はたして、窒息事故を起こす原因食品として日本中のもちメーカーの一つでも、製造中止に追い込まれたところがあっただろうか?


自宅で介護を受けている約300名の高齢者に対して私たちが行った調査では、約40名の高齢者が過去1年間に1回以上、窒息を経験していた。つまり、死に至らなくても、事故が頻繁に起こっていることになる。この調査では、そのリスク因子として、窒息事故を起こした人の摂食・嚥下機能の低下以外に認知機能の低下が挙げられた。


これは、食べる機能の障害に加えて、食べることに関する判断の誤りが窒息事故をおこす因子として重要であることを示している。

固いものを食べることがあたかも健康の源であるような行き過ぎた考え方にも問題があると思われる。
食べる機能を適正に評価し。その能力に応じた食べ物を安全においしく食べる工夫こそが肝要である。

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