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ナースプラクティショナーまでの道第9回

連載コラム「ナースプラクティショナーまでの道 ~看護師人生中間地点~」 第9回

投稿日:2012.05.07

第9回 看護師の役割 前編

 看護師になってよかったと私に心から感じさせてくれる患者さんと折々に出会えることが臨床現場の醍醐味である。

北野病院に入職して間もなく出会った1型糖尿病患者Kさんとの初回の面談はドキドキハラハラだった。

チーム医療の中で医師は診断して治療をする役割、栄養士も運動指導士も治療の要である食事指導や運動指導の役割が明確であるが看護師の役割は患者さんにも医療職の中にも見えづらい。

看護師の役割を感じたKさんへの介入を今回と次回の2回にわたってご紹介する。 Kさんは30歳代半ば女性、約10年前に1型糖尿病を発症し、他の医療機関をいくつか経て北野病院に通院されていた。Kさんのカルテをめくってみると、身体的側面の情報は十分にとれるが、Kさんが糖尿病をどう捉えて、日常生活の中で何に困り、妊娠や出産を含めた女性としての発達段階をどう考えているのかなどという社会的側面・精神的側面の情報はない。

独身だが、当時の血糖コントロールでは妊娠・出産はリスクが高すぎるし、仮に妊娠を望まなくてもこのままでは糖尿病合併症のリスクも高いのでKさんに介入してみようと思った。 医師診察の直後にKさんに声をかけると、まずは面談室まではついてきてくれた。
しかし、部屋に入るなり「私忙しいんですけど、何の用ですか?」と斜に構えて私を見る。

私は療養生活の中で困っていることはないかと尋ねるが、『ありません』と素っ気なく返答される。

とりあえず椅子に座っていただき、HbA1cが高いのでどうにか改善する方法を一緒に考えたいといったところ、彼女は怒りを露にした。

「今までさんざん病院の言う通りの生活をしてきたのに、血糖値はよくならなかった。今更なんなのですか!」、私はこのまま面談を終了したら、今後介入できるチャンスはないかもしれないと感じた。引き続き「妊娠・出産」について気持ちの確認をしたところ、彼女にとっては最も触れてほしくなかった話題だった。

「私はね、ずっとずっと子供が欲しかった。だから食事療法もインスリン注射もすごくすごくがんばった。
でもあんなに完璧に頑張ったのにHbA1cは8%を切ることはなか]った。先生からも血糖値が高いからだめだといわれた。

だから私は子供を諦めたの!」怒りを露にして話す彼女をただみているしかなかった。

彼女が妊娠を望むのなら、どうにか叶えたいと思い「妊娠のための身体の準備ができるように一生懸命支援します!まずは血糖値を下げる方法を一緒に考えましょう。」と宣言してしまった。

その宣言は、良好な血糖管理を諦めてすっかりパワーレスになっているKさんと同盟を結ぶ覚悟を私自身に課せるためでもあった。 

詳しく話を聞くと、血糖測定もインスリンの自己調整もほとんどせず、周囲にカミングアウトもしていないので、人前での低血糖を避けるための高めのコントロールにしていたことがわかった。

そのKさんが、後にスーパー患者に変身するとはこのときには思いもしなかった。

食事はエネルギー量よりも炭水化物量が血糖値に影響しやすいことと血糖測定をすることを伝え、初回面談は終了した。 

彼女が退室したあと、私の緊張の糸が解けるとともに、久しぶりに看護師としての血が騒いだ。「彼女の発達段階を支援するには看護師の力が必要だ。

彼女が妊娠できるかどうかはわからないが、私なりに精一杯の支援を貫こう!」と覚悟を決めた。


(後編に続く)

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