1. ホーム
  2. コラム
  3. 認定看護師さんインタビュー企画~松岡美木さん(皮膚・排泄ケア看護認定看護師)~
認定看護師さんインタビュー企画

認定看護師さんインタビュー企画~松岡美木さん(皮膚・排泄ケア看護認定看護師)~

投稿日:2014.10.15

1999年の7月に皮膚・排泄ケア看護認定看護師の資格を取得された、埼玉医科大学病院、褥瘡対策管理室管理者・副看護師長の松岡美木さんにお話を伺いました。

■皮膚・排泄ケア看護認定看護師を受験しようと思ったいきさつを、教えて下さい。

私自身がこの資格を取得したのは、ナースになって5年目の1999年7月です。
ナース勤務3年目のころ、私はETナースの資格を持つ先輩と一緒に、外科病棟で働いていました。外科病棟にはストーマケア係が置かれていて、私もそこでストーマ装具のストック管理などをしていました。
先輩は、単独で看護外来も担当していたので、病棟でのストーマケアの相談にも乗っておりました。
その頃、日本看護協会の認定看護師の教育制度が始まったのです。

当時、勤務3年目の私には受験資格がありませんでしたが、先輩から「将来のビジョンとして、認定資格を目指してみるのもいいのでは」と言われました。
彼女の看護外来のような展開が病棟でできたら、患者さんは病棟でクオリティの高い看護を受けることができます。
治療が完結し退院した後は、看護外来でフォローを受ける、という良い連携が取れるのではないかと考えるようになりました。

受験資格である臨床経験5年目、自分が積み上げてきて自信があるのは、この皮膚・排泄ケア領域だ、と思い、受験しました。
幸い合格することができ、半年間の研修に行くことになったのです。

■この半年間の研修は、どんな意味がありましたか?

当院では、5年もいれば、それなりに任される部分があったのですが、合格した20名の研修生の中で私が一番若く、この研修を通して初めて「あなたは経験が浅い」と、はっきりつきつけられたわけです。

他の研修生たちは、ナースとして脂の乗っている、経験豊かな先輩方。院外で看護研究の発表をしたり、この領域で有名な方々との交わりもある方たちでした。
いろいろな経験を積んでから、ここに進もうと決めて研修を受けに来られた方がほとんどだったのではないでしょうか。

この研修で科せられる課題や役割は、臨床経験5年の私にはかなり重く、ちょっと受けるのを早まったかな、と思ったこともありました。

文章が書けないし、患者さんの状態を読み取るアセスメントは、看護経験を重ねてきた人の方が圧倒的に上手です。今までの臨床経験で、そこそこできていると思っていた私が、鼻っ柱をへし折られる経験をしたのです。
これは、この研修を受けなければなかったことですね。それに気づかせてもらったのは、本当によい経験でした。

また、自分がやってきたことを振り返り、「あの時こうすればよかったのかな」ということをじっくり考えさせられる半年でもありました。
講師の先生に指摘され、自分ではやっていたつもりでも、傍から見るとできていないところが、たくさんありました。全員が頑張って勉強している中に身を置くということが今までなかったので、モチベーションが高い先輩たちに揉まれたこの研修は、とても刺激的でした。
でも、もう二度とやりたいとは思いませんけどね(笑)。

■研修後、病院に戻られて意識が変わった点はありますか?

再び外科病棟に戻ってから約7年、夜勤を含め、通常の業務と病棟リーダーの仕事をしていました。
認定看護師の認知度が上がってくるにつれて、「おむつかぶれが治らない」とか「褥瘡の処置をどうしたら良いか」などを相談されるようになり、業務の調整をしながら出向いて行き、専門的なケアを提供しました。
病棟ナースをまとめる立場として意識が変わったことは、自分が所属している病棟の看護ユニットを、客観的にみるようになったことですね。
病棟という母体の一員として働きながらも、この母体の中で自分の専門領域が関われる部分は何か、を常に俯瞰(ふかん)してみています。

