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今日から役立つ!口腔ケア実践講座 食べられる口づくり 最終回 あなたが行っている口腔ケアの意味は、何ですか? 「口腔」へのアプローチは「すべて」をつなぐ

口腔ケア投稿日時-(2015-07-15)ナースマガジン

一言で「口腔ケア」といっても、療養者の身体の変化、住まい環境の変化、介護力の変化など、療養生活のステージにより「口腔ケア」に求められる目的や内容は異なります。
したがって、単に目の前にある状況に対応するのみでなく、連続した療養生活の全体像を意識した上での「今」の関わりが必要になります。

本稿の最終回では、入院・在宅そして看取りまでを経験された宮﨑家の連続した療養生活を、ご家族の介護経験から「口腔ケア」という切り口で報告していただきました。

ZERO 認知症介護で芽生えた口への関心と不安

1997年、祖母(79歳)に認知症状が現れ始め(図・①)、本人による「歯磨き」はいい加減になってきました。
私達家族は、口腔ケアを含む自立度が下がっていく祖母のケアを受け入れるためには、「悪臭と不潔さの排除」が必須と感じ、口の中に関心を持つようになりました。

最初のトラブルは、虫歯の進行、歯折による義歯の不適合でした。
義歯の作り直しをしたものの、祖母が受け付けず、使うことはできませんでした。それでも食べることへの意欲が高い祖母は、残った歯や舌を上手に使って食べていたものです。食べやすい食形態への変更は、家族が取り組みやすいサポートでした。

しかし認知症介護に疲れていた家族は、口腔ケアまで気持ちが回りません。手入れが行き届かず、口腔トラブルを何度も繰り返しました。
特に、虫歯が進んだ奥歯がぐらつき、「寝ている間に折れて誤飲し、突然重大なトラブルが起きるかもしれない」という不安がありました。

1ST stage  口腔ケアで味覚機能に気づく

2008年、脳出血で入院(図・②)した祖母(90歳)の口腔内は、乾燥した痰がこびりついている状態でした。看護師さんの口腔ケアに加え、家族もスポンジと水で毎日丁寧にケアを行い、良い衛生状態を取り戻すことができました。

しかし、口腔ケアは家族にもできるケアですが、危険と効果の境界線が分からず不安でした。やる以上は勉強しておけばよかったな、と後悔した点です。
経鼻チューブを入れられていた物言わぬ祖母でしたが、それを不快に思う意思とチューブを抜こうとする体力はありました。そこに嚥下機能と味覚が加われば、祖母は再び味わうことに生きがいを見いだせるかもしれません。

「唾液でむせてはいない、では味覚は?」と、試しに口腔ケア用スポンジにリンゴジュースを含ませてケアをしてみました。
祖母は、水の時とはまるで違う反応で、「待っていた!」という様子でスポンジを吸いました。
この瞬間、どんなに大変でも、在宅での摂食嚥下リハビリを家族が中心になってやっていこうと決意しました。そして祖母に不快感を与えずに必要な栄養を確保できると考え、胃瘻栄養を選択しました。

「肺炎を起こさせない」ケアを目指す

入院から2カ月を待たず、祖母は片麻痺、脱力状態で退院(図・③)しました。
私達は、全介助、要介護5の祖母のリハビリを引き受けるために、考えを整理しました。

⑴ 誤嚥は起こるもの

⑵ 誤嚥が起きない環境を整える
⑶ 誤嚥をしても肺炎にならないようにする

つまり、「肺炎を起こさせない」ことが何よりも重要と位置付けました。
なぜなら、肺炎になれば医師による治療が必要になり、場合によっては命にかかわります。少なくとも嚥下リハビリは中断になります。これは絶対に防ぎたいことでした。

まずは安全な姿勢を整えることを考え、ベッド上ではなく車椅子に座って行いました。食卓に行き、足元に箱を置いて足の位置を固定し、様々なクッションで体を支えて、前かがみの「食べるための自然な姿勢」を毎回作りました。
これは、大変であっても肺炎を起こさせないためには重要なことでした。
さらに、誤嚥性肺炎を起こさないよう清潔な唾液であることにもこだわり、毎回、必死で完璧な口腔ケアを行いました。
その結果、祖母は不安定な時期を見事に乗り越え、摂食嚥下力は2か月後には安定し、筋力の回復に伴い姿勢を保つクッションの数も激減しました。

退院後10カ月頃のこと、「麻痺があるのに上手に飲み込めている(図・④)ってどういうこと?」と、その実態を確認したくてVE(嚥下内視鏡)検査を実施しました。
すると、誤嚥の疑いは否定できない(誤嚥はしている)が、悪いことは起こっていない(ADLは低下していない)ことが分かりました。

咽喉の反射力保持が重要なので筋力保持、刺激保持のためにも咽喉を使い続けることがポイントになるという結論を得ました。
これまでのケアに対する考え方の正しさが、証明されたのです。

