災害看護の現状と課題
【第2回】平時からの取り組みその心構え
投稿日:2024.12.26
災害看護というと非常時に特殊な環境下という看護を考えがちですが、日々の看護ケアが災害看護につながることを第1回で解説しました。第2回では物資の備蓄や院内教育・患者指導、コミュニケーション力の強化など「災害を想定した平時からの備え」に着目。これまでに多くの被災地で活動をされてきた災害看護専門看護師、岡﨑敦子先生にお話を伺いました。
独立行政法人国立病院機構 東京医療センター
災害看護専門看護師
岡﨑 敦子 先生
災害看護専門看護師
岡﨑 敦子 先生
災害看護認定看護師への歩み
2003年 久留米大学病院に勤務
2005年 福岡県西方沖地震発生
2007年 災害看護を学ぶため病院を退職し、兵庫県立大学大学院へ入学
2009年 大学院を修了し、再び久留米大学病院に復職
2009年 災害支援ナースとして活動を開始
2017年 災害看護専門看護師資格を取得
2024年 独立行政法人国立病院機構 東京医療センターに勤務、現在に至る
2003年 久留米大学病院に勤務
2005年 福岡県西方沖地震発生
2007年 災害看護を学ぶため病院を退職し、兵庫県立大学大学院へ入学
2009年 大学院を修了し、再び久留米大学病院に復職
2009年 災害支援ナースとして活動を開始
2017年 災害看護専門看護師資格を取得
2024年 独立行政法人国立病院機構 東京医療センターに勤務、現在に至る
物資の備蓄と心構え
大規模災害が発生した際に医療活動の中心となる病院では、 医療資源はもちろん、 さまざまな備えを考えています。 とはいえ、 病院の規模や役割、 方針、予算などによって備えられるものには多くの違いがあるかと思います。 災害拠点病院であれば、 指定要件の中に「食料、 飲料水、 医薬品等について、 流通を通じて適切に供給されるまでに必要な量として、 3日分程度を備蓄しておくこと」 とありますので、 使用期限を把握して無駄が出ない備えを当院でも工夫しています。 水や食料品などは、 備蓄する場所を確保することから考える必要があります。 地下ですと浸水被害で使えなくなる可能性もありますし、 低いところから高いところに運ぶには労力もかかります。
非常食の搬送訓練(地下~9階)
バケツリレー方式で。踊り場では次のスタッフが待つ。
バケツリレー方式で。踊り場では次のスタッフが待つ。
大規模災害の発生に備えて、各病院でBCP(Business Continuity Plan:業務継続計画) を策定しておくことも大切です。BCPというのは、 緊急事態が発生した時でも損害を最小限に抑え、業務を中断させないように準備するとともに、中断した場合でも最優先業務を実施するため、あらかじめ検討した方策を計画書としてまとめておくことです。
また、 災害拠点病院指定要件には「災害時に多数の患者が来院することや職員が帰宅困難となることを想定しておくことが望ましい」 とも書かれていますが、 職員の分まで備蓄されているでしょうか。 一人ひとりがどう備えるかを考えて、 実行する必要があるかもしれません。
病院に限らず、住んでいる地域や働いている地域のことを知ることから始めてほしいと思います。たとえば、自宅や職場、いつも使っている駅などの海抜(標高)が何mなのか、公衆電話がどこにあるか、停電したら避難する場所があるかなど。できれば、いざという時、助け合えるコミュニティを作っておくことも有効です。とにか重要なのは、患者さんも医療を提供する側の私たちも生き延びることです。
患者さんが災害時にどうい ったことに困るかも想像してみましょう。 患者さんと一緒に対策を考えられるとよいと思います。
たとえば、透析の患者さんには透析条件(ダイアライザーの種類、薬剤、透析時間、血流速度、目標体重など) を伝えておくと、災害発生時に他の施設でも安全に透析を受けやすくなります。透析を行う病院ではハードデ ィスクに最新のデータを保管すると同時に、患者さんにも自身の治療に関する情報を携帯してもらう取り組みも進んでいます。
ストーマ装具などは全国的な災害時支援ネットワークが広がっていますが、 患者さんが備えておくと同時に、 代用可能な装具や緊急時の対応について看護師が患者さんと共に検討しておくことも備えの一つです。
