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教えてっ! 退院支援の5つのこと第11回

教えてっ!退院支援の5つのことシリーズ第11回

投稿日:2020.03.12

教えてっ!退院支援の5つのこと 第11回

 小山 輝幸 さん
  社会福祉法人寿 特別養護老人ホーム
  グリーンヒル泉・横浜
  介護支援専門員・社会福祉士
今回お訪ねしたのは、「しゃべり場・施設編」の取材でもご協力頂いたグリーンヒル泉・横浜。
ここでは11年前から施設での看取りにも取り組んでいます。介護支援専門員・社会福祉士の小山輝幸さんに、施設側からの視点でスムーズな退院支援についてご意見を伺いました。

窓ロを探して 情報収集

特養のような施設と入院先との連携の中で、退院時に病院側の退院支援ナースが出てくることは少なく、主に医師やソーシャルワーカー(SW)ですね。
治療を終えて元気になって退院する場合は電話での情報ですみますが、医療的ケアが必要な人と看取りを控えた人の退院では、退院時の密な情報交換が必要です。
病院側からの看護サマリーに、必要な情報のほとんどは記録されていますが、もっと具体的な詳細を知りたい時には「病棟ナースの方にお話を伺っていいですか?」と打診して病棟に出向きます。
施設と病院との窓口は、病棟ナースだったりSWだったり、決まっていないことが多く、「今回、窓ロはどちらになります?」から病院とのやり取りが始まります。
個々の病状や予後予測、退院後に何が必要かが異なるので、担当者が変わってくるのかもしれません。

入院の目的を明らかに

配置医師の対応で緩和的な医療ケアを実施し、施設での看取りが自然と思われるケースでも、ご家族が看取りを意識し始めつつ気持ちの切り替えができないこともあります。そんな時、体への負担の少ない治療をトライしてみるための入院を病院に依頼することもあります。肺炎、骨折、尿路感染症などで入院するケースでは、一定期間の治療で治癒が見込めれば治療を継続し、回復後退院します。入院はできるだけさせたくないとはいうものの、その治療によって回復し、半年なり1年なり再び施設で今までのような生活ができる方もいらっしゃいます。一方、要介護度が高くなるほど、入院によって疾患や外傷が治るのと引き換えに全身状態が悪くなる、というジレンマを抱えています。本人の苦痛が増すようであれば、早めに入院医療を切り上げて施設に戻り、穏やかに過ごしながら看取りに進むということもあります。入院時には、その方の延命希望等の事前の聞き取り内容や、ご家族も延々と治療をしてほしいわけではなく、ある程度のところで判断して治療を終了、退院、看取りという気持ちの折り合いをつけるつもりであることなどを病院側に伝えています。治療によって得るものと失うもののバランスを考慮し、目的を明らかにした入院を考えるようにしています。スムーズな退院支援は入院時からスタートしているのです。

病院と施設の常識・文化の違いを知る

病院のスタンダード(常識)と施設の文化のギャップがあると、共通言語を持っていても解釈が異なります。例えば病院では安全のために倒したり起こしたりできるベッド柵が設置され、ガシャンと柵を起こせばベッドから降りられませんから「転落しない」という認識です。施設では身体拘束に当たる柵はベッドにつけないので、動きの激しい方は「頻繁に転落する」ということがありえます。身体拘束の基準に対する認識の違いです。また、病院での食事は、ほとんどがベッドの頭部分を起こし、膝を曲げ、ベッド上にテーブルを置いて食べるのがよく見られる光景かと思います。でも施設では、車いすに乗せてリビングに行き、テーブルに食事を並べて召し上がっていただくのがスタンダードです。姿勢の重要性、生活の中の食事を意識することで、病院ではあまり食べられないと言われて戻ってきた方が、施設では普通に食べられるようになったケースもあります。点滴による水分補給も病院では特別なことではないので伝え漏れることがあります。施設では点滴対応ができないところも多いため、水分不足への危機感に対する認識や受け入れも変わってきます。このような文化や基準の違いをお互いに話しあえるテーブルが地域的にあると、バックグラウンドを踏まえた上で退院時の情報がやり取りできてスムーズだと思います。病院側のナースが『病院ではこうやっていたけれど、施設ではできそうですか?』といってくれると施設側もより具体的に答えやすくなります。それを基に別の選択肢が示せるようになることもあり、家族も理解納得した選択につなげられるのではないでしょうか。施設側のスタッフも、その様なやりとりを引き出す力をつける必要があるでしょう。
施設内の職種によっても考え方の違いはあります。家族や介護職員は「情」で動くことが多いのですが、ナースは「理」の部分を持っていないといけない、と思います。それを踏まえて全体を調整する看護主任の負担は大きいものだと感じています。

病院看護師は地域でも活躍を!

病院ナースと施設ナースのギャップを埋めていく活動は、個別のケースへの対応と並行して地域全体に広げていくことが看護師としての役割であり、退院後の受け皿の拡大にもつながっていくのではないでしょうか。専門看護師や認定看護師が積極的に地域に出て、臨床から離れていた施設の看護師、介護スタッフなどに、現在の概念や技術を伝えてほしいのです。受け皿としての介護施設の実情を知ってもらう機会にもなり、医療従事者としての「理」の視点も踏まえた指導は、次のアクションにつながる情報のキャッチボールを活発にします。他の組織をも活性化しスムーズな退院の環境づくりにつなげていくポテンシャルを、是非地域でも発揮してほしいと思います。

施設看護師はリンクナースの役割を

施設の看護師は、外部の専門・認定看護師から受けたスキルを自施設に合わせて落とし込み、介護スタッフへのアドバイザーとして医療的な知識や技術を指導する役割があります。病院内でナースをまとめているリンクナースのように、入院先の病院ナースと施設の介護スタッフの間に入って調整してもらえると、退院後の受け入れの幅も広がっていくのではないでしょうか。

(2019年2月20日取材)

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