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西山 順博先生の胃瘻(PEG)ケアコラム第6回

第6回 在宅医療で欠かすことのできない摂食嚥下状態のモニタリングの克服

今、春の消化器内視鏡学会総会の抄録を書いています。医師は日常診療を行うだけでは自分の診療した患者さんしか幸せにはできません。当院は、理事長(父)と一緒に診療をやっていますが、日に120名の患者さんをみることが精一杯の状況です。


120人といってもほとんどが風邪や生活習慣病の患者さんです。私は消化器を専門としています。PEGケアはライフワークの一環として行っていますが、PEG患者さんのケアにおいても、私が直接関わっているのは30名ほどです。



つまり、患者さんにとって有用と思われることをドンドン学会で発表し、世に広げていくことで、それを聞いた諸先生方・ナースの皆さんがそれを参考に医療していただくことで、地域の日本の医療が向上していくと考えています。


また、学会で発表することで色々とご批判をいただくことは私自身の糧にもなります。ただ、学会は星の数ほどありまして、私が所属している学会だけでも日本内科学会、日本消化器内視鏡学会、日本消化器病学会、PEG在宅医療学会(HEQ)、日本静脈経腸栄養学会在宅医療学会(JASPEN)などなど、大きな学会では年2回の全国大会、年2回の地方会と4回。抄録の締め切りに追われる毎日であり、今日も抄録を書いているわけです。


今回のコラムでは第83回日本消化器内視鏡学会総会のシンポジウム:『地域医療における内視鏡の役割』に登録しようと思っている抄録を世に出る前にお見せします。あまり興味ないでしょうか?抄録は提出したからといって採用されるわけでもなく、全国各地から募集され、選りすぐられたものだけが採用されます。この抄録も果たして採用されるのでしょうか?

『在宅医療で欠かすことのできない摂食嚥下状態のモニタリングの克服』 医療法人西山医院 西山順博

当院は無床診療所であり、2007年8月より積極的に内視鏡検査・治療を行ってきた。年間、上部消化管内視鏡検査を約700件、下部消化管内視鏡検査を約300件行い、2011年9月現在の累計は上部消化管内視鏡検査(経口:1871件、経鼻:1417件、計3288件)、下部消化管内視鏡検査(検査のみ:1083件、内視鏡治療:267件、計:1350件)、胃瘻交換(266件)である。なお、約40%が診診連携にて、近医よりの内視鏡検査のみの紹介患者である。


内視鏡検査では何よりも悪性疾患の発見が急務であり、咽頭癌2症例、食道癌5症例、胃癌41症例、大腸癌31症例の計79症例を発見した。患者は何らかの消化器症状を主訴に検査されており、消化器の機能(機能性胃腸症の拾い上げ)を観察することも内視鏡医には必要なことと考え、レポートに添えている。



上部消化管内視鏡検査では胃の背景粘膜(Hpの有無)、胃の形、胃蠕動の状態など。下部消化管内視鏡検査では洗腸液の飲みっぷりや排便状況、検査中の痛みの程度、腸管の屈曲状況など。



様々な内視鏡検査時の情報が患者の自覚症状と合致することがある。これを基に生活習慣等の指導を行うだけでも症状は改善し、投薬でサポートすることでより改善度は向上する。


また、咽頭違和感を訴える患者も多く、その際は経鼻内視鏡を選択している。悪性疾患の発見には経鼻内視鏡(オリンパス社XP260NS)であってもNBIは有効であると考えてルーチンでNBIでの観察も加えている。


当初は咽喉頭観察に不安があったが症例を重ねることで自信につながり、最近は有症状者には検査中に発声、空嚥下を行い嚥下機能の観察をしている。


近年、胃瘻患者数が急増する中、安心して在宅で胃瘻患者を管理できる環境づくりが急務であり、摂食嚥下状態のモニタリングも我々内視鏡医が行えるものである。



以前は、意思疎通が困難な患者では、反復唾液嚥下テスト(RSST)や改定水飲みテストが行えるわけでもなく、胃瘻交換時に家族・訪問看護師への問診と簡単な診察のみで、才藤らの摂食・嚥下障害の臨床的重症度分類に従い評価し、紹介医に報告してきた。



胃瘻患者の多くは、食物誤嚥(誤嚥を認め、食物形態効果が不十分なレベル、経管栄養法が基本となり、経管栄養を行っている限り医学的安定性は保たれる)に分類されるが、近い未来に不顕性誤嚥を起こす可能性がある者、逆に直接嚥下訓練が可能であるのにできていない者が含まれていた。


2010年10月よりPENTAX製ポータブルマルチスコープ(FP-7RBS2)を導入し、在宅にて胃瘻交換を行っている胃瘻患者40名を対象に、胃瘻交換後のPEGカテーテルの留置確認と咽喉頭内視鏡も施行している。



嚥下内視鏡(VE)ほどの評価はできないが、摂食嚥下状態が客観性を持って評価できるようになり、7名で口腔ケアの強化を指導。3名は直接嚥下訓練へのステップアップが可能と判断し、摂食嚥下外来のある施設に紹介することができた。


今後、地域医療での内視鏡観察として、悪性疾患を見つけるだけではなく、機能評価のできる内視鏡検査が望まれる。また、在宅療養患者の嚥下機能がモニタリングできPENTAX製ポータブルマルチスコープのニーズは高まっていくものと考えている。

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