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認定看護師さんインタビュー企画

認定看護師さんインタビュー企画~坂巻麻紀さん(緩和ケア認定看護師)~

投稿日:2014.12.24

緩和ケア認定看護師として7年のキャリアをもつ、東京警察病院・内科病棟の坂巻麻紀さんにお話を伺いました。

前職ではホスピス病棟で多くのがん患者さんと対峙し、現在は東京警察病院の緩和ケアチームを率いる立場となって活躍されています。

患者さんの苦しみに正面から向き合い、
辛さを和らげていける看護師になりたい

認定看護師を目指した当時の状況を教えてください。

私は新卒後入職した病院で女性混合病棟の担当になり、乳がん、子宮がん、卵巣がんなど、多くのがん患者さんに向き合ってきました。
当時はがんを告知しないのが当たり前で、何も知らされないまま抗がん剤治療を続ける患者さんも多く、心身ともに苦しむ姿を目の当たりにしていました。苦しみで自殺された方もいましたし、治療の甲斐なく亡くなった方もたくさんいらしたのです。
それを前に何もしてあげられない自分自身が情けなくて、何とか患者さんの痛みや苦しみを解放してあげられる方法を見つけたいと思い、ホスピスのある都内の病院に移ったのです。
ホスピスに行けば、患者さんの辛さを取り除いてあげられる何かを得られるのではないかと思い、自分自身の気持ちやモチベーション、患者さんの辛さ、苦しみを受け止める心など、自分が変われるんじゃないかと考えたのです。

ホスピスに行って変わることはできましたか。

そこでも、明確な答えを見つけることはできませんでした。
ホスピスでは、もっと患者さんも穏やかで、精神的にも落ち着いていて安らいでいるイメージだったのが、実際はそんなことがなかったのです。
死に対して激しく動揺する患者さんや、救いを求めながらそれが得られず絶望する患者さん、毎日苦痛に顔をゆがめる姿を前に、どうすることもできない自分に無力感を覚える日々でした。

ある日、私は患者さんを前に「私はこの病院にいても何も解決してあげられない。いる意味なんてあるんでしょうか」と聞いてしまったんです。
50代の男性患者さんでしたが、その人は「あるに決まってる。もっと勉強して、私たちのことを助けてほしい」という言葉をかけてくれました。
勉強して、患者さんを救える何かを見つけたい。そう思って緩和ケアの認定看護師を目指そうと考えたのです。

認定看護師の資格に向けての勉強は大変でしたか。

私の場合、勉強しながら「落ちたら落ちたで仕方ない」とも思っていました。ゴールが認定看護師という考え方ではなかったので、もし駄目だったら他のホスピスに行くなどで新たな経験をしようと思っていました。
ですから、それほど猛勉強をしたという記憶はないのです。すでにホスピスで3年くらいの経験があり、基礎的な薬の知識や使い方の知識はありましたし、参考書など緩和を勉強できるものは病院にたくさんありましたから。あとは運だという感覚でしたね。

認定看護師になって見える景色は変わりましたか?

最初はむしろ苦しみのほうが多かったような気がします。私はホスピスでの最初の認定看護師で、自分が率先していろいろ変えていかなくてはいけないと思うのに、満足にそれができずに焦る毎日でしたね。
患者さんや家族の苦しみをうまくコントロールできない、また医師との関係性など、問題点は感じるもののそれを自分で解決できないという苦しさがありました。

どのような問題点が大きかったのですか。

今振り返ると、医師とのコミュニケーションをうまく取ることができなかったことかなと思います。症状コントロールは看護師だけではできないので、伝え方や言い方など、コミュニケーションスキルが足らなかったのかな、と思います。

理想を追い求め過ぎ、自分も焦っていて、無理に医師を動かせようとし過ぎたんじゃないかなと反省しています。他のナースたちからは、困っていることについて「先生に言ってください」と頼りにされるんですが、医師のほうは「そんな急に勉強してきたからって何ができるんだ」という考えで、その板挟みになることが多かったですね。

そこからどのように変わっていったのですか。

自分だけでやっても無理、周りの看護師やスタッフを巻き込んで、修得した技術をしっかり伝達して、みんなの力でやっていくことが必要、ということに気付いて、少しずつ状況が良くなっていきました。
認定看護師の役割には「実践・指導・相談」が3本柱としてありますが、それまで自分は実践だけが先に立ち、自分1人で何とかしようと思い過ぎていたことを反省しました。周りの看護師やスタッフを巻き込みながら、みんなの力でやっていくことの大切さに気づかれましたね。

