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看護・医療 しゃべり場 インタビュー編「胃瘻はまさに『お腹のお口』」その2

投稿日:2016.07.02

平成17年10月に開設された社会福祉法人小羊学園「つばさ静岡」は、重度心身障害をもつ児童および成人を、短期を含む入所と通所の両面から支えている施設です。

今回私たちは同園をたずね、重症心身障害児・者にとっての胃痩の意義を、介護者(お母さん)・小児科医・看護師の皆さんに伺いました。(文中敬称略)

今度は、医療スタッフの方々に伺いました。

写真右から
浅野一恵先生(小児科医師・医務部長)
小杉百合子先生(小児科医師)
鈴木貴子看護師(入所担当)
鈴木麻純看護師(通所担当)

前向きに生きるためのステップとしての胃瘻

施設内の医療スタッフは、お母さんたちがお子さんの食事を大切に思っている気持ち、本人の食べたいという欲求、誤嚥による生命のリスクなどがわかるだけに、嚥下機能が低下していくお子さんの食事介助には葛藤があるようです。

家族と同じ食事をおなかのおロから

経鼻チューブより太い胃痩チューブからは、家族と同じ食事をミキサーにかけて入れることができます。
つばさ静岡では、これまで障害児にとって食事は大切な時間と考え、障害を持っていても安全に食べることのできる食形態の開発や、食事姿勢などに取り組んできました。
一方で、生まれつき食事を摂れないお子さんや経口摂取が困難になった方にも、食事を楽しんでほしいとの思いから、胃痩から食事を摂れるようにと加工したのが「胃痩食」。
胃痩から注入してもスムーズに入るようにペースト状にして提供しており、在宅のお母さんたちにも身近な食材を使って作る指導をしています。
再び家族と同じ食事を一緒に分かち合えるようになった喜びは、胃痩に納得する気持ちにつながっています。
浅野 お母さんたちは食事を楽しいコミュニケーションの時間ととらえ、とても大切にされています。しかし、嚥下機能低下により食べる量がだんだん足りなくなってしまったり、食べることが原因で熱を出したり呼吸が苦しくなってしまうわが子の苦痛を目の当たりにしたときに、胃痩を決断していくケースが多いように感じます。
どのお母さんもわが子に楽しく豊かに過ごしてほしい、けれども苦痛は味わってほしくないと願っているのです。

小杉 胃痩にすると、口から食べることができなくなると考えている方には、好きなものを味わう楽しみはある、ということを伝えています。
その子なりの楽しみ、人生があることを理解した上で、前向きな気持ちで胃痩を選択してほしいですね。

鈴木(貴) 胃痩を造っても、「まだ食べられたのに」というお母さんの思いは簡単に消えません。
お楽しみで自分の好きなものを上手に食べている日常の食事の様子を伝えながら、月日を重ねるしかないのです。
全部が全部マイナスなわけではないということを実感しながら、少しずつ胃痩を受け入れていくという感じです。
これは、胃痩を造る前に受け入れてと言っても、難しいことだと思います。

鈴木(麻) 胃痩から必要な栄養や水分が入ると、体調が良い状態で維持できるようになり、笑顔や表情が出てきます。自分の個性を発揮できるようになったことを、どの人を見ても感じます。

鈴木(貴) チューブタイプしか知らなかった時は、「こんなの付いてたら腹ばいなんて無理だよね」という話をしたのを覚えています。
MIC-KEY バルーンボタンを実際に見て「こんなに小さいのなら胃痩にしてもいいかなあ」というお母さんも出てきました。
でも、ボタンが小さいとはいえ多少の厚みはあるので、腹臥位になってもボタンでお腹がこすれないよう、厚みに合わせてウレタンスポンジを丸く切り抜き、お腹に当てています。

小杉 腹臥位マットを使う方も、ボタンがあたる部分はマットをくり抜いていますよね。

胃痩からこんなに食べられる

胃痩からの胃痩食注入について、医療スタッフとしての思いをお聞きしました
鈴木(貴) 胃痩食は、「今日のメニューはね〜」と話しかけ、食べているときも「今日はこれ、おいしそうだね」「見て、これ飾り付けがきれいだね」と、話が広がっていくので、関わりが増えますね。

浅野 お母さんが「胃痩になってしまったね」と悲しむ姿は、お子さんに伝わってしまいます。
「胃痩からこんなに食べられるようになったね」と前向きに声をかけ、食事として受け入れていく、そういう姿勢の下でお子さんがさらに成長していけたらと願います。

鈴木(麻) 胃痩から入れるときにおかずを見せると、すごく興味を示します。食べるときと同じように匂いを楽しんで「どれから食べる?」と訊いてからシリンジにとって入れています。
自分の好きなものだと表情が変わるんです。そばに置いてあるお椀を手に取ろうとしたり、口に手を持っていって食べるようなしぐさをすることもあります。

浅野 参加者同士の交流の場でもある料理教室では、施設スタッフが胃痩食の調理方法などを紹介し、その彩りや香りを感じながら自分で選んだものを胃から食べる方法があることをお話しています。
いつかは胃痩になるだろうと不安に思っているお母さん方にも、胃痩や胃痩食を活用していきいきと豊かに生きられることを知って欲しい、第二のステップとして胃痩を選択し、幸せに生きている姿をみて欲しい、と思って企画したのです。

以前、胃痩を受け入れられず、日常生活にも無気力になってしまったお子さんがいました。
ご家族も気兼ねをして隠れて食事をしていました。でもいろいろなメニューの胃痩食を取り入れてみたところ、その中から自分が食べたいものを選び、「これもっといっぱい入れて」などの表現をしながらのやり取りが、始まりました

必要な人には適切に胃痩造設が行われるように

胃痩を取り巻く現状に対する課題をうかがってみました。

浅野 昨今の、個別の適応を考慮しない胃痩無用論には疑問を感じます。
小児医療では、苦痛なく豊かに生活するために胃痩が必要な人もいるのです。胃痩が必要な人まで経鼻栄養やCVポートで過ごすことは、制限の多い生活につながってしまいます。
本人にとって何が苦痛で、それを軽減するために何が必要なのかが、もっと議論されてもよいのではないでしょうか?
胃痩は第二の口。そのような方に対する適応や有用性を、病態別にもっと明確にしていってほしいですね。
鈴木(麻) 胃痩を造って胃痩食をとりいれている人は、本当に元気になって笑顔が増えたのが印象的です。
臨床的適応があり必要な人には誰にでも造れるようになってほしいと思います。

社会福祉法人 小羊学園 つばさ静岡

〒420-0805
静岡市葵区城北117
TEL:054-249-2830
協力:ハリヤード・ヘルスケア・インク

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