1. ホーム
  2. コラム
  3. 聴きある記『ナースマガジン慢性期看護セミナー』第1回
聴きある記

聴きある記『ナースマガジン慢性期看護セミナー』第1回

投稿日:2018.08.31

ナースマガジンでは、東京と大阪で在宅療養支援をテーマとするセミナーを開催 しました。
日本慢性期医療協会の会長である武久洋三先生の基調講演をはじめ、 目白第二病院副院長の水野英彰先生、三豊総合病院皮膚・排泄ケア認定看護師の 政田美喜先生に東京会場でお話しいただいた内容を、今回から3回にわたってご紹介 します。
(編集部まとめ)

在宅復帰を目指すこれからの慢性期医療の在り方と 看護が担う役割

急性期病院は淘汰され病院の数は減っていく

現在は、患者から選ばれる病院にならなければ、地域で存在していくのが難しい時代になってきました。
その大きな理由は、15年前に比べると、居住系施設(介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅など)が約120万床近く増加しており、病院から居住系施設へとシフトしているためです。

日本の医療の問題点の一つは、急性期病床に多くの慢性期患者が長期入院していることです。
日本の病院の平均在院日数・人口当たりの病床数はアメリカの5倍以上で、寝たきり患者がアメリカの5倍、スウェーデンの10倍もいます。
医療介護費を削減するためにも、急性期病院での入院期間を短縮させ、初期治療が終わったら直ちにリハビリの充実した地域多機能型病院に転院させるべきです。
今後、客観的な指標により、要件を満たしていない急性期病院は、淘汰されていくと思われます。生き残りをかけて、合併、減床、新築などを行う病院も増えています。今後、病院は広域急性期病院と地域多機能型病院の2つに大別されていくでしよう。
病院の数もだんだん減ってきており、1998年には全国に1万以上あったものが現在は約8400で、10年後には6000台になると考えられています。地域格差も大きく、病院の少ない地域では限られた病院に患者が集中し、多くの役割が求められます。
間もなく、地域包括ケア病棟が回復期リ八ビリ病棟より多くなるでしょう。

嚥下と排泄のリハビリで寝たきりをなくす

リ八ビリテーションとはトータルな「人間力」を回復させる技術です。そして、リ八ビリはどの患者にも必須の医療サービスです。
これから病院は、急性期から慢性期、在宅まで無駄をなくし、効率化を図るとともにアウトカムを地域で認められないと継続できません。
看護師の数、リ八ビリの時間などではなく、回復度でアウトカムを評価するべきです。人間の機能は年齢や病気によって衰えますが、たとえ動けなくても、口から食べて自分で排泄できることが人間の原点といえます。
嚥下と排泄の機能回復は、歩くことよりも優先されるべきです。10病院57名を対象に積極的な摂食嚥下訓練を行ったところ、嚥下訓練開始時7名(12%)だった経口摂取者が43名(75%)にまで増え、排泄リハビリテーション〔骨盤底筋訓練)を実施すると、おむつの着用者も4分の1に減少しました。
リハビリテーションは回復期だけでなく、急性期にも慢性期にも在宅期にも必要です。

寝たきりを半分にすれば、医療介護費も大幅に減らすことができます。私は「日本の寝たきりを半分にするための10力条」を10年以上前から提示しています(図1)。
急性期病院から転院してきた患者の統計を取ったところ、多くの人が脱水や低栄養、電解質異常、高血糖などの異常を抱えていました。
そのような場合、主病名の治療とともに低栄養と脱水を改善しないと回復しません。入院後に体重が減っている患者がいるようなことがあれば、注意が必要です。
また、高齢者は高熱が出る前に微熱が出ることが多く、これを見逃すと命に関わりますので、注意深く経過を追っていく必要があります。

全身状態がわかっていなければ誤嚥性肺炎は治せない見出し

高齢者の誤嚥性肺炎の病態は、低栄養や脱水など複数の問題がペースにあることで起こります。高齢者の肺炎は、抗生物質を投与するだけでは治りません。
がんは治る人と治らない人がいますが、感染症は治る可能性がある病気です。
肺炎患者の経過と予後について16病院で統計を取ったところ、平均して死亡者は約1割、回復する人が約9割でしたが、病院によって発生率と死亡率に大きな差がありました。
高齢者でも、軽度の肺炎は、適切な治療をすれば治ります。その際、熱発により消費力ロリーが増える分、栄養を補う必要があります。
全身の状態がわかっている医師でなければ、誤嚥性肺炎は治せないのです。
食欲がない、嚥下障害があるといった患者でも、適切に水分と栄養を投与すれば、みるみる回復することも多く、このような患者は夕ーミナルとは言えません。
安易にターミナルケアに流されず、可能な限り病状を改善するよう手を尽くすことが大事だと考えま

看護師本来の仕事でレベルの高いケアを目指す

医療はどんどん高度になり、医療ニーズに対して専門職の相対的不足があるうえ、患者側の要望も複雑化しています。近年、さまぎまな専門職が連携して治療を行うチーム医療が主流になりました。
当院では多職種によるチームで回診、カンファレンス、食事介助などを行っているほか、医師を中心とした「症例検討会」や、医者以外のコメディカルが意見を出し合う「診療適正化委員会」などを開催し、情報を共有しています。
専門職は補助や代行できる部分は任せて、それぞれの専門性を生かすべきです。

当院では医師・看護師・リ八ビリのクラークがおり、電子カルテ記録代行入力など医療事務作業の補助をしています。また、経管栄養の流動食はディスポパック化することで作業時間が短縮でき、浮いた時間を看護業務に専念できるようになりました。「バーコード患者認証システム」を利用して3点認証をしているため、投与ミスも防げます。また、血糖測定やバイタルチェック、検査などは、IT化も可能です。
経費を考慮する必要はありますが、労働環境の整ったところによい人材は集まります。
当院では、勤務形態の対応、託児所の設置、産前産後休暇や育児休暇、時間短縮勤務なども整備してきました。高度急性期病院以外の慢性期病院、特養などにおいて、主体的業務を行うのは看護師です(図2)。
特定行為研修を修了すれば、業務範囲も拡大できます。今後、病院での治療が必要ない患者は早期退院し、施設入所者・在宅療養患者ともに、ある程度の医療ケアが必須となります。
多くの医療行為が可能な特定看護師は、地域で高く評価されるようになり、慢性期や在宅で力を発揮するでしょう。良質な慢性期医療がなければ、日本の医療は成り立ちません。
私は看護師のみなさんの味方です。一緒に頑張りましょう。

※次回は、水野英彰先生の講習要旨をご紹介いたします。

このコンテンツをご覧いただくにはログインが必要です。

会員登録(無料)がお済みでない方は、新規会員登録をお願いします。



他の方が見ているコラム