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第5回 症例から学ぶ周術期看護 

周術期における痛みの管理

投稿日:2023.01.27

術後の痛みの軽減や合併症の発見に、少しでも看護の力を役立てたい。
そんな想いにお応えし、麻酔科医の谷口英喜先生にわかりやすく解説いただきました。

予想できる痛みの情報を提供することで、患者はとても安心することでしょう。

症例から術後痛の経過を考えていきましょう。

症例
48歳女性、身長148cm、82kg
卵巣のう腫の診断で、腹腔鏡補助下両側付属器切除術が予定されていた。手術2週間前に患者支援センターを受診して、多職種による術前カウンセリングが実施された。

既往歴
特記すべきことなし。

入院後経過
予定通り手術が実施され、クリニカルパスに沿って術後仏痛管理が計画された。手術翌日から、離床および経口摂取が予定された。術後には、患者は腹痛よりも肩痛を訴えたが看護師に対しては笑顔であった。しかし、術後2日目に創部痛が増悪した。



Q. 術後鎮痛剤の使い方を教えて下さい。

A. 術後仏痛管理の三大原則を確認しておきましょう。
1.多角的な仏痛管理(MMA:multimodal analgesia)
作用機序の違う鎮痛方法を組み合わせて使用(MMA)することで、相乗的な鎮痛作用が得られます。それぞれの薬剤の必要量が減量できるので薬剤による副作用も減少させることができます。


2.鎮痛剤の定時投与(ATC:around the clock)
ATCとは、鎮痛剤を定期的に投与することにより、痛みを計画的に管理することです。鎮痛効果を底上げし、オピオイド使用量を減らすことが期待できます。


3.麻薬の使用量を減量(Opioid Sparing)
オピオイドは鎮痛効果に優れている反面、悪心嘔吐、便秘、呼吸抑制などの副作用も多く見られます。そのため、術後にはオピオイドの使用量を減量(Sparing)することが望まれます。ただし、内臓痛を抑えることができる唯一の鎮痛剤がオピオイドなので、適切に使用することが大切です。


Q. この症例のクリニカルパスにある術後仏痛管理を教えて下さい。

A. 本症例のクリニカルパスでは、腹部の腹腔鏡補助下手術に対して欧州局所麻酔学会が推奨する術後仏痛管理方法が活用されています。
本症例は、腹腔鏡補助下手術なので、開腹手術に比べ創の大きさは小さく、痛みも軽いとされています。そのため、硬膜外鎮痛は実施されず、一 般的にはアセトアミノフェン静注液の定時投与をベースに必要に応じて非ステロイド系 抗 炎 症 剤 (NSAIDs)やオピオイドの頓服が追加投与されます。手術翌日には、全ての薬剤が内服薬になります。


Q. 術前看護介入で鎮痛剤の使用量が減らせますか?

A. 本症例では、通常、上記の仏痛管理法により安静時痛はコントロールしやすくなります。しかし、離床時に腹筋に力を入れるときに生じる痛みまでは制御できません。さらに、腹腔鏡補助下手術後には激しい肩痛がよくみられます。この2つの痛みを術前から予測できる痛みの情報として患者に提供しておくことが大事です。

イラストのような対策を講じることで仏痛が軽減され、肩痛に関しては自分だけに起きたのでは無いことで安心感を与えられます。このような術前看護介入により鎮痛剤の使用量を減らすことが可能です。ちなみに肩痛の原因は、腹腔鏡で使用される二酸化炭素ガスの影響と考えられています。

Q. 術後の痛みの変化、どこに注意すれば良いの?

A. 術後の仏痛管理計画が標準化されてくると、各術式によって術後仏痛の経過も一定の傾向が見られてきます。例えば、本術式の場合、術後1日目は安静にしていれば痛くないけれども、起きる瞬間だけ痛い、歩けば痛くなくなる、というパターンになります。術後2日目には仏痛レベルもさらに軽減します。しかし、本症例では術後2日目に創部痛が増悪しています。このような通常パターンと異なる仏痛の 増悪は要注意です。本症例は、高度の肥満症であったために創離開が起きていました。痛みは、術後における第5のバイタルサインと言われています。しっかりと確認していきましょう。

本症例でナースが注意すること

・第5のバイタルサインとして仏痛レベルを定期的に確認
・仏痛パターンが通常と異なる場合は要注意
・術前から予測できる痛みを知っておく

Take home message

●予想できる痛みの情報を提供
●術後仏痛管理の3大原則
●痛みは術後における第5のバイタルサイン

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