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ICTが叶える社会参加 ~リハビリテーション×ICTの可能性~

投稿日:2022.05.30

コロナ禍をきっかけに会議や授業のオンライン化が進み、これまでよりICT (Information and Communication Technology:情報通信技術)はずっと身近な存在になってきました。リハビリテーション(以下リハビリ)分野においても、ツールの活用に期待が高まっています。

今回は、さまざまな企業とともにリハビリ分野のICT導入に携わってきた木村佳晶先生に、リハビリとICTについてお話を伺いました。
木村 佳晶 先生(理学療法士)

リハビリ分野の現状と課題

 リハビリ分野では、医療機関と在宅領域でそれぞれ問題が異なります。医療機関においては約 20万人いるうち約7割の理学療法士が病院に所属していますが、提供するサービスの「質のばらつき」が問題になっています。知識や経験の差が分析にも影響するため、標準化できる教育や仕組みが必要であるとされています。在宅領域では、人材不足です。全国に約4万7000件あるデイサービスや通所介護施設で、理学療法士が機能訓練指導員として勤務している施設は1%に満たないといわれています。その分在宅領域で活躍する看護師さんたちが、一生懸命勉強してリハビリを提供しています。そのような看護師さんに向けて、普段行っているリハビリの答え合わせができる仕組みが必要だと思います。

 さらに、コロナ渦での行動制限等により、利用者さんたちの「フレイル」は深刻な問題です。骨折ともなれば、医療費、リハビリと負担が大きくなります。何とか進行を食い止める手立てを考えていかなければなりません。

リハビリ分野に広がるICT

 一部を紹介すると、まず「リモート訓練機能支援サービス(NEC)」は面白いと思います。遠隔にいるベテランの理学療法士がタブレットを通じて利用者さんの動作を評価し、その人に合ったプログラムを提供します。リハビリの提供に悩む看護師さんにも活用していただけます。
 
 ほかにも「テレリハ(テレリハ株式会社)」という遠隔リハビリのシステムがあります。新型コロナウイルス感染症による行動制限が始まった頃、フレイル予防のために作りましたが、もともと、地方と都心部の格差に不公平感があったことも開発のきっかけでした。同じ介護保険料を支払っていながら、地方、特に沿岸地域や、中山間地域ではサービスを選んで使用することが不可能ですし、雪の季節は定期的に通えません。質の良いリハビリサービスをどの地域で暮らす利用者さんたちにも提供したい、という思いからできたサービスです。
デイサービスで行われる「テレリハ」の様子
 より若い世代に向けたものでは「スマートシューズ(ORPHE株式会社)」があります。センサーを靴に取り付けて歩行を計測し、微細な動作の分析が可能です。ログが取れるので、日々の運動の過不足も確認できます。

 これらの ICTツールは、データが活用できるのも大きなメリットです。現在一部のサービスは、行政と連携し地域全体で効果を検証しています。結果が明らかになる分、今後はより効果の立証されたサービスが選ばれるようになっていくのではないでしょうか。

リハビリ×ICT×農業の可能性

 看護もリハビリも目的ではなく手段ですよね。リハビリを目的にせず、頑張った先に患者さん、利用者さんが「何をしたいのか」を考えることが大切です。

 近年、水田の水の調整や、アシストスーツでものを簡単に運べるなど農業においても ICT化が進んでいます。私たちも ICTを使った「スマート農業 ×リハビリ」を提案していて、リハビリを頑張る人たちと耕作放棄地でものづくりをしようとしています。問題となっていたのは作物を作っても売るところがないこと。しかし、この度企業(株式会社バイオマスレジンホールディングス)と提携し、環境にも優しいライスレジン(半分は米を原料としたプラスチック)用の非食用のお米を販売できることになりました。みんなで田畑を耕して体を動かし、コミュニティができる。そのうえ自分でお金を稼ぐことができて、やりがいにもつながるプロジェクトです。

 ICTの活用により、これまでの当たり前をどんどん変えていけます。「身体機能」に注目されがちだったリハビリが、これからは ICF(国際生活機能分類 )で重要とされる「参加(「仕事、家庭内役割、地域社会参加など)」にも踏み込んでいけるのではないかと期待しています。

(2022年3月7日オンライン取材)

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