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髙﨑 美幸先生の胃瘻(PEG)ケアコラム第5回

第5回 胃瘻コラム

今回は、胃瘻の合併症及び実際に栄養投与が始まってからのトラブルについて考えてみたいと思います。


⑥胃瘻造設後に起こるトラブル
経管栄養は経静脈栄養に比べて重篤なトラブルは少ないとされているが、胃瘻は経鼻胃管と異なり外科的手技によって栄養管を挿管するため、経鼻胃管にはない特有の合併症も有する。栄養剤の選択、投与速度以外の因子で起こる、胃瘻の合併症について考えてみたい。経内視鏡的胃瘻造設術(以下PEG)の合併症を考える時、論文検索より、術後3週間(瘻孔完成前)以内に発生するものを「前期合併症」、4週間以後(瘻孔完成後)に発生するものを「後期合併症」と区分することとした。


(1)前期合併症
A.感染性合併症①創部感染 ②嚥下性呼吸器感染症 ③短期発熱 ④汎発性腹膜炎 ⑤限局性腹膜炎 ⑥敗血症 ⑦壊死性筋膜炎

B.非感染性合併症
①事故抜去 ②チューブ閉塞 ③嘔吐 ④胃壁損傷 ⑤バルーンバースト ⑥再挿入不能 ⑦創部出血 ⑧皮下気腫 ⑨肝誤穿刺 ⑩腹壁損傷 ⑪噴門部裂傷 ⑫胃潰瘍

(2)後期合併症
①栄養剤リーク ②嘔吐回数増加 ③誤嚥性肺炎(胃食道逆流・不顕性誤嚥) ④再挿入不能 ⑤胃潰瘍 ⑥チューブ誤挿入 ⑦バンパー埋没症候群 ⑧幽門通過障害 ⑨胃-結腸瘻 ⑩下痢・便秘 
以上の合併症のうち、栄養管理の面で注意すべきは、発生頻度が高く、患者の生命予後を左右する、嘔吐・逆流と肺炎の問題である。

【日常的な合併症対策】
1.逆流
①滴下速度を遅くする。
②滴下終了後、すぐに横にせず、できるだけ長く座位とする。
③体動を制限する。
④脂肪の少ない組成の栄養剤に変更する。⑤薬剤で、エリスロマイシンの少量投与や六君子湯の食前投与を試みる。
                  ↓

   以上の方法で逆流の改善しない場合
   (1)PEJの適応
   (2)栄養剤の固形化の検討


2.栄養剤のリーク
(1)ボタン型の注入口から逆流する場合
ボタン型の逆流防止弁の不具合を疑い、カテーテルの交換を行なう。

(2)栄養剤注入直後から漏れる場合
栄養剤注入時に抵抗があり、しだいに注入速度が遅くなる場合はバンパー埋没症候群が疑われる。

(3)チューブの横からもれるタイプ
 原因は不明である。

*チューブを太くしても効果はない。 
*再PEGで2箇所以上に胃瘻を造設すると胃の蠕動運動が低下し、逆流を起こしやすいくなる可能性がある。 
*体外固定版とバルンの距離を調節し、チューブが垂直になるようにして、体外固定版を皮膚に水平にテープで固定する。それでも改善しない場合は、 チューブを一時抜去して、時間をおいて再び挿入する。これを漏れがなくなるまで繰り返す。=一時的に効果があるが、再び瘻孔が拡大しリークが再発する可能性高い。  
             ↓
    栄養剤の固形化の検討


3.胃瘻に合併する胃潰瘍
チューブ先端が胃壁に接触することにより発生する。胃瘻チューブからの出血で気付くことが多い。

*バルンから先のチューブの突出が長い(5mm以上)カテーテルほど潰瘍形成が起こりやすい。
*通常のバルンタイプの胃瘻チューブでも潰瘍が発生する場合は扁平バルンに変更する。

4.チューブの閉塞
チューブ内の細菌繁殖や投与薬剤が影響する。予防法としては、栄養剤注入後に微温湯でよくフラッシュする。酸化マグネシウムなどつまりやすい薬剤もあるので、処方の変更も考慮する。閉塞の原因となる細菌の繁殖を防ぐため、栄養剤注入後に酢酸液(酢酸を10倍に薄めたもの)をカテーテルに充填する方法がある。


