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看護・医療しゃべり場 特別企画!「PEGのジレンマ」を ジレンマで終わらせない

投稿日:2014.02.11

看護現場で胃ろうのケアをされているナースのみなさんは、「PEGのジレンマ」という概念をご存知でしょう。
この概念は草津総合病院消化器内視鏡センターの伊藤明彦先生が、2006 年の京滋NST 研究会で初めて発表されました。同院のNST専任ナースとしてPEGチームのリーダーを務めていた山田圭子さんにもお越しいただき、この「PEGのジレンマ」を乗り越えるための取り組みについて、お話しを伺いました。
「胃ろうなんて…」と思っている方もぜひ、ご一読下さい。

患者さんの幸せを考えてPEGの選択を

―「PEGのジレンマ」という概念が生まれたのは、どんな背景があったのでしょうか?

伊藤 胃ろうから栄養・水分や薬を安定して注入できることにより、全身状態が改善され、一定期間のQOLが保たれると言われたら「そんなに良いものならば」と思いますよね。
 しかしその後、栄養は入るけれどもいわゆる寝たきりの状態が長くなってしまう可能性もあります。そういう情報を事前に聞かされていないと、「こんなはずじゃなかった」となるでしょう。
 僕らが患者・家族にPEGを提案するとき、メリットの部分のみが強調されていたのではないか。僕自身も、状態が悪くなっていく話はしてこなかったのでは、という反省があります。
「PEGの功罪」などとマスコミに取り上げられる(2010年7月25日放映:NHK ETV特集、ほか)もっと前から、現場ではそういう問題があったのです。

―2007年1月に草津総合病院に発足した、PEGチームのリーダーを務めてこられた山田さんは、ナースとしてどんなことを心がけていましたか?

山田 私は、先生がご家族側とお話される時、「P E G 適応判断プロセスチェックシート」を使って、患者さんや家族の言葉を書き留め、本当に患者さんにとって幸せなことは何なのかという原点を話し合えているか、客観的に見るようにしていました。

さらに、説明する側から質問する家族側に立って同席するように心がけました。
ご家族がしっかり理解できていないように思える時には私が質問し、ご家族にも「今の先生からの説明、わかりましたか?」と確かめて、先生からさらに詳しい説明をうかがいました。
 
突然「PEG にしますか?」と切り出され、じっくり考えたり話し合ったりする時間が持てないまま決めてしまうと、どちらを選んでも「なんであの時あんな風に決めてしまったんだろう」という気持ちが残りがちです。
でも「PEGのジレンマ」の図を使って話し合っていくと、「みんなで考えなければいけない段階に来たんだな」と自覚すると共に、一人ひとりが真剣に患者さんの幸せを考えるようになったように思います。
<PEG 適応判断プロセスチェックシート>
 (株式会社メディコンの承諾を得て掲載)

「PEGにしてよかった」 と言われるように

―PEGを選択された方の〈QOLが保たれる時間〉を増やすには、どんなことをしたらいいのでしょうか?

伊藤 その患者さんのPEGライフを快適に保てることにつながるあらゆること、考えられることすべてです。
例えば摂食嚥下機能の改善に向けて、口腔ケア、直接・間接の嚥下訓練、適切な嚥下食の選択、栄養評価、薬剤(意識を低下させたり口渇を惹き起こす薬など)チェック、呼吸理学療法など、あらゆる職種がそれぞれの専門性を活かしたアプローチをするべきだと思います。
もちろん、食べる事以外でも同様です。

山田 ともすれば寝かせきりにされがちな患者さんにとって、気づきと刺激はとても重要です。声掛けや日常生活のリズムを整えることは、ナースが積極的に関わりたいところです。
そして、「気づき」は自分の中だけにしまいこまず、ナース同士あるいは多職種に発信していくべきです。たくさんの職種と仲良くなって情報交換や共有を行い、そのすべてを患者さんの快適な時間のために提供したいですね。

伊藤 患者さんに役立つ製品を取り入れる、という視点も必要です。
短時間で注入できる半固形状栄養剤を利用することによって、夜はナースのいない介護施設でも、朝昼晩3回の食事をナースのいる時間帯に終了できるようになりましたから。

胃ろうは使いこなすべき「道具」

―PEGについて、「患者の尊厳を冒している」「PEGはスキントラブルが多い」というような意見を耳にすることがあります。それについてはどうお考えですか?

伊藤 「何もしないこと=尊厳を重んじること」ではありません。年をとって足腰が弱ってきたら、杖や車椅子に助けてもらうように、飲み込む機能が弱ってきたら、胃ろうに助けてもらう。
それによって尊厳が保たれる時間が延長できる方は少なくないですし、胃ろうを選択されたらそれを全力で支えるのが僕らの役割だと思います。
尊厳を保つためには、むしろやるべきことはたくさんあるはずです。
山田 栄養や水分の管理のために胃ろうを使うんだといっても、なかなか分かってもらえないなぁと感じています。
ナースの職務内容の多さは承知していますが、胃ろうだからトラブルが多いのではなく、適切なケアが行われていないことで生じているトラブルも、現実にはあるように感じます。

伊藤 嚥下障害でPEGを選択するという場合、十分な効果を得られない一因として、導入が遅いこともあるのではないかと思います。
嚥下障害が予測されるならば、今までのようにギリギリの状態になってからではなく、余力のあるうちに早めの導入をするべきです。それによって、QOLを保てる時間が大幅に延長できると考えています。栄養状態、全身状態を低下させないことがQOLを保つ上では大切なのですから。
でも、本当に体が水も栄養も受け付けなくなった時は、過剰投与による苦痛を与えないように、量を絞って適切なタイミングでギアチェンジしてゆく。
この見極めは非常に難しいところではありますが、早めの導入と同様、患者さんの苦痛を軽減し、QOLが保たれるようにサポートするという点では同じ意味合いなのではないでしょうか。

「尊厳」とは? 「QOL」とは?  今一度、振り返ってほしいと思います。

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