難しい状況で判断する力を身につける
災害発生時には、 物事の緊急度と重症度を見極め、 優先順位をつけて行動することが求められます。 しかし、 日常的な業務の中では判断できる事柄でも、 災害時には複雑な状況が起こり、 判断を迷うことも出てきます。
実際、 熊本地震発生時、 当時私が勤務していた病院には、 大勢の透析患者さんがバスで搬送されてきました。 その時、 ある看護師が入院された患者さんに 「500円貸してほしい」 と言われたのです。 その患者さんは、地震により自宅に被害を受け、大切な家族を亡くされ、着の身着のままの状態で日用品も持たずに避難されてきました。そんな患者さんのお願いに応えたいと思う反面、同じような状況の患者さんも多く、どう対応すればよいか迷ってしまいました。その時は仲間や上司に相談して、スタッフ個人の考えで対応せず、事務部門の職員とも法的な特別財政支援などが適応されるか否かを確認した上で、院内の方針を決めて柔軟に対応しました (表) 。
災害時は要配慮者に留意しますが、救援物資などの配布をはじめ、その時点で誰が優先されるべきなのかは複雑な状況によって変わってきます。普段から話し合って考えておくことも大事ですし、その場で話し合って決めたことに関しては 「あの時ああすればよかった」などと後で言わないことも大切です。みんなで決めたことが最良であり、普段から意見を出し合える風土づくりが大切だと言えます。
(表)熊本地震で直面した事例
患者さんからお金を貸してほしいと言われた事例
他病院から、透析の目的で転院してきた患者さん。
入院に必要な歯ブラシや靴がない。持参金は500円のみ。入院期間の目途は立っていない。
お小遣いを貸してよいか迷って考えたこと。
入院に必要な歯ブラシや靴がない。持参金は500円のみ。入院期間の目途は立っていない。
お小遣いを貸してよいか迷って考えたこと。
貸す場合
・身を切ることになる
・同様の問題が多数発生した場合、対応できなくなる可能性がある、または不平等になる
・身を切ることになる
・同様の問題が多数発生した場合、対応できなくなる可能性がある、または不平等になる
貸さない場合
・倫理的な問題が生じる可能性がある
・健康状態が悪化する可能性がある
・助けたいのに、助けられなかったと自分を責める
・倫理的な問題が生じる可能性がある
・健康状態が悪化する可能性がある
・助けたいのに、助けられなかったと自分を責める
実際の対応
・個人で対応せず法的根拠を検討しつつ院内方針を 定め、それに沿って可能な備品を貸し出した
・個人で対応せず法的根拠を検討しつつ院内方針を 定め、それに沿って可能な備品を貸し出した
お互いの気持ちを素直に伝えるコミュニケーションを
日頃から 「なぜ、 あの時相談してくれなかったのかな」 「カンファレンスで発言してもらえたらみんなで考えられたのに」 などと思うこともあります。 いざという時に困らないよう、 普段から周囲とうまくコミュニケーションが取れることも大事です。
先輩や上司がいつも忙しそうにしていると、 「大変そうな時に相談できない」 と思わせてしまい、 相談のタイミングを逃すことで重大な事態になる可能性もあります。 そこで、 些細なことでもスタッフが相談しやすいように、 私から積極的に声をかけるようにしています。 相談された時は、 相手を尊重しながら自分の気持ちを伝える返答を心がけています。
たとえば日常勤務において、 仕事量が同じくらいになるように配分しても、 早く終わる時と時間がかかる時があります。 仕事内容に対する得意不得意もありますから、 一人だけ仕事が遅れそうな時、 同僚や先輩に 「間に合わないから手伝ってほしい」 と伝えられる関係づくりができているか振り返ってみましょう。 相談する方も答える方も、 普段から業務の緊急度と重症度を考えながら優先順位を検討し、 助け合って業務を進めていくことを意識したコミュニケーションを、 習慣づけておきたいものです。
それが、 発災時に個々のスタッフの得意な領域や能力を活かした緊急対応につながるのではないでしょうか。
(2024年8月13日取材)
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