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【連載】 エキスパートから学ぶ排尿ケアはじめの一歩

第2回 排尿自立支援、患者さんの生活に大切な視点とは

投稿日:2023.06.26

 連載第1回では、排尿ケアチームをこれから立ち上げる施設や排尿自立支援加算について学ぶ皆様に向けて、看護師として考えておくべきこと、チームを立ち上げた後の病院での変化についてお伺いしました。

 連載第2回目となる今回は、排尿の自立に向けた看護について具体的にお話を伺います。

 高崎先生の視点から、生活指導や自己導尿カテーテルの選定時のポイント、排尿日誌などをご紹介いたします。
東京リハビリテーション病院
皮膚・排泄ケア認定看護師
高崎良子 先生

患者さんの生活背景に合わせた支援

下部尿路障害がある患者さんへの生活指導は多岐にわたると思いますが、具体的にどのような視点で行っているのでしょうか。

高崎先生:
 排尿自立支援加算の対象となるかならないか、という話からは少し脱線してしまいますが、私たちは患者さんの疾患や生活背景を考慮して排尿自立支援に取り組んでいます。

 例えば、腹圧性尿失禁の方は便秘で腹圧がかかると尿失禁が悪化するため、排尿に加えて、排便の調整やアドバイスも必要です。肥満の方も腹圧がかかりやすく尿失禁に影響するので、合わせて食事や運動指導を必要とする場合もあります。間質性膀胱炎の場合は、個人によって症状が出やすい食品があることがあります。一緒に影響のある食事を見つけ、症状がひどくなったら困る時には、その食品の摂取を控えるようにお伝えします。
 
 他にも、自己導尿をする人に、お酒を飲むと尿量が増えるからといって「一生絶対にお酒を飲まないでください」とは言えないですよね。お酒がその人の楽しみの場合もあります。「お酒を飲むと尿量が増えるから、1〜2回は普段より多く自己導尿するつもりで飲んでくださいね」という形で伝えるようにして、患者さん自身でもコントロールできるような働きかけを心がけています。


自己導尿する患者さんに対しては普段どのようなアプローチをされているのでしょうか。

高崎先生:
  排尿ケアチームで病棟へ回診した時は、排尿に関した大きな事柄の助言や指導を行います。しかし、皮膚・排泄ケア認定看護師としての活動では、患者さん個人に合わせた生活指導のやり方を病棟看護師に伝え、社会復帰する患者さんには、直接自分で介入しています。

 病院や家では問題なく生活できても、外出した時に問題なく自己導尿できるかどうかはとても重要です。患者さんが、通っている会社や学校、移動手段、途中で自己導尿できるトイレはあるかどうかなど、まずは患者さんの生活や行動範囲について、一緒に確認をします。

 さらに学校の中に自己導尿ができる障がい者用のトイレはあるのか、その障がい者用トイレは休み時間に行ける距離なのかなど、実際の社会生活をイメージして話をしていきます。

 中には車いすで競技をする、アスリートの方もいます。遠征や試合での導尿のタイミングや、試合時に使用するカテーテルについても一緒に考えていきます。

 患者さんの排尿障害や状態、どのような社会生活を送っているかは本当に様々です。退院は「家に帰れればそれでOK」ではないですよね。

患者さんの生活を具体的にイメージしたフォローが大切なことがわかりました。手技についてはいかがでしょうか。

高崎先生:
  自己導尿を指導するときには、患者さんが柔軟に対応できるように気をつけています。最初に教わった方法はとても患者さんの頭に残るため、それ以外の方法ができないと感じてしまわないよう注意が必要です。

 そうでないと、技術的には色々なカテーテルでの自己導尿が可能にもかかわらず、本人はこのグッズがそろっていないと……と不安になってしまうことがあります。

 はじめに自己導尿に対するハードルが上がってしまい、ちょっとしたことから自己導尿ができなくなり、おむつに大量に尿失禁していたケースがありました。例えば、尿路感染を防止するうえで清潔操作は大切ですが、そのことにとらわれすぎて定期的な導尿ができなくなるくらいなら、必要なタイミングで導尿が継続できるようにすることが大切だと考えています。


費用やTPOに合わせた自己導尿カテーテルの選定

導尿カテーテルはいくつか種類がありますが、選び方についてはどのようにお伝えしていますか?

