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教えてっ! 退院支援の5つのこと第12回

教えてっ!退院支援の5つのことシリーズ第12回

投稿日:2018.04.20

 藤井 淳子さん
  医療連携・入退院支援部 家族支援専門看護師

 松尾 あゆみさん
  がんセンターがん緩和ケア室 がん性疼痛看護認定看護師

 大塚 祐輔さん
  医療連携・入退院支援部 看護師

東京女子医大病院
退院支援に関する課題や思いなどを毎号お話していただくシリーズ企画。
今回は東京女子医大学病院の医療連携・入退院支援部の藤井さん・大塚さん、がんセンターがん緩和ケア室の松尾さんにお話を伺いました。
(編集部まとめ)

急性期病院としての退院支援の役割

いわずと知れた首都圏東京の急性期病院のひとつである、東京女子医科大学病院。一昨年までは、社会支援部の地域連携担当事務、退院調整看護師、MSWが退院支援を担当していましたが、今年度からより円滑な入退院支援を目指し、地域連携室・医療福祉相談室・入退院支援室・クリニカルパス室・ベッドコントロール室の5室が『医療連携・入退院支援部』として組織編成され、地域連携強化に務める体制にしたそうです。
「急性期病院としては、在院日数の短縮(14日以内)を意識し、入退院支援パスを活用しながらケアマネジャーとの連携や退院前カンファレンスを行っていく必要があります。当院でしか受けられない専門的な治療を必要とする患者がベッドを待つことがなく入院治療を受け、患者を地域で生活できる態勢を整えて退院をサポートし、ベッドの稼働率と在院日数の良い循環を作っています。
入退院支援パスを活用することで、入院時と退院時両方の加算を取得することができ、経営的にも成果がありました。入院を待っている多くの患者・家族を一人でも多く受け入れられるよう、退院支援に関わるスタッフ全員で、効率よくこの入退院支援のシステムを稼働させていきたいと思います」と藤井さん。

実践に活かす 退院支援のための研修

入退院支援加算Ⅰの算定要件としては2病棟に対し1名、看護師か社会福祉士を配置することになっています。同院では昨年から各病棟より1名ずつラダーⅡ以上のベテラン看護師を選出し、入退院支援加算Ⅰと医療情勢について2カ月ほどの集中講義を行っています。講義修了後はリンクナースとしての研修の場を設け、実際の困難事例に対するアプローチを実践的に捉えるトレーニングを積んでいるとのこと。また、『入退院支援看護師への道』を作成し、教育に活用しています。
一方、1〜3年目の新人看護師に対する研修にも取り組み、関心を引き出すよう工夫し、退院支援を「看護の中に入る要素」と位置付けているそうです。
「これらの研修を行うことで変化したことは、看護師とケアマネジャーとの直接的な連携が増加し、看護師一人ひとりが退院支援に対する関心を高めていることです。ケアマネジャーと連携することで、今まで治療にしか向いていなかった視点が、生活にも広げられるようになったように感じます。
治療が終わってから退院支援が始まるのではなく、入院前から退院支援が始まっていることを実感し、つなげられるようになりましたね。
入院前には積極的に家族やケアマネジャーから情報収集し、スタッフ間で共有するようになりました。入院時力ンファレンスでは患者・家族を中心に医師・看護師・薬剤師・ケアマネジャー全員で今後の方向性や目標を設定し、退院時カンファレンスでは地域に戻って生活するために患者・家族の全体像から問題点を挙げ、何が必要か、急変時はどうするかまで話し合うようにしています。始まったばかりの入退院支援パスですが、どんどん活用していきたいと思っています」(藤井さん)。