例えば、清拭の仕方。
患者さんの皮膚にとって良好なケアを提供するにあたって、ナースのスキルに差が出ないようにケアレベルを底上げするには、どうやって介入していけばよいか、という視点を持つようになりました。
以前は、その母体の中で翻弄される自分がいたのですが、それは客観性が欠けていたのかな、と思うようになりました。自分の思いをみんなに強制するような関わり方をしていたのではうまくいかない、周囲をどのように巻き込んでいくか、というマネジメントについて、研修で学習したことを反芻(はんすう)し直してとらえるようになったと思います。

もうひとつ、患者さんに対する見方もちょっと変わりましたね。
ホリスティック(心・体・環境など全体を総合して)に患者さんを看ることを、重視するようになりました。私の専門である局所のケアももちろん大切ですが、そのほかに介入すべきところはどこなのか、視野を広く持って患者さんを全人的に看るように心がけています。
その結果、ゆっくり患者さんと関われるようになりました。
時間に追われる中でも、時間をかけるべきところは、しっかりかけなければいけない、というマネジメントを心がけています。

研修のカリキュラムの中でも、「看護管理」という枠には、かなり時間が割かれていました。「あなたたちがやるべきこと、課せられていることは、こういうこと」というのがまず示され、そのためのリーダーシップやコミュニケーションの取り方などの講義を受けました。

当時の認定看護師というのは、救命救急、皮膚排泄ケア、緩和ケアの3領域しかなく、それらを合わせても60名そこそこでした。
ですので、資格を取得して臨床に戻っても、厳しい世間の風に当たる人も多々いたと聞いておりました。そこを切り崩して、やるべきことをやっていくには、どう動くべきかということに重きを置いた研修だったように思います。

■ナース全体のケアレベルの底上げは、どのように実践してこられたのですか。

研修では、自分の所属しているところの問題点は何か、それに対して自分が出来ることは何か、ということをじっくり考えさせられました。
私の場合、今までのストーマ係を拡大し、メンバーを教育し、そのメンバーをコアにして同様のケアをできるナースを増やしていく、という戦略をとろうと考えました。メンバーは、やりたい人にはどんどん入ってもらえるよう看護師長にお願いし、了承をとりました。
ストーマケアというのは、技術の部分は言葉の説明だけではうまく伝わらないので、一緒にケアをしながら指導しました。
担当患者さんのケアも見てもらい、ストーマケアというのはこういうことをやるんだな、患者さんにはこういうことを聞くんだな、ということを知ってもらうようにします。そういう指導を通して、自分もやってみようというナースが増えるよう、工夫しました。
周りにも呼吸療法や感染管理についての資格を持っている人たちが増えてきて、それぞれのユニットのリーダとしてメンバー集めを始めていました。

新人ナースたちは、最初からそういう母体がある環境で働き始めます。
そして、ある程度のキャリアが身についたところで、自分はこの専門を極めようとか、私はジェネラリストでいようというような判断をするわけです。その時に、いかに自分のチームが魅力的かが重要になります。
私は意識していなかったのですが、「ここに入れば楽しく仕事が出来るかもしれないと思った」と言われたことがあります。
それを機に、はたから見た時の状況をかなり気にするようになりました。

■認定看護師として専門的なケアに関わった患者さんで、印象深かったエピソードがあれば。

私が専門的に行う排泄ケアは、通常ではないルートでの排泄を支援するものです。なので、患者さんとしては、どんなにいいケアを提供されても、やはり元の体に戻りたいと思っているのです。
その部分に対して濃厚に関わろうとしても、それをあまり喜ばない患者さんもいます。そのさじ加減が難しいところです。

以前、私と2,3歳しか年が違わない女性患者さんの担当になりました。
子宮がんの膀胱直腸浸潤で、肛門も子宮も膣も膀胱も全部取り、二つのストーマを作らなければならないという状況でした。
そういう状況の患者さんの病室を訪れる時、私はありきたりの当たり障りのない言葉しか掛けることが出来ませんでした。
小さなお子さんが二人いらして、今死ぬわけにはいかないからと、この手術を決断された方なのです。毎回尋ねられることは、ちゃんと普通の生活が出来るようになるのか、ということでした。
私は、「大丈夫、そこはちゃんと担保します。普通に家事をこなせて、お子さんの世話もできて、学校行事にも参加できるようにしますから。」と言って、そのためのケアに重点を置いた管理に努めてきました。