*酢酸液の充填は、酢酸液を通すだけでは不十分で、チューブ内を酢酸液で満たしておくことがポイントである。

5.胃内バンパーによる通過障害
チューブ型のカテーテルを使用している場合、特に尿道バルンカテーテルなど外固定板がないチューブを代用している場合は注意が必要。カテーテル先のバルンが幽門や十二指腸に嵌頓し、イレウス状態となり、嘔気嘔吐をきたす。糸やテープでカテーテルと外固定板を固定したり、外に出ているチューブの長さが常に一定になるように印をしておく。


6.瘻孔のスキントラブル
①孔周囲の皮膚炎
②瘻孔の不良肉芽形成
③創部感染
④外部固定板の圧迫による皮膚障害


≪表1 合併症に対する基本的処置対策≫
【注意すべき重篤な合併症対策】

1. カテーテルの誤挿入    
胃瘻の瘻孔は、特に初回交換時で腹腔に迷入しやすい。誤挿入があると通常は栄養剤注入時痛みを訴えるが、意識障害のある場合は見逃す可能性がある。気づかずに栄養剤を注入すると腹膜炎を発症する。当院の胃瘻交換では、内視鏡を使用し、確実に胃内に留置されていることを確認している。

2. バンパー埋没症候群内固定板(バンパー)の圧迫により、胃壁に血流障害が発生し、壊死をおこし、内固定版が胃壁、腹壁内に埋没する合併症である。   

カテーテルをくるくるまわし、内固定版が胃内にあること、内固定版と外固定版の間の長さに余裕のあることを確認する。バンパーが胃壁内に埋没すると、栄養剤の注入速度がしだいに遅くなり、胃壁内に注入された栄養剤が、栄養剤注入直後から瘻孔より漏れることで気付かれる。進行すると、しだいに注入に抵抗を感じるようになり、やがて完全に閉塞する。栄養剤が腹腔内に漏れると汎発性腹膜炎を発症し、重症となる。

バンパー埋没症候群が発生した場合は、カテーテルを摘出し、違う場所に再度胃瘻造設するのが基本であるが、ゾンデなどで小さい瘻孔が確認できれば、在宅でも内視鏡下で細径の胃瘻チューブを使って再造設ができる場合がある。  

*ボタン型バンパー型を長期に留置している患者が、急な体重増加により腹壁が厚くなった時などに発生しやすい。  

*過度な肥満にならないように栄養管理を行うこと、ボタン型バンパー型の場合、常に瘻孔の長さを測定し、適したサイズを選択することが予防策として重要である。


3. チューブ再挿入困難     
事故抜去時は時間がたつと再挿入が困難となるので、事故抜去発見時に家族に再挿入する手技をあらかじめ指導しておく。 発見が遅れ完全に閉塞した場合は、胃瘻を再造設するしかない。


4.胃結腸瘻      
胃瘻造設時結腸を貫通して、胃内にカテーテルが留置され、気づかずに使用した場合に発生する。初回カテーテル交換時に、先端が結腸内留置となるため、栄養剤注入直後から激しい下痢をおこす。カテーテル抜去のみで解決する場合と開腹手術が必要な場合がある。予防はPEG造設時に指の圧迫などによって充分に位置を確認することにつきる。  



≪表2 重大な合併症の予防と治療まとめ≫
⑦栄養剤投与時のトラブル
(1)誤嚥性肺炎(胃食道逆流・不顕性誤嚥)
経腸栄養施行の際の栄養管理上、最も高頻度で重篤な合併症は、嘔吐や胃食道逆流、あるいは不顕性誤嚥による肺炎である。

