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患者・同僚・管理者に好かれるデキるナースになるシリーズ号外号

投稿日:2020.11.25

INTRODUCTION

脳卒中の患者は急性期から回復期、維持期と長い治療期間を要することが少なくありません。発症後の速やかな回復のためには、栄養状態を改善し体力を向上させ、適切なリハビリテーション(以下リハビリ)を実施していくことが機能予後に影響してきます。
近年、多くの医療機関でNST(栄養サポートチーム)が稼働し、入院患者の栄養管理が実施されています。急性期から維持期まで病態に応じた栄養管理を行うことで、治療やリハビリの効果が高まり、フレイルやサルコペニアを予防することができます。
大阪市の中核病院として地域の人たちから信頼される病院づくりを行っており、脳卒中を中心とした回復期リハビリ治療に定評のある森之宮病院の慢性疾患看護専門看護師・西村はるよ氏にお話を伺いました。

脳卒中を中心としたリハビリに特化

当院は、急性期医療と回復期リハビリ医療を併せ持つ病院です。入院患者の平均在院日数は、一般病床で約12日、回復期リハビリ病床で約80日、地域包括ケア病床で約47日となっています。

2008年より運用を開始した「大阪脳卒中医療連携ネットワーク」に加入しており、回復期リハビリ病棟の入院患者のほとんどは、大阪脳卒中連携ネットワークに登録されている第1次医療圏内のネットワーク病院からの紹介で転院されてきています。また「大阪脳卒中地域連携パス」(図1)による直接入院の割合は年々増加しており、2017年度は入院患者の53.8%を占めました。
脳卒中を中心とした回復期リハビリ医療においては、理学療法・作業療法・言語療法を1日平均8単位(1単位:20分、最大9単位)、365日提供できる体制を整えています。約170名の療法士が質の高いリハビリを行うとともに、多くのST(言語聴覚士)が在籍し嚥下機能に合わせた摂食嚥下面のアプローチを行い、歯科医師や歯科衛生士とも連携して食事と関連した口腔ケアに力を入れている点も特徴の一つです。管理栄養士は11名在籍しており、病棟には専任1名を含む2名を配置し、臨機応変に対応できる体制を整えています。

このように充実したリハビリを実施し、患者の早期回復を目指して多くの職種が連携して治療に取リ組んでいます。

脳卒中患者の栄養管理

脳卒中の急性期にタンパク質やエネルギーが不足すると、予後の不良につながります。低栄養状態は入院期間の長期化やQOLの低下、リハビリ効果の減少などを招く可能性もありますので、栄養管理がとても重要です。ただし、急性期の場合疾患の治療が優先されることが多く、栄養管理が難しい部分もあります。同じ急性期でも食事形態や栄養状態は人それぞれで、経口摂取ができる人もいれば、経管栄養や点滴だけで転院して来られる方もいます。
急性期治療を経て来られた方に対して、回復期リハ病棟の重要な役割の一つは栄養摂取方法をどう確立していくかだと考えています。
日本臨床栄養代謝学会の調査によると、回復期リハ病棟では低栄養の患者が多いといわれています¹⁾(図2・図3)。当院の管理栄養士は、厚生労働省が提示している栄養スクリーニングとSGAを用いて、栄養障害を評価しています。栄養障害の見られる入院患者は、一般病棟で約7割、回復期リハビリ病棟では約3割、さらに疑いのある方も含めると約7割を占めています。栄養障害のリスクが1つでもある患者には、早期の介入で改善をはかるため「栄養障害」あるいは「疑いがある」に分類しており、その患者の割合が高くなっています。
脳卒中で入院した場合、入院後7日以内に多職種によるカンファレンスを行い、栄養評価を必ず行っています。その評価に基づき病棟で担当の管理栄養士が患者のもとを訪問し、これまでの食生活や嗜好などの情報収集を行い、どのように栄養摂取を進めていくかを検討します。また、看護師が入院時から食事の様子を観察し、摂取量が少なかったり何か問題を感じたりしたときは、その都度管理栄養士に連絡をしてアドバイスをもらっています。NSTは、医師・歯科医師・看護師・管理栄養士・薬剤師・臨床検査技師・社会福祉士・歯科衛生士などから構成され、一人の患者に対して、最適な栄養療法を検討、提供していくための活動をしています。

