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看護・医療しゃべり場 座談会編

それぞれの立場から振り返る 新型コロナウイルス感染症拡大時のストレス・メンタルヘルス

投稿日:2023.03.20

新型コロナウイルス感染症拡大により、医療従事者は多大なストレスにさらされてきました。先が見えないコロナ禍において、医療従事者のメンタルヘルスをどのように守ればいいのでしょうか。今回は、感染管理認定看護師の四宮聡先生のファシリテーションのもと、感染管理認定看護師の資格を持つ看護部長の嶋雅範先生、普段ナースマガジンではなかなかお話を聞くことのできない臨床検査技師の永田篤史先生の3名にお集まりいただき、感染拡大当初からこれまでを振り返っていただきました。(2022年11月21日オンラインにて開催) 

新型コロナウイルス感染症拡大初期の変化とストレス

四宮:
 第1波や第2波のような感染拡大の初期段階では、日本中がパニックになっていました。 看護部長、臨床検査技師というそれぞれの立場から見て、どんなことに苦労しましたか?
嶋:
 当院では、最初の入院患者が職員というスタートでした。
 
 重症化しICUで受け入れたのですが、一気に準備を進めなければいけない状況で、会議室で師長たちは途方にくれて混乱していました。看護部内では、看護師の考えが二極化しました。
 
  「看護師ならいつかこんな状況に遭遇する」と覚悟していた人が半分、もう半分は子どもや齢の親と住んでいることが心配で「早くなんとかしてほしい」という考えでした。全員で同じ方向を向けるようになるまで、相当な時間がかかりました。
永田:
 当院は、新型コロナウイルス検査の設備が全く整っていない状況でのスタートでした。

 右も左もわからない中で、補助金を利用し、PCR検査機器をはじめ設備投資を行い、発熱外来を立ち上げました。夏は暑く冬は寒い過酷な環境で、PPEをつけた検査技師が検体採取を担当しました。当初マンパワーは足りていましたが、 徐々に検査数が増え、本来私たちが取り組むべき「患者に向き合い寄り添う医療」を以前と比べて提供しにくくなっていったのはつらかったですね。欲しい物品が安定して入ってこないこともストレスでした。
四宮:
  看護部、検査部それぞれがつらい状況だったのですね。職員一人ひとりには、どのようなストレスがかかっていましたか?
嶋:
 初期段階で職員と入院患者が罹患したため、病棟を1つ閉鎖して新型コロナウイルス専用病棟にしました。それでも徐々に感染者が増え、マンパワーが足りなくなってきました。仕事量を大幅に減らして対応していましたが、今度は逆に余裕ができて時間を持て余す職員も出てきました。現場で感染に対応する職員と、対応しない職員の間で、仕事量や考え方に乖離が生まれていたのが大きなストレスだったかと思います。
永田:
 当院では会議で感染対策を話し合い、決定事項を各管理者へ伝え、重要事項は院内メールで発信して情報共有してきました。おかげでルール自体はある程度浸透したものの、なぜそのルールが必要なのかが全体に伝わらず、 職員の不満につながっていました。
嶋:
 当院では重要な情報を共有する際、全職員に届く災害用のメールを使って一斉配信していました。重要な情報は伝わりますが、やはり細かいルールがなかなか浸透しない状況でした。
 
 そのストレスがICTに向けられ、何かあればやり玉にあげられるというつらい状況でした。当時はICTのメンバーに相当なストレスがかかっていたと思います。
四宮:
 全世界が困っていましたから、感情の対立は避けられないこともあったと思います。ただつらい状況でも、関係性を壊さないことが大切だと感じました。

コロナ禍でのメンタルヘルス、パンデミックを通じて得られた組織力

四宮:
 強いストレスがかかるコロナ禍において、ストレスマネジメントは大切ですよね。これから職員が同じ方向を向いていくために、考えていることはありますか?
永田:
 当院では入院患者が発熱すると必ず検査するので、流行の波の間も全く落ち着いているように感じません。ゴールがどこにあるかわからず、ラストスパートで走り続けているような感覚ですね。感染の波がくる度に検査技師の退職者が出て、一人あたりの業務負担は増加し続けています。流行期には、特定の部署だけに業務が集中してしまい、部署間の業務量の差も大きく、モチベーションを保つのが難しくなっています。その中で大切なのは、 「傾聴」を重視した対話だと感じています。お互い協力し合うため、相手の立場に立ってコミュニケーションを取っていきたいと思います。
嶋:
  昨年から職員の気分転換のため、忘年会の代わりにWeb配信の大抽選会をしました。リアルタイム配信しながら、くじ引きで当選者にプレゼントする取り組みです。 景品にはタブレット型コンピュータや肉の引換券などがあり、私は米10㎏を景品として用意しました。引き続き今年も行う予定です。
四宮:
 何かと制限をかけてしまいがちな状況を切り替えて、しかも職員全員を巻き込む取り組みは面白いですね。今後は、新型コロナウイルス感染症だけにとどまらず、次のことにも目を向ける必要があると思います。

 これまでの振り返りと今後の目標を教えてください。
嶋:
 初期段階から新型コロナウイルス対応の経験を希望する職員が何人もいたので、専用病棟は希望者を集めて立ち上げました。当院には以前から根強いセクショナリズム(部門・部署間の分断)がありましたが、専用病棟の立ち上げをきっかけに徐々になくなっていったと感じます。また今回のパンデミックは、病院全体を同じ方向に向かわせる能力を問われましたが、その中で皆それぞれもいろいろなことを考えて成長しました。

 組織としても団結しながら、病院全体が成長する機会にもなったと思います。来年度には、専用病棟ではなく各病棟で感染者を受け入れる状況になるかもしれません。そのときに備え、マニュアル整備をしながらどこでも対応できる体制づくりをしていきます。
永田:
 今振り返ると、さまざまな情報に振り回され、当院の方向性がなかなか定まらない状況が続いていました。徐々に方向性が定まりましたが、組織の弱さに気づき、それをどう克服していくかが問われていたと感じます。そうした変化の中で、個人としてもどうあるべきか、 しっかり考える機会になりました。

 以前は言われた仕事にがむしゃらに取り組むだけでしたが、「検査技師の役割は何か」 、 「何が一番求められているのか」を考えて仕事に向かうようになりました。他にも、 今までの 「当たり前」が取り払われたことで、多くの場面で職員同士が感謝の気持ちを大切にするようになったと感じます。これからもこの気持ちを忘れずにコミュニケーションを取っていきたいです。

 未だ先の見えない不安を抱えながらも、多くの医療従事者が前を見て仕事に励んでいると思います。今、当院では面会をどうするか、非常に活発に議論しているところです。
四宮:
 確かに面会の問題は非常に難しいですよね。本誌が発行される頃には、また感染の状況も変わってきているかもしれません。ただ、 リスクを考えながらも、自分たちの組織がどういうことなら対応できるのかを考え、声をあげられるようになってきているのは良い傾向なのではないでしょうか。

 新型コロナウイルス感染症は、今後すぐになくなるわけではありません。それぞれの立場や価値観で課題は違いますが、これからも力を合わせて感染対策に取り組んでいきましょう。

今後も「ナースマガジン」や「ナースの星」では、四宮先生を中心とした座談会を企画しております。ぜひ注目していただけますと幸いです。

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