1. ホーム
  2. コラム
  3. タクティール®ケア 第一回 【術後せん妄症状の緩和】
タクティール®ケア第1回

タクティール®ケア 第一回 【術後せん妄症状の緩和】

第一回 術後せん妄症状の緩和

今号から、タクティールケアを理解し看護の現場で活用していただくための連載が始まりました。
今回のテーマは術後せん妄症状の緩和。物や薬に頼らず手を使って相手の背中や手足をやわらかく包み込むように触れるタクティールケァの実践例を通して、看護の原点を見つめ直してみませんか?

治療を支える安心と信頼

近年、褥瘡対策が「治療」から「予防」ヘシフトしているように、術後せん妄対策も「鎮静」から「予防」の時代になっています。術後せん妄発症は様々な要因が関与していますが、入院による環境の変化、不安などの誘発因子を減らすことも予防につながります。術後の様々なリスクを抱えた状態で合併症を防ぎ、ベストな治療の環境を作るには、患者さん自身の置かれている状況と治療の流れを理解し受け入れていただく必要があります。そこには安心と信頼が欠かせません。
麻酔からの覚醒時、そばに誰かがいてくれることを感じられたら安心ですよね。覚醒時が難しければ病室に戻ってバイタルサイン測定のタイミングでもよいので、手のタクティールケアを行ってみてはいかがでしょうか。夢見心地から現実の世界におぼろげに覚醒してくるときに、お互いの手が触れ、手のぬくもりを感じ合う心地よさがあります。そして意識が戻ったとき、「大丈夫ですよ、目覚めましたか」という声が聞こえてきたら、さらに安心です。人は、安心してこそ他者の話を聴く態勢ができます。そこでしっかりとコンタクトをとりつつ「今ここに点滴が入ってますよ」と一つ一つの状況を説明してゆけば、大きな不安を感じずに自分の状況を受け入れられ、不安に誘発されるせん妄症状も現れにくいと考えます。

しっかり向き合えているか

私の父の話になりますが、96歳の時に硬膜下血腫の緊急手術を受けました。術後覚醒時、全身の身体抑制を「取ってほしい」と訴えてきました。許可を得てゆっくり説明しながら抑制を解き、手のタクティールケアをさせてもらいました。父は次第に穏やかな表情になって周りを見渡し、私のことを娘だと認識した後、自分から現在の状況を尋ねてきました。順を追って、どうしてここにいて、なぜ点滴をされているのか説明をしました。それがわかった後は、ぐっすり眠れたようです。

しかし、後日訪問した時は、いわゆる「迷惑行為」が見られたとのことで抑制やセンサー管理が行われていました。加齢による多少の物忘れはあるものの、病的な認知障害はなかったのですが、病院からは「認知症が悪化するからこれ以上病院にいない方がいい」と退院を促されました。この時もタクティールケアで落ち着きを取り戻し、車いすに乗ってトイレを済ませ、手土産を出せば「お前も食べろ」と今までのような気遣いも見せてくれた父。そんな本来の父に向き合うまでの1つ1つの手順がカットされ、高齢者=認知症とひとくくりにして父という一人の患者を診ていただいていなかったような気もします。

タクティールケアが教えてくれたこと

「でも、そんなゆっくり触れる時間なんて、私たちにはありません!」という声が聞こえてきそうですね。しかし、不安に誘発されるせん妄で点滴を抜いてしまったら、針を刺し直さねばなりません。
患者さん本人がまた辛い思いをしますし、スタッフの仕事も増えます。新しい点滴セットを用意しなければいけませんから、医療費にも関わります。
かつて「最初の研究計画でその研究の約8割が決まる」という教えをうけましたが、タクティールケアも同じです。術後、スタッフ同士で協力して患者さんに向き合う最初のケアの時間を20分ほど作ることで、予後が変わるかもしれません。
術後せん妄は当たり前ではありません。どうしてせん妄が起こるのかを考え、タクティールケアを通して患者さんの不安を和らげ、何故その治療や処置が必要なのか、そのために医療者がこれから何をしたいのかを伝えることは双方にとって大切なことです。タクティールケアは、私たちがなすべきことをできるよう、心の扉の開き方を教えてくれているのです。
またはこちらからクリックして下さい
→ホームページ
 http://jsci.jp/


※タクティール®ケアの「タクティール」は株式会社日本スウェーデン福祉研究所の登録商標です。
※本文中の®記号は省略させていただきました。

参考:公益財団法人長寿科学振興財団 健康長寿ネット 術後せん妄とは
 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/kango/jutsugosenmou.html

このコンテンツをご覧いただくにはログインが必要です。

会員登録(無料)がお済みでない方は、新規会員登録をお願いします。



他の方が見ているコラム