*高齢者の場合は、食道裂孔ヘルニアを合併していたり、下部食道括約筋
(LES:lower esophageal sphincter)の機能低下があるため、胃食道逆流を発症しやすい。
*嚥下機能が著しく低下した症例では、経口摂取を行っていなくとも、唾液とともに口腔内のプラークなどを誤嚥し、肺炎を発症することがある。
*誤嚥したものが、胃内容物であるか(少量か多量か)、唾液など口腔内に貯留したものか、患者の状態などにより、治療法・予後は異なる。胃内容物の大量誤嚥を伴う場合や全身状態が不良の症例、免疫能が低下した症例などでは死亡率も高くきわめて深刻な問題で、特にメンデルソン症候群では死亡率は30%に達する。

≪表3 通常の誤嚥性肺炎とメンデルソン症候群≫
(吉田貞夫:胃瘻などから経腸栄養を行う高齢者の嚥下性肺炎―その分類と対処法の違い、ヒューマンニュートリション、2(5):10~17、2010より改変)  


【誤嚥性肺炎の予防】    
①経腸栄養ポンプを用い、20ml/h程度の少量低速投与から徐々に投与量を増加させていく(胃瘻コラム4参照)。    
②栄養剤の半固形化もしくは半固形化栄養剤の利用  


(2)下痢
経腸栄養施行中の下痢の対応で最も大切なのは、原因の特定である。


≪表4下痢の原因と対策≫
(3)便秘
悪性腫瘍、炎症、腹腔内癒着がみられるような器質性便秘の場合には、手術あるいは下剤の使用などの対処を行う。機能性便秘では、薬物の調整、食物繊維やプロバイオティクスの摂取、ストレス対策などを行う。


≪表5 便秘の原因と対策≫
(4)尿素窒素の上昇
尿素窒素が上昇する主な原因は、「脱水」と「たんぱく質の過剰投与」である。経腸栄養施行患者では、意思疎通の問題で「のどの渇き」を訴えられないことが多い。医療者側が、脱水を起こさない栄養投与量のプラン二ングとその後のモニタリングを実施する必要がある。注意すべきは、経腸栄養剤はその容量すべてが水分ではなく、標準的な1kcal/mlタイプでは、8割の水分量にとどまる点である。多くの症例では、経腸栄養剤のみの投与では水分欠乏となることを意識し、病態に合わせて必要量の水分を追加投与する必要がある。

たんぱく質の投与量に関しては、理想体重と現体重が乖離している場合が多い(主としてるい痩)ので、必ず投与量が現体重に対してどの位かの確認を行う。



(5)電解質異常A.低ナトリウム血症
経腸栄養施行時、低ナトリウム血症となる症例が多い。低ナトリウム血症の原因として、栄養剤からの塩分量が少ない場合は、適宜塩分(1g食塩を追加水に溶解)を追加投与する。治療の必要な、血漿浸透圧低下症例では、原因探索により対応方法討する。
低ナトリウム<135mEq/L→血漿浸透圧<280mOsm/L
B.リフィーディングシンドローム
長期間の半飢餓状態が続いていたケースに対し、経腸栄養を開始する場合には、慎重にゆっくりと増量する。急速に十分なカロリーを投与してしまうと、細胞内に急激にリンが引き込まれ低リン血症から多臓器不全となり、数日で生命を失う危険がある。これをRefeeding症候群といい、疑いのある場合は直ちに栄養剤の投与を中止し、血清リン値のモニタリングを行うとともに値により、リンの静脈内投与を行う。ハイリスク症例では、栄養療法開始時のモニタリングを頻回に行う必要がある。 上記のほかにも、個々の症例で難渋することがあると思われます。ナースの星Q&Aには、掲示板のコーナーで質問も受け付けておりますので、是非ご利用ください。



参考文献)
1) 蟹江治郎:内視鏡的胃瘻造設術における術後合併症の検討 ― 胃瘻造設10年の施行症例より ―,日本消化器内視鏡学会雑誌 2003; 45(8): 1267-72 2)吉田貞夫他:見てわかる静脈栄養・PEGから経口摂取へ,p66~82,株式会社学研メディカル秀潤社,2011 3)岡田晋吾、北海道胃瘻研究会:病院から在宅までPEGケアの最新技術,p16~100,照林社,2010 4)田崎亮子編:NSTカンファレンスで学ぶ実践!経腸栄養剤,p28~p45,株式会社メディカ出版,2011

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