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ナースマガジン号外号「経腸栄養剤利用実態の実情と課題」

投稿日:2018.03.29

高齢者の疾患に起因する低栄養・低体重が問題となっています。
在宅療養高齢者の必要栄養量を確保する為に、栄養療法の活用が行われています。そこで、経腸栄養剤の処方や服用実態、さらに当事者の低栄養に関する自覚や改善への意識について、悠翔会 佐々木淳先生に監修いただき調査を実施しました。

調査概要

・調査票回収期間:2017 年12 月20 日~ 2018 年1 月15 日
・調査方法:訪問看護事業所に調査票と調査依頼状を郵送し、在宅療養者に対して、訪問看護師から問診・ヒアリング・代筆にて調査票を記入
・調査対象:経口摂取が可能な在宅療養者
・調査票回収方法:訪問看護師から調査票をFAX にて回収。
・調査票回収N 数:
75 歳以上で経腸栄養剤を処方されている方/ 220 名
75 歳以上で経腸栄養剤未処方の方/ 54 名
合計/ 274 名
訪問看護を利用する在宅療養者は低体重(平均BMI18 .1)。

調査対象者の基本属性

-年代:70 代(75 歳以上)25 %、80 代46 %、90 代以上29 %。

– 男女比:男性35 %、女性65 %。

– 介護度:要介護度3 以上で66 %

– 既往歴・病歴:1 位 認知症、2 位 脳こうそく、3 位 がん消化器系、4 位 パーキンソン、5 位 心筋梗塞以外の循環器系

– 平均BMI:18 .1〔BMI の記載のあった216 名(男性37 .5%、女性62 .5%)の平均身長152 .3 ㎝、平均体重42 .1 ㎏より算出〕
 低体重※とされるBMI 18.5未満が60%(※日本肥満学会 判定基準による)
死亡リスクが最も低い70 代の平均BMI は、男性25 、女性24 。高齢になるほどBMI が高いほうが死亡・疾患共にリスクが減る。
今回調査の「BMI 18 .1」がいかに高リスクであるか再認識したい。

高齢者にとって低体重は最大のリスク。 経腸栄養剤はハイカロリーなものをファーストチョイスに。

在宅で経腸栄養剤を処方されている220 名のアンケート結果から、処方実態と服用状況についての現状と課題を佐々木先生とともに浮き彫りにします。

経腸栄養剤の処方経緯の1 位は『食事量が減った』が75%。
しかしもっと重要なことは、その原因を遡ること。
経腸栄養剤の処方に至る経緯は、「食事量が減った」75.5%、「体重が減った」47.3%、「食欲がわかない」28.2% と、食事しないこと自体や、それによる体重減少が理由である方が大半。
どうして食事量が減ったのか?なぜ食べないのか?という理由・原因に着目することが重要であるとわたしは考えます。
高齢者には、一回の食事にかけられる時間や量に限界がある可能性があります。
よく言われる摂食・嚥下障害、認知症などによる食事への集中力低下などはそれほど多くなく、実は生活面(義歯の不具合や、食事の際の座り姿勢が不安定など)に原因があるケースも多いのです。その場合は生活面を工夫すると、食欲の回復が見られることがよくあります。
アンケートには「あごが外れる事がくせになってしまった」というコメントもありましたが、食べる、噛む行為自体が負担になっている方も多いと考えられるのです。
その一方、「食事準備に苦労している」「認知症で食べさせるのが大変」という介護者目線の理由も見逃せません。

約75%の方が、経腸栄養剤の処方指示量の 3/4 以上服用できている。
さらに、飲み切れない40% の方に対する服用の工夫や支援を充実させたい。
処方指示量に対する服用率は、全量が57.9%、3/4 が16.8% とおおむね良好。
ただし、1 日1 本の指示量でも4 割近くの方は、飲み切れない、飲む量を無理しない、といった感じで、服用に苦労されている実情も伺える。
経腸栄養剤は、あくまで、経口による通常の食事を補うものですが、処方されたからには薬と同じく毎日服薬遵守しなければと本人も介護者もさまざまに工夫・苦労されています。
例えば、1 本を1 日かけてちょっとずつ飲む、冷やす・温めるの温度調整、凍らせる・ゼリーにするなど形状変化、服用タイミングを変えるなど。
そこに対しては、在宅医療従事者、主に訪問看護師さんならではの生活視点での指導がより良い支援になると思います。