一人の患者に対して、月1回のチームカンファレンスとそれ以外にミニカンファレンスを実施し、管理栄養士を含むチームメンバーで栄養状態の評価を行っています。そしてNSTと情報共有を行い、バックアップ体制を取っています。重症例に対しては、管理栄養士が患者や家族と毎週面談を行い、看護師と情報共有を行い、栄養管理について検討をしています。
当院のNSTの活動の基本は、「バランスよく食べる」ということです。そのために、食事動作がしにくい方にはリハビリで姿勢調整や動作獲得練習を行い、看護ではそれらを活用して見守りも含めた介助をします。嚥下機能に問題があればSTと管理栄養士、看護師が介入して嚥下機能に合わせたものを選択していきます。最終的に嚥下機能の評価をした結果、経口摂取にはせず経管栄養を継続するケースもあります。

栄養剤の選択と食事の工夫

他院から転院されてきた患者の食事は、まず急性期で使われていた栄養剤や形態も含めた治療食をそのまま継続して使用していきます。同じものが当院になければ管理栄養士に相談し、なるべく構成成分が似たものを選んでいます。

急性期から回復期に移行すると、個人差はありますが圧倒的にリハビリの時間が増えます。リハビリを必要とする高齢入院患者は約6割が低栄養状態であるため、リハ栄養の考え方に沿って、5つのステップで進めていきます²⁾(図4)。
回復期リハビリ病棟では再発予防の視点から再発の危険因子である生活習慣病に対する食事の管理も重要です。運動量が増えたときの食事の摂取量、経管栄養による摂取エネルギー量などを検討し血糖の変動を確認しながら調整します。また、糖尿病の既往がある場合は食物繊維の多い栄養剤に変えて、糖の吸収を遅らせることもあります。

当院での患者の食事は、あらかじめ調理したものを急速冷却して5℃以下で保存し、食事提供前に再加熱して提供していますが、この食事が患者の嗜好と合わないと喫食量が低下することもあり、そのような場合は管理栄養士と相談して低栄養に陥らないよう工夫していきます。例えば、ご飯が進まないときは海苔の佃煮やふりかけ、梅干しなどの嗜好品を用いて食欲を促し、食事の摂取量が少ないときはリキッドタイプやゼリータイプの栄養補助食品をつけたりすることで栄養状態が改善を図っています。水分摂取量が確保できないときは、ゼリーや半固形のもので水分を摂りやすくしています。

経管栄養の場合、日中に2~3時間リハビリの時間が必ず取れるように注入時間を調整できる製品を選択しています。液状栄養剤は注入に時間がかかるうえ、注入後の安静時間も含めると、長時間にわたって車いすやベッドに拘束されることになり、それが患者の精神的・肉体的な苦痛につながってしまいます。
そこで短時間で注入できる半固形化栄養剤を使うと患者の苦痛が軽減されます。また、短時間とは言え注入中は看護師が付き添って体位や体調の変化を観察する必要がありますが、その間に患者やご家族と関わることができ、少しの変化に気づけることもあります。半固形化栄養剤の注意点としては、血糖値が上昇しやすいため血糖値の変動に気をつけることがあげられます。

便秘・下痢発生時の対処法

経腸栄養を実施している患者の排便の問題点として、便秘や下痢があります。便秘の原因が水分摂取量の不足と思われる場合、再発防止の目的も含め水分を十分摂るように促し、1日1,000ml以上こまめに飲んでいただくか、飲水ができない方には食間や眠前などで水分摂取を調整します。トイレ介助が必要な方の場合、便座での体位保持や前傾姿勢を取り努責をかけることができるかを観察し、必要に応じて便秘薬の使用も検討します。

下痢の場合は、栄養吸収機能が低下してしまううえ、腸液を含む下痢便で皮膚トラブルが発生しやすいため、より早急に対応していますが一番大切なことは、原因をアセスメントすることです。薬剤が原因なら医師や薬剤師に相談し薬剤の変更・中止などを含め対応しなければなりませんし、乳糖不耐症の可能性がある場合、乳糖を含まない栄養剤に変更すると改善することもあります。また、下痢が続くときは腸の安静を保ち、絨毛を回復させ、グルタミン、ファイバー、オリゴ糖を含有する栄養補助食品を投与し腸内環境を整えています。半固形化栄養剤を使用すると、食塊形成された状態で消化管へ入り、胃本来の運動機能を発揮、身体にとって生理的な消化吸収が得られるため、インスリンや消化管ホルモンの分泌が期待され、下痢の防止にもつながります。