2nd stage 口腔ケアの方向転換

退院から1年たった2009年の秋、家族の疲労は限界に達していました。
私達は「精一杯のケアによる素晴らしい成果を得て、とても満足している」ことを丁寧に振り返り、積極的な機能回復ケアから、質の高い生活ケアに方針転換をしました(図・⑤)。
日々老いていく91歳の祖母の、ゆっくりと看取りに向かう道を、家族は静かに選択したのです。そして移住を決め、2011年、新しい土地で地域の医療・介護従事者たちと、祖母の在宅看取りのためのケアチームを再結成しました(図・⑥)。

新しい暮らしの中でも、歯のトラブルは続きました。歯が折れやすくなり、咬合が崩壊し唇を噛みこむため、歯肉の炎症が治癒しなくなりました。残存している歯が凶器となってしまったのです。
そこで口腔外科を受診し、残っている歯を抜きました。術後の消毒のため、歯科衛生士の訪問が始まりました。
その後は衛生指導のみならず、食形態、調理法、マッサージ等アイデアを出し合いながら、楽しくケアを行いました。とても上手くいっていたのですが、2012年2月頃から、本人の心身の様子に変化を感じました。

「食べたいという欲求、味わいたいという欲求が消失してきたのでは?」 
祖母と毎日接している家族は、専門職よりも先に看取りを意識し始めました。

3ST stage  旅立ちにつなぐ口腔ケア

祖母は次第に食べることが大変そうになり、痰の吸引も必要になってきました。
“食べる喜び” という祖母にとって重要なQOLを守るためにこそ胃瘻栄養の併用をしてきましたが、本人のQOLを満たすキーワードから「食べる・味わう」が外れました(図・⑪)。

胃瘻を使う目的の再検討、再設定が必要になり、検証するための取り組みを行いました。

⑴ 服薬の必要性、重要度を見直してみよう(減薬、中止、剤形の変更)
⑵ 体力を奪う程の栄養提供をしていないだろうか?(摂取カロリーの減量)
⑶ 本人の食べる意欲、味わう意欲の確認をしよう(口腔ケアによるモニタリング)

これらのプロセスから、健やかな衰弱状態にあると結論付けました。つまり医療的ケアは不要ということです。
胃瘻の使用も中止にしました(図・⑫)。
祖母にとって絶食状態は飢餓状態ではない、という前提に立っての判断です。
それを確かめるためにも、栄養中止後も口腔ケアを通した確認、モニタリングは続けていました。
役割を終えた胃瘻をつけたままの祖母でしたが、口腔ケアを通して、老衰による自然な看取りという本人の望む生き方を実現することができました(2012年4月6日永眠。享年94歳 図・⑬)。

すべてを振り返ることができる今、介護が始まったと感じたその時から「プロによる口腔ケア」を依頼しておけばよかったのだな、という思いが残ります。
トラブル発生時に歯科医師の介入によって解決されると、安堵して「いまさら予防を導入しなくても…」と、歯科衛生士の介入を望みません。
ところが、大変な苦労をした部分のきっかけは、すべて口腔ケアの予防が入っていれば回避できたことでした。口腔ケアによるトラブル予防の価値は、とても大きいと実感しています。
さらに、口腔内が過敏である場合は別として、口腔ケアは最期まで家族が参加できるケアであり、グリーフケアの側面があることも見落として欲しくない視点だなと思います。
「口腔へのアプローチは、すべてをつなぐ」と言えるのではないでしょうか。

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宮﨑  詩子(みやざき・うたこ)
人形作家としての創作活動と並行し、15年にわたる祖母の在宅介護から自宅での看取りまでの取り組みを、「楽しいおうち介護」と称し、ホームページや講演を通して紹介。
2013年、自らの家族の体験を綴った「老いを育てる 在宅介護のエトセトラ」を医薬経済社より上梓。
患者家族対話推進協会代表。東京都在宅療養推進会議委員。
株式会社メディパス コンサルティング事業部マネジャー。

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 監修 

医療法人社団コンパス
理事長/歯科医師

三幣 利克  (みぬさ・としかつ)
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※コンパスデンタルクリニックパンフレットより改変引用

「口腔ケア」を通して、食べる意欲の確認や嚥下機能、味覚機能のレベルを家族や関係職種と確認し合いながら行ってきた宮﨑家の対応から、
「口腔ケアとは大切な生活機能のモニタリング活動である」と教えられます。

私たち医療者は、臨床研究・看護研究で生活機能のモニタリング活動としての「口腔ケア」の知見をたくさん積み上げていくことで、多くの療養者やご家族の抱える不安を解消することにつなげられるかもしれません。
あらためて、看護師の皆さんが日々口腔ケアに取り組まれるとき、連続した療養生活の全体像のどのステージで、どういう意味を持ち、どのような内容で行われているか、を常に意識して頂きたいと思います。

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