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訪問看護ステーション訪問レポート第3回

第3回 訪問看護ステーション訪問レポート フクシア訪問看護ステーション

投稿日:2015.01.14

大田区・品川区(大井町)を中心に事業展開しているフクシア訪問看護ステーション。
今回お話をうかがったのは、看護スタッフの宮近郁子さん。
看護師歴37年のベテランで、訪問看護師としての活動は今年で19年目となる。
社会福祉士、ケアマネジャーの資格をもち、東京訪問看護ステーション協議会の理事も務める。

日常的な皮膚のトラブル

「訪問看護利用者の皮膚トラブルはかなり多いと思います」
そう話す宮近さんは、利用者の多くが高齢で栄養状態に問題を抱えている場合が多いことを要因として挙げる。皮膚再生力の弱さがトラブルを引き起こすのだ。

「褥瘡まではいかなくても、発疹やできもの、かゆみといった症状はよくみられます。夏場は汗疹も多いですねえ」
寝たきりだと発汗量が多い。寝間着やシーツによった〝しわ〞も脆弱な皮膚にとってはリスクとなる。
介護する家族にはまず「着るものを清潔に保つこと」「環境を整えること」から指導する。
寝たきりの場合、ベッド上が生活の場となる。そこで食事から排泄まですませるため、汚れやすくなる。
入浴サービスは、多くの利用者でだいたい週1回程度。それだけで清潔を保つのは困難だ。そのためヘルパーに清拭を依頼するなどしている。

限られた予算の中で

ただ、ヘルパーが皮膚トラブルの可能性を予測するのは難しい。やはり看護の目が必要だ。しかし訪問看護が入ると割高になってしまうため、介護保険の限られた予算の中では、入りたくてもなかなか入らせてもらえない。
訪問看護を導入するかしないかは、ケアマネジャーの考え方も大きく影響する。
「褥瘡ができた」「緊急入院をした」「ドクターの勧めがあった」「脱水で点滴が必要」―それらのきっかけがあると、途中から訪問看護が入るケースもある。
逆に、そういうことでもない限り〝訪問看護サービスにつなぐ〞という考えに結びつかない。
「ケアマネジャーに予防的視点があるのが理想だと思います。それがあれば、寝たきりで栄養が十分でない利用者さんの場合、〝この人には褥瘡のリスクがあるから、せめて1週間に1回でも看護を入れよう〞といった判断ができます」

ケアマネジャーも医療についてひととおり学んではいる。だが、やはり何も問題の起きていない段階―つまり予防の部分にはお金をかけないのが現実だ。かかる経費を抑えたいのは家族も同様である。宮近さんは言う。
「家族はヘルパーが来ていれば安心なんです。ヘルパーと看護師のどこが違うのか。訪問看護師を入れれば、どんなメリットがあるのか― そのことを一般の方々が知らないのは、訪問看護師自身の責任でもあります」

在宅における褥瘡のリスク

褥瘡は、十分に注意・管理できれば、ほとんどできないという。だが実際は、栄養の問題や家族の介護力の問題など、さまざまな要素が絡み完全に防ぐことは難しい。
本来、寝たきりであれば、誰かしら外部スタッフが毎日訪問して肌の状態を含めて管理していくことが望ましい。

宮近さんが、自身が担当する利用者のケースを話してくれた。
その女性はご主人と二人暮らし(夫婦ともに80代)。訪問入浴サービスを利用しているが、ヘルパーは入れていない。看護師が週2回訪問する。
CVポートの交換だけを看護師に頼み、「後はボクがやります」と夫が言っている。
この利用者はCVポートで栄養面は保たれている。そのため今のところ褥瘡はないが、いつ訪問しても全身が汗でびっしょりだという。また寝ていて呼吸が苦しくなるので、頭を少しギャッジアップしている。
すると体がどうしてもずれてしまい、寝間着の背中にしわがよる。確かにご主人はおむつ交換と気管切開部からの吸引―最低限のことはやっているが、汗の処理や着替えといった部分までは手が回っていない。
この状況ではいつ皮膚のトラブルが生じてもおかしくない。だが在宅療養の現場における同様の状況は多いと宮近さんは言う。

褥瘡はあっという間にできる

褥瘡は、いったいどのくらいの時間でできるのだろうか? 宮近さんは、自身が体験した次のケースを紹介してくれた。

70代、歩ける人だった。全身麻酔での手術後、「動いてはいけない」と思いこみ一晩中じっとしていた。すると、その一晩のうちに褥瘡ができてしまったという。
その後、歩けるようになったため治りも早かったが、宮近さんは褥瘡がこんなに早く形成されるとは思っていなかったので、驚いたという。
褥瘡は血行不良であるため、寝返りなどしないまま同一体位でいると数時間でできてしまう。この事例の場合は、医療者が体動の必要性を患者にしっかりと説明する必要があった。