在宅復帰に向けてのサポート

退院後のリハビリについては、患者の自宅近くの訪問リハビリや通所リハビリなどへの引き継ぎを行っています。患者やご家族の多くは、在宅になるとリハビリの時間が減ることを心配されますが、自宅での生活に慣れていくこと自体がリハビリだとお伝えしすることを心掛けています。

生活の場である自宅と治療の場である病院では、環境の異なることがたくさんあります。そのため、ご家族にご協力いただき、入院後7日以内にPTかOTと看護師が入院時訪問を実施し、実際の自宅の住環境を確認し、可能な限りその環境に合わせてリハビリを進めていきます。

排泄がトイレでできるかおむつを使用しているかで、退院後の生活は大きく違ってきますので、入院中にリハビリスタッフや医療ソーシャルワーカーと連携して、個々の状態に合わせたトイレ動作の習得や物品選択、家族指導を行っています。おむつ使用の場合、老々介護が増えており、尿もれや夜間排尿などの頻回な交換はご家族の負担になるため排尿時間や1回量をチェックし、その方にあったオムツの選択をします。また尿もれの場合は身体とオムツの間に隙間ができてしまうことが原因ですので、オムツの当て方の工夫や患者に合ったサイズのものを選択するように指導しています。

退院1ヵ月ほど前には退院前訪問指導を実施し、実際にトイレに行けるか、どのような福祉用具が効果的か、手すりをつけるなどの住宅改修が必要かなどを検討します。回復期リハ病棟に入院できる期間は脳卒中の場合150日、高次脳機能障害があれば180日と定められているため、回復具合を見ながら退院時期を想定し、自宅改修や福祉用具の取り揃えなどの期間も見越して早めに準備に取り掛かる必要があります。退院後の自宅環境が整えば、できる限り外泊を行って家族と過ごしてもらい、今後必要なことや改善点を共に考えてゆくとよいでしょう。

退院後の食事については、嚥下状態に合わせた食事の作り方、栄養改善に向けた栄養補助食品の提案、栄養剤の選択などを管理栄養士に指導してもらい、低栄養状態にならないように注意しています。

急性期から在宅までのシームレスケア

当院に転院されるときは、経管栄養や点滴などを用い経口摂取が確立できていない状態でも受け入れが可能です。急性期では、誤嚥性肺炎予防や今後経口摂取を進めるための口腔内の環境を整えていただけていると、よりスムーズな治療継続が可能になります。

急性期で活動量の少なかった方でも、回復期へ転院後は1日2~3時間のリハビリを行うことになります。当院の回復期リハビリ病棟では、十分なリハビリ効果が得られるよう栄養状態や体づくりを整えていくことを重視しています。そのために1人の患者に対して各専門分野の多職種が関わり、カンファレンスで情報を共有し退院に向けての支援を行っています。

維持期には回復した身体機能の維持やさらなる回復をはかり、日常生活の自立と社会復帰を目指します。当院では月1回、認定看護師らによる「脳卒中教室」も開催し、患者ご本人やご家族に向けて退院後の生活や食事、再発防止などについてお話ししています。

無事に退院して自宅や施設に移ると、病院と同じようにはできないことが出てくるでしょうが、対応が難しいことでも社会資源を利用して補えることもあります。このように急性期から回復期、在宅に至るまで院内外の専門職が連携しながら、患者が住み慣れた地域で安心して生活できるよう、シームレなケアの提供は、ますます求められてゆくことでしょう。
※新型コロナウィルスの感染予防対策として、現在、入院時/退院前の訪問指導・外泊・脳卒中教室は行っておりません。


■参考文献

1)日本静脈経腸栄養学会雑誌 30(5):1145‐1151:2015 
      本邦回復期リハビリテーション病棟入棟患者における栄養障害の実態と高齢        脳卒中患者における転帰、ADL帰結との関連

2)Hidetaka Wakabayashi MD,PhD
      Augaust2017
      Rehabilitation nutrition in general and family medicine
      Volume18,Issue4
      Pages153-154
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