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ナースマガジン

慢性期高齢者の看護ケアの質がQuality of Deathの質を決める!---ナースが支える緩和ケアとしての栄養療法

投稿日:2015.03.01

言わずと知れた我が国の高齢者人口の増加。認知症を含め、何らかの疾患を持ちながら生活する高齢者が、年々増加しています。慢性期看護は、なだらかに全身機能が低下してゆく患者さんの人生の締めくくりともいうべき大切な時間との対峙です。

今回、福岡県内で慢性期高齢者看護にあたっている5名のナースの皆さんにお集まりいただき、経管栄養の実情、皆さんの看護ケアに対する思いをうかがいました。

聞き手は、医療法人社団悦伝会目白第二病院副院長/外科・消化器科部長の水野英彰先生。先生は、「慢性期だからこそ必要とされる経管栄養もある」と呼び掛けます。
水野英彰先生
水野英彰先生
(医療法人社団悦伝会目白第二病院副院長/外科・消化器科部長)

急性期病院の外科医として救急搬送患者に対応するとともに、病院周辺の高齢者介護施設への訪問医として高齢者医療への関わりも大きい。
「ナースの心身の負担を減らし、看護ケアのモチベーションを一緒に挙げていきたい、それが最終的には患者さんの幸せにつながるはず」と、ナースと共に医療現場の意識を変えていこうという情熱あふれるドクター。
参加者
・北九州病院グループ一般財団法人西日本産業衛生会若杉病院
  市川厚子さん :療養型病院(297床)看護師長
  辻  優子さん :一般病棟(57床)看護主任
・医療法人社団誠仁会夫婦石病院
  星野千秋さん :内科・リハビリテーション科 介護療養型病棟看護主任
・医療法人社団誠和会牟田病院
  江田照美さん :療養病棟師長
  平田千明さん :同院併設介護老人保健施設「ひいらぎ」看護師長
※皆さんのご所属・役職は座談会開催日(2015年3月17日)時点のものです

ナースを悩ませる経鼻胃管

経管経腸栄養に多い投与ルートは、経鼻胃管と胃瘻。経鼻チューブにまつわるナースの悩みをうかがいました。

<誤挿入への不安>
「看護師にできる手技ですが、うまく挿入できない時の怖さや、胃内留置確認の確実性を問われると不安」(江田さん)、「チューブを抜かれたらその都度挿入しているが、留置の位置に自信のない時には他のスタッフにも確認してもらっている」(市川さん)、「確実に留置を確認できるレントゲン撮影は、すべての方には行えない」(星野さん)、「当施設では夜間はナースが常時いないため、チューブが抜けた時の対応ができないことから経鼻の方は受入れていない」(平田さん)と、誤挿入への対応に不安を抱いていました。
水野先生は「厚労省の事故調査委員会によると経鼻チューブの誤挿入率は1%。ムセの弱い人、咳嗽反射のない人が多いので、気管内挿入に気付きにくい。かといって確実に胃内留置を確認できる方法は、コストや患者さんへの負担を考えると実施されにくい。胃瘻カテーテルは抜けたら医師が対応するのに、経鼻チューブはナースという現実の中で、ナースは多くのリスクと責任を負っている。そういうナースの負担を胃瘻によって軽減できるケースもあるのではないか」と投げかけられました。
<経鼻チューブによる不快感と抑制>
経鼻チューブの自己抜去を防ぐため、ミトン型手袋の使用をよく見かけます。星野さんは、経鼻チューブにミトンという状態が3年続いた間に鼻が変形してしまった患者さんにも遭遇しています。

「初めに胃瘻を提案した時、ご家族が希望されず経鼻チューブになった方。ミトン使用についてはご家族と書類をかわしましたが、ミトンを付けていても気になって鼻に手がいってしまいます。さすがに鼻の変形にはご家族の気持ちも変わって胃瘻を造りました。その後はミトンを使うこともなく、顔もきれいに治りました」
安全のためとはいえ、抑制せざるを得ないナースの気持ちはどうでしょう。

「患者さん本人もつらい表情をされますが、抑制する看護スタッフもつらいんです。患者さんが嫌がって動きますよね、その時に圧迫や摩擦で皮膚剥離を発生させてしまうこともあります」と江田さん。 安楽なケアを提供するはずの看護の行為によって患者さんが傷ついてしまうというジレンマは、ナースのモチベーションにも大きく影響するということでした。

