1. ホーム
  2. コラム
  3. 看護・医療 しゃべり場 アドバイス編【経管栄養患者の排便コントロール 】
看護・医療しゃべり場

看護・医療 しゃべり場 アドバイス編【経管栄養患者の排便コントロール 】

投稿日:2015.03.10

2014年4月の診療報酬改定で、胃瘻造設にかかわる点数の見直しや在宅医療の推進といった国の方向性が示され、経口摂取回復の取組が評価されるようになりました。
経口・経管いずれにしても、患者さんのQOLを下げずに確実な栄養補給を行うことが、臨床現場には求められます。

この度、宮城県内の病院で経管栄養に携わっている5人の看護師さん達から、お話を伺う機会を得ました。皆さん、〝排便コントロール〞という共通の悩みを抱えておられるとのこと。
そこへ「少しでも皆さんのお役にたてれば」と駆けつけて下さったのが、水野英彰先生(目白第二病院副院長、外科・消化器科部長)。
ご自身で行った調査結果も含め、経管栄養管理上の工夫、注意点を教えていただきました。
水野 英彰 先生
1998年杏林大学医学部卒業、同第一外科入局。
河北総合病院、杏林大学第一外科を経て、
2006年目白第二病院勤務。
2014年同院副院長に就任、現在に至る。

急性期病院の消化器外科医が高齢者医療も?

僕は目白第二病院という急性期病院の消化器外科医です。当院は東京23区外、埼玉と神奈川に挟まれたところにあり、周囲には45もの高齢者施設があります。
それらの施設から、胃瘻造設を含む患者さんを受けていますので、高齢者医療とは何かと関わりがある病院です。
僕自身、5年前から近所の有料老人ホームに往診もしています。生活の場である老人ホームですが、経腸栄養管理の方が38名いらっしゃいます。直径が2ミリくらいの細い内視鏡を使って、iPad に画像を映し出して、胃瘻カテーテルの交換も外来ではなく施設で行っています。
そういうわけで、急性期病院で手術をバリバリやりながら、慢性期も含めた高齢者医療にもかかわっている医者としての経験から、経管栄養管理を進めてゆくポイントをお伝えしたいと思います。

排便コントロールの対応

経鼻胃管や胃瘻などの経管栄養管理で困っていることの一つに「下痢」があります。下痢を止めようとして便秘とのいたちごっこになることも多く、排便コントロールは共通の課題のようです。
腸の疾患や注入に関する医療機器からの感染によるものではない下痢への現場での対応といえば、

①1回あたりの投与量を減らしたり速度を遅くしたりする。場合によってはポンプも利用。
②食物繊維を追加する。
③乳糖を含まない製品、半固形状の製品、ハイカロリーで水分量を抑えた製品など、ケースごとに栄養剤を変更する。

などが挙げられます。

下痢が認められたからと言って食事を止めてしまうと、腸を使わないことにより機能が低下し、食事を再開したときに水分を吸収しきれずにまた下痢を起こす、という悪循環に陥りがちなので、注意が必要です。
水分を吸収してゆっくり排泄してくれる食物繊維の効果も注目されています。
海外からは、「腸管機能の低下している高齢者には、食物繊維のグアーガムを使用すると下痢を抑制し、便通が良くなる」という報告もあります。

「ゆっくり投与」のジレンマ 

腸が水分を吸収しきれない下痢であれば、まずは速度を落としてみようと考えますね。一般に、1回の投与にかかる時間は2時間くらいだと思いますが、下痢となると、もっとゆっくりにするでしょう。
しかし、長時間じっとしていられずにチューブを抜こうとする人もいるでしょうし、そうされないために抑制せざるを得ないという別の問題も生じます。

褥瘡ができていれば、長時間同じ姿勢で圧がかかることにも気を配らねばなりません。
できるだけ早く患者さんをフリーにしてあげたいけれど、急速投与で下痢を起こしてしまっては必要な栄養や水分を摂ることができない。このジレンマが皆さんを悩ませているのではないでしょうか。

短時間投与の切り札は「半固形」

近年、市販の経腸栄養剤や濃厚流動食の形状に「半固形」が増えてきました。
僕らの食事は、飲み込んだときの胃内の状態は「半固形」です。この状態に近いものを短時間で注入する方法が、下痢対策としても有効であることが報告されています。

ここでは短時間で投与することがポイントとなります。食事のように、ある程度の量や形を有する状態で胃の中に入る刺激が、蠕動運動や消化のためのホルモンの分泌を促進するからです。

「半固形」の弱点も克服

下痢への対応として有効な「半固形」ですが、その粘度ゆえ、経鼻には向かなかったり、注入時に加圧が必要だったりという弱点もあります。
加圧バッグ使用、シリンジ使用、手で絞り出すなど、患者さん一人あたりは短時間で注入できても、人数が増えると看護業務の負担を増やすことにもなりかねません。

そこで登場したのが液体と半固形の間に位置する「とろみ」状。
点滴のように自然落下で注入できる粘度で、半固形同様の効果が期待できるバッグ製品が市販されています。
また、注入前は液体で、胃内で含有成分と胃酸が反応して固化する製品もあります。

僕自身が行った150症例を対象とした自然落下によるとろみ栄養食の注入調査でも、1回の平均注入時間は約18分と大幅に短縮できたうえ、ブリストルスケールを基にした便性状スコアの1点にあたる軟便が、1日に1〜2回という良い結果でした。

みんながハッピーになるために

患者さんの全身状態や消化管機能が正常かどうかという基本的な情報を押さえた上で、栄養剤の形状や注入法のバリエーションを正しく理解し使いこなせれば、経管栄養の患者さんにも多様な対応ができるようになります。
トラブルを回避できれば、患者さんのQOLも上がりますし、みなさんの業務の負担軽減にもつながります。また、コスト面の有用性を示した報告もあります。

【自然落下法 臨床面での有用性】

①患者拘束時間の軽減に寄与!

②看護作業の効率化のアップ!

③コスト・破棄物の削減の可能性

今後、栄養療法、栄養管理を含む摂食障害への対応は、看護師のみなさんの評価や判断が重視されていくようになるでしょう。個々の患者さんに対して何がメリットでこういう対応をしているのかということを意識して、ハッピーなケアを提案・実践してほしいと思います。

◆お話をうかがった皆さん
●医療法人浄仁会 大泉記念病院 : 八幡あゆみさん・佐藤文弥さん
●一般財団法人周行会 内科佐藤病院 : 伊藤麻理さん
●医療法人松田会 松田病院 : 千葉麻斐さん・木村真奈美さん

このコンテンツをご覧いただくにはログインが必要です。

会員登録(無料)がお済みでない方は、新規会員登録をお願いします。



他の方が見ているコラム