退院後、外来でも定期的にフォローをしていましたが、あるとき、普段口数の多くない彼女がこう言ったんです。
「最初はこんな体になってしまってどうなる事かと思っていたけれど、案外大丈夫だった。今、とても幸せです」

その後1年ほどで亡くなられましたが、ハンディキャップを抱えた生活の中で幸せを感じてもらえるひと時があったのならば、私が今まで行ってきたケアは、そう悪くはなかったのかもしれないと思うと、とても印象深いです。

それまで、この術式を選んだ方から聞く言葉は、「仕方がない」「あきらめた」という声ばかりで、「幸せ」というキーワードが出てくることはありませんでした。コツコツと地道に積み重ねてきた皮膚・排泄ケア領域でこの言葉を聞く場に立ち会えた事は、この資格を取って本当に良かったと思う瞬間でした。

■今後、認定看護師として病棟の中で魅力的なユニットを築き、その中のナースのレベルを上げてゆくにあたり、認定看護師として目指していることは?

今一番力を入れているのは、看護師特定行為にかかる事業の一期生で参加している厚労省のモデル事業です。それが皮膚排泄ケア認定看護師のキャリアになったらいいなと思います。
現場のニーズはあるので、正式に法案が通り、みんながこういうことをやれるようになりたい、と思ってもらえるような活動をしたいですね。
そういう対外的な部分も自分に課せられた役割と考えています。
もう一つは、認定資格に対する院内評価です。
今後は、認定看護師をキャリアの一つとして認めてもらい、給与面や、勤務の処遇に反映してほしいのです。
認定看護の資格をとる人は、自分が良いケアを提供したいという思いでやっている方が多いのですが、これからのナースはそうはいかないでしょう。
キャリアを積み上げてゆくためのツールと考えるナースも出てくるかもしれません。
やはり資格が給与に反映される、ペイされる、ということが重要なのです。

今、私がこの病院では一番古い認定看護師なので、私が大学側に働きかけなければいけないと思っています。院内のクオリティを上げてゆくには、人数も必要ですし、ある程度仲間の数が増えないと、母体を動かすことはできません。
人数を確保するには、そういう環境を構築していかないと、ただ認定看護師を目指しましょう、と言ってもそうはいかないでしょう。

■特定行為に関するナースの立場について、現場の意見はどうですか?

私の場合、特定行為を実施するにあたっては、過去に褥瘡管理者としてフリーに動いていたという背景があります。
もともと横断的に組織を動いていて、臨床の先生方も、私の名前は知らないけれど、何をしているナースなのかはご存知でした。
病棟で手に負えない褥瘡や管理に困る傷の処置をしに行き、自分が出来ない行為をドクターにお願いしていたので、他のユニットに入って行ってケアをするということに対しては、スムーズでした。

一方、院内を見渡してみると、各看護ユニットの長、管理職の考えがとても大きく影響していると感じます。
「あれが出来るのは特別な人。危険なことはここではやらない」という意見を耳にすることもあります。しかし、埼玉医科大学という大学組織の中の病院、病院の中の看護ユニットですから、根幹となる組織の方向性に沿って、いかに自分が束ねている看護ユニットのスキルを上げてゆくかということが、管理者に課せられた課題だと思うのです。

求められていることに対し、どうやったら自分たちをボトムアップさせていくかの手法を管理者が率先して示すべきです。
ナースの教育をどう進めるか、医師とどのように連携をとったらうまくいくかといった技術を若いスタッフに教えることこそ、経験を経たナースがやるべき仕事であって、その軸がぶれないようにリーダーシップをとってコントロールしてゆくのが管理職の役割だと私は思います。

<松岡さんがご活躍されている病院>

埼玉医科大学病院
〒350-0451
埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38

このコンテンツをご覧いただくにはログインが必要です。

会員登録(無料)がお済みでない方は、新規会員登録をお願いします。



他の方が見ているコラム