Quality of Deathを高めるためにナースができること

ここで水野先生から新しい概念が示されました。 Quality of Lifeならぬ QOD=Quality of Death。苦痛のない穏やかな死の質。看取りに至るまでのケアの質、といってもよいのかもしれません。

「回復期にあり、胃瘻をうまく使って食べられるようになる人にとってはQOLの改善という視点を持てる。しかし全身機能が低下してリハビリもできない方にはQODをより良いものにと目指すことが、ナースにとって非常に重要になるのではないか」との真田弘美先生の言葉を紹介されました。 褥瘡ができることや抑制をすることが、このQODに反することは言うまでもありません。
「先ほどの経鼻チューブ挿入の苦痛からの解放という意味では、胃瘻を活用した栄養療法もQOD向上に貢献するのではないでしょうか」と水野先生。

お母様を亡くされた市川さんは、「経鼻チューブから胃瘻に変えるために転院したのですが、造ることができず経鼻のまま亡くなりました。娘という立場では、食べられなくなったら寿命と私は考えるけれど看護師の立場に立つと、患者さんにそうは言い切れないし。人間らしさを保ちつつ看取りを考えなければならないのが慢性期病棟のナースです」と胸の内を聞かせてくださいました。
江田さんからは、担当した患者さんのQODを考えさせられた事例について。 「経口摂取回復が難しい方だったので、食べやすく飲み込みやすい食事形態に工夫していました。でも、ご本人はそれが不満なんです。米粒が食べたい、とおっしゃって。その希望を何とか叶えてあげられないかと嚥下評価をやり直してもらい、工夫をしてトライしてみたのですが…発熱してしまいストップ。でも主治医からは、本人の希望によって食べたいというものを食べて万が一亡くなったとしても、QOD的にはそういうあり方もいいのでは、いう言葉をかけてもらいました」。
この思いを医師と共有できることは、自身が思い描くQODを支える看護ケアを実践する上で、とても心強いとみなさんうなづいていました。 胃瘻と経口摂取を併用しているケースとして「STが介入して嚥下評価をしながら、1食のみ経口摂取の方がいます。1食でも食べられたという患者さんの満足を得ることができれば、若い看護師たちもモチベーションを上げていけるように思います。在宅でも同じではないでしょうか」 と星野さんは言います。

現場のナースから意識改革を

辻さんは、経管栄養管理を実施している中で、「嘔吐や下痢を繰り返す方がいて、2時間以上同一体位をとっていることがあります。また、胃瘻チューブは液漏れによる皮膚トラブルがあり患者さんの苦痛が続くことがあります。栄養剤の検討など慢性期病院でも出来ることはないか課題として、取り組んでいます」と、慢性期だからこその安楽なケアの提供を模索しています。

水野先生は「経鼻であれ胃瘻であれ、あるいは経静脈であれ、経管栄養療法の正しい適応、明確な目的をもって実施されるならば、QOLの向上にもQODの向上にも有用です。

回復のため、緩和のため、そのどちらを目指すのかをはっきりさせることで、必然的に栄養剤の選択や投与方法も変わってくるはず。そして、その判断や決定にあたって今後はナースからの意見が重視され、慢性期医療の主役はナースになるはずなのです」と力をこめます。

終末期における経管栄養が、適正な緩和ケアの一環として行われる場合、近年のマスコミ報道で飛び交った「無駄な延命のための経管栄養」などにあたらないことは言うまでもありません。

慢性期を支える緩和ケアのための栄養管理、QODというキーワードを通して、医療スタッフの意識改革を進めてゆくナースの役割は、今後ますます大きくなってゆくことでしょう。
参考:参加者担当部署における経管栄養の実施状況(数字は2015年3月17日現在のもの)
・若杉病院
入院患者は要介護度3-5の高齢者が多い。経管栄養は胃瘻・経鼻合わせて140人ほど。
一般病床の経管栄養は胃瘻、経鼻合せて30人ほど。
・夫婦石病院
介護療養型病棟の8名が胃瘻 障害者病棟では60名ほとんどが胃瘻だが、特に大きなトラブルはない。
・牟田病院
医療療養型病床の経管栄養は44名、うち35名が胃瘻。
介護老人保健施設ひいらぎ(利用者54名、要介護度は平均3.2)では利用者の2割程度までは胃瘻の方も受け入れる方針。
一番多い時で9名、現在は4名。経口摂取回復後も胃瘻を残している人1名。経鼻の方は受け入れていない。

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