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看護・医療 しゃべり場「透析+訪問診療で生活全般をバックアップ」

投稿日:2020.07.10

今回は、1992年に透析クリニックとしてスタートした医療法人社団良優会 駒沢腎クリニックで、長年看護部長として勤務された伊藤真智子さんをお訪ねしました。

定年退職を迎えた伊藤さんに、開業当初から共に歩んできた透析患者の高齢化への取り組みや、今思っていることをおうかがいしました。

透析&在宅医療で生活全般を見守る

1992年、開設当初は透析クリニックとしてスタートしました。診療をしていく中で、他疾患や認知症状などにより生活全体の支援が必要な方からの医療相談も寄せられるようになりました。
そこで1998年より訪問診療を開始、介護保険制度の創設を機に訪問看護ステーションとして居宅介護事業や訪問看護事業を提供してきました。
しかし2006年に閉鎖となったため、当院の患者を中心に、診療所からの訪問看護を実施する形態に移行しました。透析医療に加え在宅医療を行っていることは、当クリニックの大きな特長です。
現在、患者の年齢層は20代から90代まで幅広く、クリニック開設当初から透析を受けている方も。患者・家族の高齢化により相談内容も多岐にわたり、訪問診療のニーズは高まっているといえます。
私たちが心がけているのは、患者・家族を支え、希望をできるだけ叶えることです。
患者・家族が何を望んでいるかを把握するためには、信頼される人間関係を築くことが大前提。困ったときに何でも相談できる関係が築けないと、家族は遠慮して悩みを相談してこないですから。
透析患者宅を訪問すると、クリニックでの会話では見えない生活全般や食事状況の細かな部分が見え、食事についての的確なアドバイスにもつながります。そのためには、透析に通っているすべての患者さんのお宅を訪問したいくらいです。

おいしく食べて継続できる栄養療法を

栄養療法は日本腎臓学会の指針に基づき、食事箋〔指示エネルギー、タンパク質等が記載)、検査データ(BUN、カリウム、リンなど)、体重変動などを確認しながら行っています。
看護師が栄養指導も行ってきましたが、栄養士会が栄養士を派遣する制度ができたので、これからは複雑な栄養指導をする際には栄養士との協働も考えています。栄養療法は薬物療法のように即効性がないため、継続をサポートすることがポイントなのです。

近年は透析膜や透析機器が進歩したため、「しっかり食べて、しっかり透析」が透析医療の基本です。
特に高齢者に対して「あれはダメ、これもダメ」では食べるものがなくなってしまい、低栄養に陥りやすくなります。エネルギーは足りていても、タンパク質やほかの栄養素が不足していることも少なくありません。

保存期患者では、腎機能を維持しつつ体力が落ちない食事を工夫する必要があります。また、エリスロポエチンを使って貧血を予防・改善すると、活動的に生活でき、予後のよい方も多い印象があるので、多方面からのアブローチを考えます。

最近、患者からの相談で多いのは便秘です。透析患者は飲水量が制限されているので、気にしすぎて水分不足になりがちな上、高齢になるにつれ活動量が少なくなり、さらに便秘になりやすいといえます。
しかし安易に便秘薬を使うと逆に下痢になって脱水症を起こすこともあるので、使用は慎重になります。薬に頼る前に、食物繊維による便秘対策として料理に混ぜて使う粉末寒天の利用もお伝えしたりしています。

訪問看護師の力量は引き出しの多さ

透析高齢者では、ビタミン・ミネラルが不足していることが多く、不足を補おうとしてサプリメントを飲んでいる方も多いようです。
食事内容は特に変化がないのに、ある検査値が上昇しているので、よくよく話を聞いてみると実はサプリメントを飲んでいた、ということもあります。
食品で不足している栄養素を補うためのサプリメントは、正しく使えば有用ですが誤った使い方をすると体に害を及ぼすこともあります。
正しい利用法を指導するため、当院では院長も含め3名がNR(栄養情報担当者。現在は、NR・サプリメントアドバイザーに改称)の資格を取得しています。
また、かつては働き盛りの患者が日中は時間が取れないために、夜間自宅で透析する方法として選択することが多かった腹膜透析(CAPD/APD)も、近年患者層に変化が見られます。
在宅で透析ができる、自由な時間がもてるなどの理由で、高齢者で腹膜透析を行っている方も増えてきました。

当院では80歳を超えて腹膜透析をしている方もいます。中には、旅行に行ったり、山登りをしたり活動的な生活を送ってQOLが上がり、私たち医療者が腹膜透析に対する認識を改めたケースもあります。
的確かつ柔軟な助言と指導により、家族は成長し多くの気づきを得ます。
たくさんの情報の引き出しを持つことが、訪問看護師には求められているのだと思います。

そして患者さんとの関わりが長くなると、お看取りも回数を重ねるようになります。ご家族も含めてその心構えや負担の少ない介護を一緒に考え実践してきました。
人間の尊厳を大切にした空間で、それぞれの思いの詰まった看護現場がそこにはあり、いつしか「最期は好きなように死なせてあげたい」と考えるようになっていました。若い頃には絶対に言えなかった言葉ですが、患者さんの旅立ちのお支度を整え、「いつかまた会いましょう」と話しかける事が多くなりました。私自身も年を重ね、いつか自分も同じ所へ行くのですから。

自分や家族を取り巻く状況も世の中の動きも日々変化し、それが退職を迎えた私の背中を押しているようです。「これがダメならこっちがある」と言える私を作ってくれた仲間たちに感謝しつつ、今はその風に押されてみようかな、という心境です。
それもまた私の引き出しの一つにしたいと思います。

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