別のケース。
退院カンファレンスへの参加要請があり行ってみると、患者にはかなりひどい―筋肉が見えるような褥瘡があった。ところが、その患者もやはり歩いていた。疑問に思いつつ訪問看護を開始し、ようやく理由がわかった。
70代前半の独身男性で生活保護を受けていたが、アルコールが好きな患者だった。褥瘡ができたときは、飲んで食事がとれなくなったうえ同じ方向(テレビのほう)ばかり見て寝ていた、という話だった。
つまり同一体位を長時間とったため大転子部に褥瘡ができてしまったというのだ。この人も歩けたので、その後ほどなく褥瘡は治ったが、以後要注意ということで現在でも週に1度は訪問するようにしている。

在宅と病院との違い

ここまでの話からも、高齢で栄養状態の悪い在宅療養者の褥瘡発生のリスクは高いことがわかる。宮近さんは言う。
「私たち訪問看護師は、認知症を患った独居の利用者さんの〝生活〞をみます。部屋が片づいていれば調子がいいですし、片づいていないときは具合が悪い。
病院看護師は、病院の中であれば、その患者さんの抱えるリスクを捉えることはできると思います。しかし、いったん家に帰った後のリスクまで捉えるのはなかなか難しいと思います」
病院の患者さんは、綺麗な部屋に清潔なシーツ、洗い立ての寝間着で栄養の行き届いたものを食べている。
自宅では、それらをすべて自分で用意しなくてはならない。さらに、扇風機のあるなし、家の立地や風の通り具合…療養環境のすべてが病院とは大きく異なる。病院では夜中でも看護師が患者に寝返りをうたせる。
宮近さんは、よく利用者の家族から次のような質問を受ける。
「退院するとき、自宅でも寝返りをうたせるよう言われたんですが、夜中もやらないといけないのでしょうか」

実はエアマットは在宅で用いているもののほうが病院のものより高品質で、しかも種類が多いという。そのことを多くの病院の看護師は知らないので、家族に必要のない要求をしてしまっている。
エアマットによっては、ボタンを押せば時間ごとに体位を変えることができるのだ。

「病院が介護者の生活状況や介護能力まで考慮した退院指導をすることは難しい」と宮近さんは話す。
そのため在宅の場において家族も含めてフォローしてゆくのは、自分たち訪問看護師の仕事と考えている。

他職種との連携について

ケアマネジャーも病院の退院カンファレンスに来る人、来ない人いろいろで、中には病院のソーシャルワーカーとだけで連携が完結してしまっている人もいる。
「自分の話しやすい相手のところで連携が終わっちゃうんです。もっといろいろな職種と話をしていかないといけません。
でも、彼らに言わせると、訪問看護師は怖いんですって(笑)」
宮近さんは、この点も訪問看護師が反省すべき部分だという。特にベテランの訪問看護師の場合、現在ケアマネジャーが業務としていることを長年自ら行ってきた経緯がある。
そのため、後からきたケアマネジャーに対して厳しい人もいるとのこと。
「もっと、同じ問題に立ち向かうチームの一員と考えないといけない」
と宮近さんはいう。

「ケアマネジャーに〝この人は話しやすい看護師さんだ〞と思ってもらえないといけないと思います。〝相談にのってくれて助かる〞と。
どっちが上、どっちが下はないんです。また、訪問看護師の役割を理解してもらうことが大切です。逆に訪問看護師もケアマネジャーの役割を尊重しないといけない。お互いさまなんですから」
そう訴える宮近さんの真剣な表情が印象的だった。
※今回のレポートの宮近郁子さんが制作にかかわった本をご紹介します。
『訪問看護師に学ぶ 在宅への連携のポイント』
「入退院を繰り返す患者さん」 「さまざまな理由で退院調整の難しい患者さん」― この本は、いま在宅の現場では何が問題になっていて、看護師はそこで何を知っていなくてはならないか、を解説します。
訪問看護師と病院看護師が、 連携がうまくいかなかった事例や難しかった事例 を互いに持ち寄って開いた検討会の内容がベース になっています
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詳しくはナースツールズのウェブサイトまで
フクシア訪問看護ステーション

〒143-0023 東京都大田区山王3-18-6 2F
TEL 03-6429-9741 FAX 03-6429-9742

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