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歯科衛生士アイ子の訪問日記第3回

口腔ケアコラム  歯科衛生士アイ子の訪問日記から ~歯ブラシがみるみる上達した斎藤さん~

知人の看護師さんの紹介で訪れた老人ホームで、齋藤さん(仮名)と私は出会いました。

齋藤さんは90歳の男性で、身寄りがなく、生活保護を受けて入所していました。歩行困難のため、車いすでの生活をしています。
依頼の内容は、「右下奥歯から出血があり、食事やうがいをする度にその血が気になる。かかり付けの内科医に止血剤をもらったが、歯茎からの出血は一向におさまらない。」とのことでした。

施設を訪ね、初めて齋藤さんと挨拶を交わした時、彼は挨拶を返してはくれず、私をじっと見つめていました。「何だか手ごわそう」と思う私の心のつぶやきを、彼は見透かしたように、「お手柔らかに」の言葉と共に笑顔になりました。

診察の結果、軽度の歯周病でした。しかし、いつも「チッチッ」と気になるのか患部に舌を入れて吸い込む癖があり、いつも歯肉に刺激を与えてしまい、血がなかなか止まらない状況になっていたようです。

先ずは丁寧に口腔内全体にブラシをかけ、患部に歯肉マッサージをしてから抗生剤の薬を注入しました。これを週に1回、4回ほど繰り返しました。
健常者であれば2週間ほどで改善していく状況でも、高齢者ともなると、よほどブラッシングを毎日きちんと続けないと改善は難しく、「気長にケアをしていこう」と考え、3回目の訪問時は、コミュニケーションの一環として、斉藤さんと遊びのように楽しく磨き方を丁寧に伝えて帰りました。

しかし4回目の訪問時、齋藤さんの口腔内が先週より遥かにきれいに磨けていて、主訴の歯肉も改善していてビックリしました。
「すごい!良くなっている!」と嬉しいあまり、施設スタッフに状況を聞いてみると、齋藤さんは、1週間前から食後自らブラッシングをするようになったと教えてくれました。

前回の歯磨きの仕方が楽しかったのか、斉藤さんが他の利用者さんにも教えていたりすると聞き、本当に嬉しく思い、齋藤さんの手を握りしめてしまいました。

 治すための歯磨きより、楽しくコミュニケーションを図る歯磨き指導の方が、こんなにも相手を動かし、治癒に繋がっていくものなのだと、しみじみ実感した症例でした。

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