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第25回日本看護管理学会学術集会

大切な患者さんから「ありがとう」と言われるようになる認知症看護教育

投稿日:2021.10.26

2021年8月28日(土)・29日(日)にパシフィコ横浜ノースの会場とオンラインを併用し開催された第25回日本看護管理学会学術集会。「持続可能な社会をリードする創造的看護管理」をテーマに、多くの講演やシンポジウム、セミナーなどが行われました。その中でも29日(日)12:40~13:40のランチョンセミナーの内容をご紹介します。

Lecture01

臨床現場における 認知症看護教育を行う意義

〜医療安全の観点から〜


高崎健康福祉大学
保健医療学部 看護学科
老年看護学領域 准教授 
梅原 里実 先生

安全で安楽な看護の実践に 必要な3つの課題

  日本は超高齢化社会を迎え、高齢化率は2025年には30%以上、2040年には35%以上になると推計されています。入院している認知症患者は増加しており、BPSD(周辺症状)が見られることが多く、身体的な介助を要する人も増えています。そのような中、看護師は認知症看護の実践者として知識・技術を持つことが必要不可欠です。認知症看護には、安静が保てず動き回る、同じことを繰り返し尋ねる、点滴やドレーンなどを自己抜去する、転倒や転落といった危険につながる行動などの問題があり、それらに対して多くの医療現場では見守りや付き添い、最小限の身体抑制などで対応しているのが現状かと思われます。
 ハイリスクな患者に対して、リスクマネジメントが困難な状況ですが、安全な医療を提供するには看護師自身の積極性が求められます。そのため、認知症看護の教育をもう一度考え、見直す時期に来ていると思います。医療安全の管理をするうえでは、事故を未然に防ぐことが重要です。そして看護は一人では実施できず、特に認知症の患者の状態を観察して再発を防止していくにはチームワークが必要です。
 安全で安楽な看護を実践するための看護管理者の課題としては、①認知症における病態の特徴から予測される危険を避けられる職場環境づくり、②認知症看護に強みを持つ看護師(人材)の育成、③認知症高齢者当事者の視点を重視した患者安全の担保、の3つが挙げられます。それが可能な環境として、患者が落ち着ける環境整備や認知症患者に看護ができるシステム・マニュアルの整備・行使、それを担う人材・協力体制を含めて見直していくことが必要です

学びや経験の蓄積を共有できる 職場環境づくりを

 代表的な4つの認知症(アルツハイマー型、レビー小体型、前頭側頭型、血管性認知症)には、それぞれ転倒につながりやすい特徴があります。物理的な環境を整えるだけでなく、環境要因の一員として、認知症の学習会や研修会参加者との情報共有、患者カンファレンスの時間でのケアの振り返りなど、施設や部署ごとに適切な方法で経験の蓄積と共有が図れるよう考えてほしいと思います。
 認知症患者の一見不可解な言動にも、何かしらの意味があります。例えば、しっかり話を聞くことで、繰り返し失禁し動き回るため仕方なく身体拘束をされていた方の「尿器は汚れるから使いたくない」「トイレに行きたい」という思いがわかり、看護の仕方を変えたところ、自分でトイレ排泄ができるようになって自宅に戻れた事例もあります。患者の声をしっかり聞いてニーズを知ることで、看護に工夫が生まれ、解決に至ることもあるのです。転倒させないために行動抑制をするのではなく自立に向けた支援につなげることで、本来の姿に近づけることが大切です。
 3年間にわたって認知症対応力向上研修を実施し、自己抜去、転倒・転落、摂食困難、さまざまな困難事例を前に安全を考えながら日々悩んでいる看護師達と出会いました。研修では、参加者同士で成功事例を話して取り組み方を学び、身体抑制への考え方を変えられたという結果が出ています。受講後の聞き取り調査では、病棟における認知症ケアに変化が見られたこともわかりました。研修で学んだ意思表示を助ける支援を行うことで、患者の価値観を大切にした対応に繋げられると感じています。
 増加する認知症患者の安全を守るため、認知症看護教育は今まさに必要となっています。職場ごとに状況や課題は異なりますが、個々の学びや経験の蓄積を共有できる職場環境づくり、そして延長線上にある患者安全文化の醸成に努力して頂ければと思います。