今後はさらに、服薬方法のアドバイス、ハイカロリータイプの経腸栄養剤の活用を促すなどの指導が欠かせないと思います。

経腸栄養剤の服用継続に必要な要素1位は
『少量で高栄養摂取が可能』が84.1%。
経腸栄養剤の継続に重要な要素として、「服用量が少なくても必要なエネルギーが摂取可能」「味が良い」「味の種類が多い」を求められる方が大半。
食事量や食事をこなす体力に限界がある高齢者には、効率的、かつ合理的な栄養確保が重要です。
仮に一回の食事時間30 分とすると、経口での通常の食事が可能な療養者なら、集中できる最初の20 分で好きなものを食べられるだけ食べてもらい、残り10 分に経腸栄養剤で補食する。さらに、1kcal/mL の経腸栄養剤より、少量で高たんぱく質・高エネルギーが摂取できるハイカロリーの経腸栄養剤のほうが、お腹も膨れず、時間短縮にもつながります。

経腸栄養剤には甘いものが多いため、服用後に口の中のさっぱり感を保つ工夫(服用後の口腔ケアなど)も、在宅療養支援の視点で考えると必要になります。
96 % の在宅療養者がハイカロリータイプを求めている。
少量の服用で栄養確保可能な栄養剤の使用意向は96% と非常に高い。高濃度の経腸栄養剤が求められている。
高齢者ほど低栄養・低体重はリスキーです。少量高栄養で高濃度の経腸栄養剤の活用を、積極的に検討してもよいと思います。
また、介護者の立場で服用継続に必要な要素を考えると、悠翔会では、訪問調剤薬局と連携し訪問調剤をしてもらっています。
訪問服薬指導の際に持ってきてもらうことで、服薬アドヒアランスが向上しますし、定期的な訪問調剤に入ってもらえば、残っている本数を見ることで服用状況の確認ができ、リクエストに応じた味の変更もしてもらえます。

低体重の方の2/3 は低栄養の自覚あり。
早急に栄養管理の検討を
回答者の60%がBMI18.5 未満。その内67%が低栄養の自覚ありと答えている(図1)。
経腸栄養剤を処方されていない方に限ってみた場合には、76%が低栄養を自覚している(図2)。
なぜ処方されていないのか?という背景のアセスメントが必要ですね。
実際は、低体重の方に何らかの介入をされているケースも多いと思います。
が、そもそも本人やご家族が低栄養・低体重に無関心でいる可能性もあり、そうなると医療従事者が正しくアセスメントできず、介入タイミングの見逃しにつながってしまいます。
日ごろからの注意深い観察や良好なコミュニケーションによる指導・啓発に、今後も力を入れてほしいと思います。

高齢者の低体重には早急な栄養対策が必要です。

ご自身の栄養状態を良くしたいと思っている方は83%。
低栄養・低体重のリスクに目を向け、ご本人と理想を共有しましょう。
栄養状態を良くしたいと考えている在宅療養高齢者は83% とかなり多い割合でいる。
こうした方々は、病的理由がない限りは栄養ケアを受けるべき対象です。ぜひ体重を増やしてあげないとならないですね。
悠翔会の在宅栄養サポートチーム(栄養士、嚥下リハビリ専門医、歯科医師、衛生士などで構成)で訪問診察すると、薬や生活面を改善すれば食べられるようになり、実際に嚥下リハビリまでつながる人は少ないのです。
まずは、低栄養・低体重への無関心をやめ、原因を正しく知り、栄養状態を良くしたいと望む本人の理想を共有する。在宅療養者を支える訪問看護師さんには、ぜひとも押さえていただきたい視点です。


今回の調査対象は、少なからず経口による通常の食事ができている75歳以上の在宅療養高齢者と考えられます。食事量の低下や低体重が見られるため経口の経腸栄養剤を利用している人と、そうであるにも関わらず利用していない人がいることが分かりました。
歳を取れば痩せて当然と本人も周囲も思い込んでいるかもしれませんが、事実はその逆で、歳を取るほど太ってBMI を上げたほうが要介護度を早めるリスクや死亡リスクは低下します。
BMI 25 以上の高値で栄養充足されていることが、高齢者にとって最大の予防なのです。

生活や食事の在り方、ADL 等についての本人の理想を、家族や介護者、在宅医療従事者で共有し、食支援・栄養補給支援を充実させることが在宅医療者に求められています。孤食が食欲不振につながるケースも多いので(特に男性は孤食で死亡リスクが上がる)、家族と食べる、一緒に食べる友人を持つといった社会とのつながりを作ることも、栄養ケアの工夫の一つだとわたしは考えます。
楽しく食べることに興味を持ってもらい、食べる行為そのものに負荷があるなら、より少量で高エネルギーのハイカロリータイプ経腸栄養剤を選定して服用する。介護者の負担を軽減する形状と量も考える。在宅医療従事者には、在宅療養者本人と、家族や介護者の双方の生活目線が求められます。

今回の調査では、ハイカロリータイプの経腸栄養剤は、通常タイプと比較しても少量で高い栄養が確保でき、服用時間も短縮できるため、介護負担が軽減するメリットがあることもわかりました。
効果的、かつ合理的な栄養ケアによって元気になるのは手段であり、本当に大事なのはイキイキ過ごすこと、予後の夢を叶えてあげることだと思います。

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