がん性疼痛看護認定看護師として 病棟から地域までを橋渡し

松尾さんは、がん性疼痛看護認定看護師です。がん治療や緩和医療を受けたり、在宅ホスピスを希望する患者もいる中で、どのような思いで関わっているのか伺ってみました。
「緩和ケアチームは、診療科から依頼が来たケースや、がん患者が入院している病棟を定期的にラウンドして、疼痛をはじめ諸問題解決のサポートをしています。退院支援に課題を持つ患者に対しては、医療連携・入退院支援室と毎日の情報共有に加え、病棟で開催される多職種力ンファレンスに参加し介入します。
日々患者ケアにあたっている看護師につないでいきたいので、患者家族の意思表明への介入は、緩和ケアチームの直接的な介入だけではく、例えば「家に帰りたい」と患者が発した一言にはどのような意味が含まれているのか、患者・家族へのアプローチとしてどのように対話を進めるかを病棟看護師と共に考えています。患者は話す相手やタイミングによっても、出てくる言葉や反応が違うことがあるので、多職種でそれらを共有すること、アンテナを高く掲げ、機会を逃さず対話することが大事だと思います。
また、進行性の疾患による持続的な疼痛がある患者の場合は、外来通院で対応が可能なのか、地域との連携で薬剤調整を引き継いでもらうのかを検討します。当施設では『がん疼痛緩和ケアパス』というクリニカルパスを使用して医療・ケアを提供し、必要に応じて外来や地域への橋渡しにも活用しています。
疼痛の変化に応じて薬剤の選択、種類が複雑になり、疼痛コントロールに難渋するケースでは、訪問医や訪問看護師に私たちが検討した薬剤の選択意図、身体的苦痛だけでなく本人の抱える全人的苦痛、家族やお子さんへのケア等の継続について退院前カンファレンスで共有したり、直接電話連絡を取り合うこともあります。退院後も、症状コントロールに困った際には地域の訪問医と当院の緩和ケアチームが連携できるようにしています」。
病棟ー外来ー地域をつなぎ、患者家族の安心な在宅療養に欠かせない存在、といえるでしよう。

家族を含めた 患者支援の在り方

藤井さんが取得されている家族支援専門看護師の資格は、2008年に日本看護協会の専門看護分野に認定されました。家族はお互いに作用しあっているという家族システム論に基づき、患者の治療や生活における家族の存在の重要性に着目し、患者だけでなくその家族も支援しています。
入退院支援を通して家族をめぐる事例から学んだという大塚さんは、家族の定義についても考えたことがあるそうです。
「患者中心の意思決定に応えない家族は困った家族、と医療者側が思えば思うほど、関係の修復は難しくなります。キーパーソンの在り方を診療所の先生と話した時、患者を取り巻く環境に影響する家族が他にもいるのではないか、家族をどこまでと考えるのか、地域に帰ったときに本当に面倒を見てくれる人は、もしかすると僕らが知らない人かもしれない、そんなことも考えました“家族も含めた患者”という捉え方の難しさもわかった上で、これからも患者・家族支援をしていきたいと思います」と語りました。

地域に出ていくことこそが学び

自らを「まだ地域包括ケアシステムの中にうまく入れていない状況」と評価する藤井さん。昨年、こちらのリンクナースと地域の在宅訪問医との訪問看護同行1日研修を実施し、大変好評だったそうです。今まで認知症や独居の患者は在宅に戻ることはできないのでは?と思っていた看護師たちが、もしかすると、今まで私達大学病院の看護師が退院を食い止めていたのかもしれない、と反省する機会になったといいます。
「病院看護師が地域に出て行き、ケアマネジャーや患者・家族を支えている方々から学ぶことで、今後の医療の質も変わるはず」という藤井さん。

「今後を見据えた調整に対するスキルアップと外来患者へのアプローチ」を課題とする松尾さん。

「非がん患者のリハビリに要する介護力と時間は明確に把握できないが、個々の患者が望む生活を送れるために何をするべきかを形に残していくことが必要」と力説する大塚さん。

大学病院の持つ専門性をどのように地域に活かしていくのか。入退院支援部門だけでなく、急性期病院の看護師全体のモチベーションアップをどう図っていくのか。地域包括ケアにおける急性期病院の退院支援に、今後も注目していきたいと思います。
(2019年5月9日取材)

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