Lecture02

認知症の世界を「自分事」として 捉えた先にある看護ケア

~VRを用いた認知症体験研修の効果~







済生会横浜市東部病院
看護部 教育担当師長
小陽 美紀 先生

ジレンマがつきまとう 認知症患者のケア

 当院は横浜市認知症疾患医療センターの指定を受け、多職種による認知症ケアチームを有しています。老人看護と精神看護のCNSや認定看護師がケアの中軸を担っていますが、その一方現場で認知症患者のケアをするナースにはジレンマがあります。患者の気持ちや尊厳、自立を考えたケアをしたいという思いと患者の安全を守ることや安全な治療を提供すること、また、業務が繁忙であることなどからやりたいこととできること、やるべきことが必ずしも一致しないためです。
 院内教育でも、認知症のケアは講義やディスカッション、シミュレーションやロールプレイなどを繰り返し行い、効果的な学びと実践につながるような研修内容と研修方法を試行錯誤してきました。ただ、研修中には「実践したくても思うようにできず、どうしたらよいかわからない」といったスタッフの辛い思いを聞くこともあります。そのような思いを聞いて、看護実践に活かせる学びの場が提供できていないと感じました。
 効果的な学びの形を模索していた時、VR(バーチャルリアリティー)を用いた研修を受講する機会がありました。ヘッドセットを装着すると、360度の動画で相手の世界に没入できます。自分自身で体験して可能性を感じ、当院でも実施できないかと考えました。

患者の世界を追体験することで 共感性を育成できる

 VR研修の目的は、認知症の症状を一人称”私”の視点で体験することで対象理解を深め、認知症のケアに役立てることです。評価の枠組みは「カーク・パトリックの4段階評価」を用いました。受講者は30名ずつの2グループ計60名で、認知症のケアをべッドサイドで実施するスタッフをAグループ、マネジメントを行う主任や師長などの管理者と診断を行う神経内科医や精神科の医師をBグループとしました。
 VR研修の目的は、認知症の症状を一人称“私”の視点で体験することで対象理解を深め、認知症のケアに役立てることです。評価の枠組みは「カーク・パトリックの4段階評価」を用いました。受講者は30名ずつの2グループ計60名で、認知症のケアをベッドサイドで実施するスタッフをAグループ、マネジメントを行う主任や師長などの管理者と診断を行う神経内科医や精神科の医師をBグループとしました。
 VR研修では、①視空間失認②見当識障害③幻視といった体験ができます。1つのコンテンツごとに10~15分でVR体験をした後、何を見て何を感じたかをグループでディスカッションし、その後、認知症看護の当事者からレクチャーをしてもらうという流れで研修は展開します。
 研修後のアンケートでは、概ね肯定的な反応を頂きました。特に「同僚に薦めたいか」という質問には全員が「はい」と答え、満足度が高かったようです。また、受講者がどの様に認知症患者のケアに学びを活かしたかについて実践レポートを提出してもらったところ、表層的な理解にとどまらず体験がその人固有のものであることが理解できたとの記載が多かったのが印象的でした。患者の「待って」や「怖い」という発言には理由があります。認知症患者の中核症状、周辺症状の背景には一人一人に独特の世界がありますが、「患者の立場になりなさい」と言っても実際にはできません。しかし、VRで患者の視点から見た世界を感覚的に理解し、患者の世界を追体験する手法は、共感性を育成するという意味でも有意義でした。
 認知症患者が何を見てどのように感じているかは本人に聞かなければわからないため、勝手に決めつけずにしっかり聞くことが大事です。研修でVRを経験し、看護の現場で実践したことで、患者からの肯定的な反応が得られたとの成功体験も多く、症状を認知症という疾患性ではなく個別性として捉える視点を養うことができたと考えられます。
 研修をデザインする際は、学んだ知識や技術が仕事の現場で実践され、それが行動に変わって成果を残し、その効果が持続するようなものにしなければなりません。事前課題で準備を整え、参加型の研修を運営し、事後に学びの実践をして体験を言語化・可視化することで成功体験となります。今後も現場のナースの力になるような、看護の醍醐味や達成感を感じられるような研修を続けていきたいと考えています。研修をデザインする際は、学んだ知識や技術が仕事の現場で実践され、それが行動に変わって成果を残し、その効果が持続するようなものにしなければなりません。事前課題で準備を整え、参加型の研修を運営し、事後に学びの実践をして体験を言語化・可視化することで成功体験となります。今後も現場のナースの力になるような、看護の醍醐味や達成感を感じられるような研修を続けていきたいと考えています。

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