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患者・同僚・管理者に好かれるデキるナースになる第5回

患者・同僚・管理者に好かれるデキるナースになるシリーズ第5回

投稿日:2017.01.05


        これからのナースに求められるケアの質とは ~効率的で効果的な質の高い医療的ケアを知る~
        第5回 便失禁患者の褥瘡対策のポイント
          ~リスクに応じたスキンケア方法~
 2016 年日本創傷・オストミー・失禁管理学会で、失禁関連皮膚炎(IAD)介入のための評価スケール案が発表されました。便失禁患者は褥瘡発生のリスクが高く、重症化しやすくなります。IAD は患者の苦痛や負担が増えるだけでなく、ケアの時間や物品コストも増えていきます。今回、皮膚・排泄ケア認定看護師であり特定行為研修を修了した、日本医科大学千葉北総病院の渡辺光子先生にお話を伺い、便失禁患者の褥瘡対策とその対応に必要なコスト試算を行いました。

-一便失禁が引き起こすリスクについて教えてください。

便失禁には三つのリスクがあります。

1.失禁関連皮膚炎(IAD)のリスク

 便に含まれる消化酵素が化学的刺激を与えることや、おむつ着用 による皮膚の浸軟は、皮膚障害のリスクを高めます。

2.褥瘡発生のリスク

 「持続する下痢」は褥瘡ハイリスク要因の一つにあげられ、「便失禁」+「活動性の低下」は褥瘡発生のリスクが非常に高い状態であるといえます。また、日本褥瘡学会の2012年度の調査でも仙骨部、尾骨部は褥瘡好発部位であり、おむつ着用者や便失禁患者の褥瘡予防対策はとても重要です。

3.院内感染のリスク見出し

重症患者や免疫力の低下した患者では、腸内細菌叢の乱れや腸管機能の低下などから、腸炎や下痢症状を起こしやすくなります。この状況下で感染性下痢を発症すると、院内感染をひき起こすリスクとなります。

これらのリスクを予防するためには、便失禁の原因をアセスメントし、便失禁改善のアプローチを行うとともに、皮膚障害の予防ケアを早期に開始することが重要です。

-一便失禁患者のスキンケアのポイントについて教えてください。

以下の対応を通じて、皮膚障害を予防することが重要です。
 1.浸軟を予防する
 2.排泄物の接触を回避する
 3.機械的刺激を回避する
 4.排泄物の化学的刺激を緩衝させる
 5.苦痛や不快感を最小限にする
 6.感染を予防する
便の性状をブリストル便性状スケールでアセスメントしながら、スキンケアの方針を決定し、適切なスキンケア用品を選びます。

-一便失禁患者のスキンケアについて具体的な方法を教えてください。

1.観察・アセスメント

まず、下痢の場合には、その原因をアセスメントし、原因に応じた下痢便のコントロールを行います。さらに、<ブリストル便性状スケール>を用いて便の性状をアセスメントし、便性に応じた適切なスキンケアの方法を選択します。

2.洗浄時の機械的刺激を回避

「陰部洗浄」は1日1回を基本とし、洗浄剤をよく泡立てて、擦るのではなく、優しく泡を広げるように愛護的に洗うことが大切です。洗浄剤は弱酸性で保湿成分配合の製品がおすすめです。便が頻回で、1日に何度も汚染してしまう場合は、拭きとり用の油性洗浄剤を活用しましょう。洗浄に比べて使用物品も少なく済み、ケアにかかる時間短縮にもつながります。患者さんの羞恥心への配慮や、看護ケアの時間短縮というメリットもあります。大切なのは、必要以上に皮脂膜を奪わない清潔ケア方法を選ぶことです。

洗浄後は、十分な量のぬるま湯で洗い流します。人肌ほどのぬるめの温度のお湯で、洗浄剤が残らないように、洗い流します。その後、水分が残らないよう、十分に押さえ拭きします。

3.保湿・保護による皮膚の浸軟防止

 保湿には、保湿成分が水分と結合することで蒸発を防ぐ「モイスチャライザー効果」と、角質層表面に皮膜を作り、その撥水効果で水分の蒸発を防ぐ「エモリエント効果」があります。この2つの効果は本来、皮膚のバリア機能が担っています。皮膚のバリア機能を維持しているのは、「皮脂膜」、「天然保湿因子」、「セラミド」です。これらの成分を含んだ撥水性保護クリームや、類似成分を補える油脂性軟膏を使用しましょう。患者の皮膚の保護には、撥水効果の高い保護クリームの使用がおすすめです。

アルケア社製のリモイス®バリアは、保湿効果に加え、弱酸性なので、pH緩衝能により排泄物から受けるアルカリ性の強い刺激をやわらげることも期待できます。

4.その他

 皮膚障害の予防対策として、便失禁専用パッドの使用、粉状皮膚保護剤、ストーマ装具を応用した肛門部のパウチング、下痢便をドレナージする便失禁管理システムの活用などの方法があります。

-一便失禁患者の仙骨部や尾骨部に褥瘡が発生した場合の処置のポイントを教えてください

肛門に近い位置に褥瘡が発生した場合、便による創部の汚染を防ぐことが大切です。基本的には創部をポリウレタンフィルム材で覆い、排泄物の侵入を防ぐ工夫が必要です。

まず、創部と肛門の間に、プロケアー®ソフトウエハー・スティックのように、シワやくぼみの補正に適したストーマ用皮膚保護剤を使用し、便による創部の汚染を回避します。次に、皮膚保護剤の上に、ポリウレタンフィルム材などを被せます。図のように、山型にフィルム材を貼ることで、皮膚との密着性が高まり、便の侵入を妨ぐ効果が高まります。その際、殿裂部の皮膚を伸展させた状態で、フィルム材が引っぱられないように皮膚に沿って貼るのがコツです。

肛門近接部にドレッシング材を貼るのは難しいですが、貼るときに時間がかかっても、ていねいに正しく貼りましょう。

-一便失禁患者の予防的スキンケアの必要性を経済的側面からどう考えますか?

便失禁のある患者は、IADリスク、褥瘡発生リスク、院内感染発生リスクが高く、もし仮に褥瘡や院内感染が発生してしまうと膨大 な人件費と材料費、治療費を費やすことになります。患者の苦痛やご家族の負担も当然大きくなります。

また、スタッフの業務負荷が増大することによるモチベーションの低下も、大きなリスクではないかと思います。

日々の排泄ケアやスキンケアを行う中で、適切な対策を講じていくことで確実にこれらのリスクを軽減させることができます。便失禁患者のケアの充足とケアの質を高めていくことは、経営面にも大きく貢献しているのではないでしょうか。
長期臥床でおむつを着用している患者はスキントラブルや褥瘡の発生リスクが高く、さらに下痢を伴っている便失禁患者は細菌感染で重症化しやすく、治療が長期化するリスクが増大します。

治療が長期化すると、患者の負担が増えるだけでなく、ケアの物品がさらに必要となることからコスト増となります。また、看護師もケアに伴う追加業務の発生で業務負荷が高まることによってモチベーションの低下につながる可能性があり、経営視点からみてデメリットは大変大きいといえます。

一般急性期病院でDPC制度に参加している場合、より業務合理化が求められる側面もあり、褥瘡が発生すると病院のコスト負担も大きくなります。療養型病院でも慢性期DPCの制度が検討されており、今後業務の質の担保と合理化が求められる流れがきており、褥瘡予防ケアを広げていくことは今後ますます重要性を増していくのではないしょうか。

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