現在の活動内容を教えてください。

東京警察病院に移ったあとは、緩和ケアチームのメンバーとして院内の緩和ケア認定ナースの2人で手分けをしながら、依頼のあった病棟で他のナースの相談を受けて情報を持ち寄り、チームでディスカッションして症状コントロールのアドバイスを担当科に戻すといった活動を行っています。
症状コントロールは、痛みや不穏・せん妄や吐き気などの状態を見極めながら、吐き気止めの薬のアドバイスやオピオイドローテーション、腎機能のチェックなどを行います。緊急を要する患者さんにはメールカンファレンスを実施し、担当科の医師と連絡をとりながらの症状コントロールを実施しています。

その中で課題としては、ケアの依頼のある科が固定しまっている点が挙げられるでしょう。
科によっては緩和ケアに対する抵抗感や、自分で全て担当したいと考える先生もいて、緩和ケアにおける知識の浸透や啓蒙がまだまだ足らないと感じます。私たち認定ナースが今後努力していかなければいけないと思いますね。

坂巻さんの役割はどのようなものですか。

がん患者さんがいる主要な病棟のリーダーをやっていますが、緩和ケアチームでは2人の認定看護師でイニシアチブをとってやっていますね。
病院の中ではリンクナースの教育指導や、私自身はリンパ浮腫のセラピストとしての活動も行っています。患者さんの術後指導や、乳がんの患者さんの放射線治療の初回と最後の週と2回の面談をさせてもらっています。
女性にとって浮腫を発症することは怖いですから、そのケアや指導に力を注いでいます。

病院の中に緩和ケア認定看護師がいることのメリットはどのように感じますか。

私たちは、医師には伝えられない苦しみや、ナースの辛さをぶつけられる存在なのかなって思います。患者さんにお互い身近に接するなかで、現場で感じる看護に対する不満や不安、患者さんに何もできない無力感や焦燥感などの心の淵を聞いてあげられる存在になりたいです。また患者さんであれば、「先生には言えないんだけど…」といったような話を聞いてあげられる存在ですね。

緩和ケアに対峙することは、患者さんが抱える目に見えない心の苦しみと向き合うことになるため、悩みに直面するナースも多いんです。
私自身がそうだったように、自分の苦しみが何かさえ分からなくなってしまう。だからこそ、私たちがナースのそうした思いをくみ取ってあげられる存在になりたいと思います。

坂巻さん自身が追い求めていた、患者さんの苦しみを解放してあげられる方法は見つけることはできましたか?

患者さんの苦しみを解放してあげるのはとても難しいことです。まず、その場所から自分自身が逃げない、ということかもしれません。どんな苦しみや痛みでも、そこから逃げずに試行錯誤する、うまくいかなくても、何かあるはずだともがく…そうした8年間でしたし、これからもそうやって向き合っていくことしかないんじゃないかって思います。

どんな辛い思いを患者さんがされていても、私は逃げずに受け止めたい。そのために近くにいる、「ここにいるよ」ということを患者さんに伝えていくことしかできないんじゃないかって思います。

今後の目標を教えてください。

当院は急性期病院ゆえに、緩和ケアに対する知識がまだまだ深まっていない部分も少なくありません。
緩和ケアについて噛み砕いてわかりやすく伝えることを心がけながら、院内でナースが最低限の症状コントロールを標準的にこなせるように、チームとして教育や情報浸透の部分で頑張りたいと思います。また個人としては、リンパ浮腫外来の立ち上げを目指しています。

最後に認定看護師を目指す皆さんへのメッセージをお願いします。

認定看護師になると、私もそうだったように、新しい世界が開けます。分野に関係なく、学会などでいろんな病院の先生に会えたり、学ぶ道が増えたり、人間関係がどんどん開けていきます。
ぜひたくさんの認定看護師や他の病院の人と話をしてほしいと思います。
そうした世界が広がることは、必ず自分の成長につながりますから。

<坂巻さんがご活躍されている病院>

東京警察病院
〒164-8541
東京都中野区中野4丁目22-1
TEL:03-5343-5611(代)

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