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”触れる”を通して看護の原点を見つめ直す

「タクティールケア」最終回 ソーシャルディスタンスの中で触れるということ

最終回 ソーシャルディスタンスの中で触れるということ

企画・監修
木本 明恵 先生

株式会社アポロ・サンズHD看護部部長、
シルヴィアホーム認定インストラクター、看護師、
元日本赤十字看護大学認知症看護認定看護師 教育課程非常勤講師

新型コロナウイルス感染症(以下コロナと略)の第三波がピークを向かえたころ、高齢者施設でも「接触を避け る」感染症対策の中での療養を余儀なくされていました。ソーシャルディスタンスが提唱される中でのタク ティールケアとは? 本当に守らなければいけないのは何? 改めて看護の原点を見つめ直してみませんか ?

高齢者施設を襲った新型コロナウイルス

 私がコロナ対策のサポートに入った当法人のグループホームと小規模多機能型介護施設では、認知症の利用者さんがコロナウイルス感染症に罹患しました。そして、半数以上の方は入院治療ではなく、施設内で療養をしました。
 認知症の人が感染すると、高熱や呼吸器症状、味覚障害などがみられても、その状態を伝えることが難しくなります。実際に高熱や酸素飽和度の低下があり、明らかに辛い状態と思われるのですが、ふらつきながらトイレに行こうとする人、自分が感染症に罹患したことを忘れて隔離された部屋から出ようとする人、ウイルスが一番曝露する時期にマスクを取ってしまう人など、感染対策そのものが難しい状態となりました。認知症の人は、いつもと明らかに違うからだの状態と環境に不安や恐怖を感じていたことは事実です。それと同時に職員も見えないウイルスの猛威に不安と恐怖を持ちながら介護をしていました。
 認知症ケアの基本は受容と共感です。しかし、コロナから利用者さんを守るためには受容と共感が難しい場面が多々ありました。それは認知症ケアの基本を理解している職員のストレスを増大させました。私自身もついつい利用者さんをコロナから守るという思いから、汚染されたところを触ろうとする人に「ダメダメ、触らない!」 、繰り返し酸素カニューラを外す人に「外さない!」など、厳しい口調になってしまい、自己嫌悪に陥ることが度々ありました。
 感染拡大防止のため、すべての利用者さんがトイレと入浴以外は基本的に自室で終日過ごしました。もちろん面会も中止です。職員は防護服にキャップやマスクを着用し顔もよくわかりません。その結果、認知症の進行やADLの低下がみられました。

こんな状況だからこそ「触れる」 ことを最優先に

 辛い時、不安な時、寂しい時、誰かがそばにいてくれたり、手を握っていてくれたり、肩に手を置いてくれるだけでもホッとしますよね?
 触れることを通して「あなたはひとりではない」 と伝えているからだと思います。しかしフェイスシールドにグローブ、直接触れることが制限されるコロナ禍で、タクティールケアは力を発揮できるのでしょうか?
 私は、こんな時だからこそ「触れる」ことを最優先にしました。グローブを付けた状態でも、手を握り、肩や背中に触れました。背中のタクティールケアができる状態であれば、タクティールケアを行います。着衣の上からなので、グローブを付けた状態でも、手を握り、肩や背中に触れました。背中のタクティールケアができる状態であれば、タクティールケアを行います。着衣の上からなので、グローブを付けていてもお互いに気になりません。数分間連続してゆっくりと触れていると、落ち着かない様子だった利用者さんが深い呼吸に変わり、緊張した体が緩んでいく状態を手を通して確認できました。
 「触れる」ということは、触れられる人(利用者さん)と触れる人(職員)の両者に安心と心地よさをもたらします。私自身もコロナ対応で緊張の毎日でしたが、利用者さんに触れることで、緊張感を和らげていました。そうすることで、辛い状況の中でコロナと戦っている利用者さんに寄り添うことができたのではないかと思います。
 利用者さんだけでなくご家族やスタッフも精神的な不安、不眠、苛立ち、いろいろな気持ちを感じています。ご家族やスタッフの支援としてもタクティールケアを活用していただきたいですね。
 タクティールケアは、触れることが目的なのではなく、不安や痛みの緩和をもたらすための手段です。何のために触れているのか、それをいつも忘れずに日々の看護にあたっていただけることを願っています。(了)
タクティールケアについて詳しく知りたい方へ
株式会社日本スウェーデン福祉研究所(JSCI)
この連載は本号で終了いたします。皆様、ご愛読ありがとうございました。

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