高崎先生:
 患者さんの社会背景を考えて導尿カテーテルの選択を提案しています。費用面やTPOに合わせたカテーテルの選択というのも広い意味での生活指導になるかもしれないですね。

 費用面から、1か月分として支給できる本数は施設毎に違うのが現状ではないでしょうか。患者さん自身も自己負担分を考えながら生活されています。経済的な理由で使い捨て(ディスポーザブル)型ではなく、再利用型を希望される患者さんや、使い捨て型と再利用型を使い分けている患者さんもいらっしゃいます。

 患者さんが周囲に自己導尿していることを公表しているかどうかは、カテーテルのサイズがどの程度まで許容できるかも変化します。周囲に知らせず、ポケットに入れて持ち運べるものを希望する患者さんもいれば、周囲に伝えている患者さんであれば長いカテーテルを持って移動できます。職場のトイレに常備している人もいます。

 カテーテル自体が折り曲げられないタイプでは、持ち運びで目立ってしまうため、周囲に知られたくない患者さんが学校や職場で使うのは難しくなります。とはいえ、固めのカテーテルでないと上手く自己導尿ができないケースもあり、一概にコンパクトなものや折り曲げられるものといったことではなく、患者さんの受容の段階や性格、周囲との関係性によって選び方が異なるため、丁寧なヒアリングが欠かせません。


患者、家族、看護師にメリット、排尿日誌をつける意義

前回、排尿日誌はアセスメント上重要だと伺いました。しかしながら忙しい臨床の現場では毎回記載するのは大変かと思います。高崎先生は周りの看護師の皆様にはどのように伝えていますか?

高崎先生:
 排尿日誌はとても手間がかかることは確かですが、その効果(図)は手間を上回るものがあると考えています。そのため最低でもまず24時間はつけてみて欲しいと伝えています。排尿日誌からは患者さんの排泄に関する重要な情報が得られます。排尿障害を診断するうえでの材料にもなりますし、患者さんの排尿パターンを知っておくことで、その後のケアがしやすくなります。

 一例をあげると、この患者さんは大体何時と何時におむつ交換すると良いという具体的なケアの時間の目安にもなります。適切な時間にケアができることで、患者さんのおむつからの尿漏れを防ぐこともできるので、急なシーツ交換や更衣をしなくても済むようになりますよね。
排尿日誌の効果

患者さんとっても看護師にとってもメリットがありますね。

高崎先生:
 そうですね、さらにご家族にとってもメリットがあります。

 排尿日誌により、患者さんの家族が購入しているおむつが容量不足で尿漏れをしていたと分かったことがあります。退院後の自宅では、病棟のようなぺースではおむつ交換を出来ないことが多いでしょう。夜間の尿量がわかれば朝まで交換せずに済むおむつの選定ができるようになります。それによってご家族も介護がしやすくなりますよね。排尿日誌はケアに繋がる大切なもので、そこから得られた情報がとても役に立ちます。

 当院は回復期病院なので、新人研修で排泄の講義があり、排尿日誌についても伝えています。急性期病院では、優先順位が異なり教育ニーズが違ってくるかと思います。施設ごとの教育ニーズにあった時期や方法で伝えていただくと良いと思います。

ありがとうございました。患者さんの生活を知ることや排尿日誌の活用は生活を支援をするうえでも大切なことだとよくわかりました。



次回は、排尿日誌の付け方や読み方など、具体的な活用についてもぜひお伺いしたいと思います。

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