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患者さんの真のプロフィールを知るために第3回

【患者さんの真のプロフィールを知るために】 第3回 事例紹介①患者からの言葉をうまく看護ケアに繋げたケース

投稿日:2015.07.07

看護師は、患者さんから入院前の生活についても話を伺う機会が多いと思います。患者さんからの話に耳を傾けることは重要です。
今回は患者さんから聴いた話を看護ケアにうまく繋げたケースを紹介します。
皆さんの普段の看護ケアをふり返る参考となれば幸いです。

「知り合いも同じ病気で長生きしなかった」

70 代後半を過ぎ、長年勤めた美容師の仕事をリタイヤし、人生をゆったりと過ごそうとしたときにパーキンソン病を発症した女性、B さん。
同じくパーキンソン病に罹患した知り合いの方から聴いた話を通して、「この病気は治らない」と悲観的に捉えていました。
家族の助けを借りながら自宅で暮らしていましたが、症状が進行するに連れて暮らしにも差し支えるようになり、薬物療法とリハビリテーション目的で入院してこられました。

看護師が病室を訪問すると、看護師とのお喋りを和やかな表情で楽しんでいました。パーキンソン病は、1 日の中で身体の動きの良いとき、悪いときといった変動のあるのが特徴で、身体の動きの良いときに何かをするように勧めることがリハビリのコツと言われています。
看護師が「日常生活の中で動くこともリハビリになりますよ」と促しても、Bさんは「いつかは動かなくなるから…知り合いの人も同じ病気で長生きしなかった」と穏やかに返答し、積極的に動こうとはされませんでした。

日常生活の一部をリハビリテーションに

あるとき、Bさんが看護師の介助でシャワー浴をしたときのことです。シャワー後の着替えを済ませ、鏡に映った自分を熱心に覗き込んでいるBさんを見た看護師は、
「そういえば、いつも私は綺麗に化粧していたと話していたわ。もしかしてこれならできるかも…」と、結髪をするために持参した櫛を見つめました。

「Bさん、この櫛で髪をとかしてみませんか」。
Bさんは渡された櫛を右手に持ち替えると、自分の髪を一心不乱にブラッシングし始めました。それは、Bさんが現役で美容師をしていた頃を彷彿とさせるものでした。
改めてBさんのベッドサイドを見渡すと、床頭台の片隅に置かれた化粧水や乳液の化粧瓶が看護師の目に留まりました。
翌日から看護師は、「今朝は髪の毛をとかしましたか?」「顔拭いたあと、化粧水つけましたか?」と尋ねることを始めました。
Bさんは慣れた手つきで髪の毛をとかし、化粧水をバシャバシャつけます。すべてが終わった後、「どう?少し綺麗になった?」と笑顔で聞いてくるようになりました。

看護師はBさんとの会話の中から、元美容師で自分の身なりに大変気を遣う方であったという情報を持っていました。接客営業という仕事柄、他者から何かをしてもらうことには気が向かないことも知っていました。その情報を活かし、将来に対して悲観的でリハビリにも積極的ではなかった日常生活の中に、Bさんならではのリハビリテーションを取り入れることに成功したのです。

生活に治療を引きつける

看護師は患者さんと関わる中でたくさんの情報を得ますが、その情報を看護に必要なデータとして解釈できるかどうかは、看護師一人一人のとらえ方次第です。
河口ら※は、「治療に生活を引きつけるのではなく、生活に治療を引きつけることが重要である」といっています。今回の事例は、まさしく治療のために必要なケアではなく、患者が長年生きてきた生活を語る情報を、看護に必要なデータに活かすことができたケアでした。

皆さんも、患者さんの言葉に着目し、その人を知るだけでなく、その人らしさを尊重した看護ケアに活かしてみませんか? 
(つづく)

※河口てる子:患者教育のための「看護実践モデル」開発の試み、看護研究36(3)、p3-11、2003.

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