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ナースマガジン vol.36

透析患者の安全対策

皮膚へのやさしさを考えた固定とスキンケア

透析患者の高齢化が進む現在、安全に対する看護介入は多くの透析施設において重要です。今回は、認知症や精神疾患をもつ患者の透析も施行している熊本医療センターの深山美香先生に、自己抜針を防止するための対策、透析患者の安全対策におけるスキンケアの介入についてオンライン取材で伺いました。

トラブル予防の難しさ

 透析患者様の高齢化が進んでおり (図1) 、 安全対策が必要な認知症の方も増えています。当院の透析ベッドは20床あり、透析患者様全体のうち認知症ケア加算の対象となっている方が約13%、精神科病棟の入院患者様が約14%います。また、術後せん妄の透析患者様もいらっしゃり、 実際の数値よりも、 注意が必要な方は多い現状があります。

 認知症や精神疾患、術後せん妄の現れ方は人それぞれですが、透析治療の必要性を理解できない、幻覚や妄想などが出ているといった場合、 回路を引っ張ったり、 激しく動いたりして自己抜針するおそれがあります。また認知症や精神疾患がなくても、長い透析時間の中で意図せずうっかり肘を曲げてしまい、透析のルートにテンションがかかって誤抜去を招くリスクもあります。
熊本医療センター透析看護認定看護師の深山美香先生
透析室のスタッフは、病棟看護師のように1日〜数日という長い時間の関わりの中で線で患者様をアセスメントするのではなく、 短い関わりの中で点でアセスメントせざるを得ません。 特に、 患者様の状態が刻々と変化する急性期病院の透析室では、短時間で患者様の安全対策の必要性をアセスメントし看護介入する必要があります。

なるべく動きを制限しない固定法

 当院の基本的な方針として、身体の拘束や抑制はできるだけ避けていますが、血液透析中は命の管がつながっている状況なので、 患者様の命を守るためにシビアに判断を下さなければなりません。 治療を安全で円滑に進めることと、患者様の尊厳や倫理的なことを考えたケアを両立させようと悩むスタッフも多く、 なるべく患者様の動きを制限しない方法をみんなで考えています。そこで認知症や精神疾患、術後せん妄の患者様のシャント肢の安全を保持するため、 抜管 ・ 抜針用予防シーネ「エルボーフィックス・忍」を試用しました。
 今回、 「エルボーフィックス・忍」 は認知症や精神疾患、 術後せん妄の患者様のバスキュラーアクセスの安全を保持するという意味で使用する場面が多かったです。よかった点は装着のしやすさです。誰でも扱いやすく、装着方法を迷うことなく、しっかり固定できました (図2)。サイズが長すぎると動作が制限されてしまうことがありますが、腕とルートの保持を目的とするには長さもちょうどよく、ベルトとシーネが 一体型になっているのでベルトをなくしてしまう心配もなく、とめる場所で迷うこともありませんでした。
 血液汚染がおこりやすい透析室では、洗濯ができて衛生管理がしやすいのもよいと感じています。また患者様の中には院内にあるシーネを外そうとする人がいますが、今回 「エルボーフィックス・忍」を嫌がる方はいませんでした。患者様に苦痛や不快感を与えることなく保持できることは、シーネを選ぶ上で大切なポイントだと思いました。

 また、 臨床工学技士からは長時間の透析を行う際に装着することで 「寝返りを打っても大丈夫」 という精神的な安心感につながるのではないかとの意見もありました。オーバーナイト透析のような睡眠中の透析、あるいは通常の透析中に睡眠されているケースでも有用なのではないかと思いました。今後、希望する患者様に試してもらいたいと考えています。
エルボーフィックス・忍 装着方法
熊本医療センターでの使用例

テープの使用を最小限に

 バスキュラーアクセスに穿刺針とルートを頑丈に固定するためにはテープを多く使いがちですが、高齢の患者様は皮膚が脆弱な方が多く、テープの刺激で皮膚トラブルを招くリスクがあります。そのため、穿刺針やルートの固定を行うときは、テープの種類を変えたり、ベルトを使用するなどしています。特にテープをはがすときはリムーバーを使ってゆっくり慎重にはがす必要があるため、神経を使い時間もかかります。

 「エルボーフィックス ・忍」 の4本のベルトで腕とルートを固定すると、テープの使用を最小限に抑えられるので、 透析患者様の皮膚にも優しく、また医療者側にとってもリムーバーを使用してテープをはがす手間が減り、たいへん便利だと感じました。

ミトンはシャント肢の反対側のみに

 シーネなどでシャント肢が固定でき、安全が守れれば、ミトンの使用はできる限り避けています。しかし、自己抜針の危険があるときは、シャント肢の反対側の手のみにミトンをつけるようにしています。 「クリアミトン・包」(図3)は透明なので手の状態が常に観察でき、先端が解放されているので、モニターを装着しやすくとても便利だと感じました。

シーネの使用における課題

 課題としては、「エルボーフィックス・忍」のベルトとベルトの隙間があいているので、穿刺部を触ってしまう可能性があることです。 薄いロールペーパーを巻く、もしくはクリアファイルを穿刺部の位置で大きさに合わせて切るなど工夫して穿刺部を保護していました。このような対策をとっても誤抜去のリスクがある場合は 「クリアミトン・包」など、 ミトンの併用の検討も必要になると思います。また、透析患者様は透析中、長時間同じ姿勢でいなければなりません。 腕をまっすぐに伸ばして固定するよりも少し角度をつけて保持できると安楽なため、「エルボーフィ ックス・忍」と腕の間にタオルを当てて使用するなど工夫が必要だと感じました。

安全対策におけるスキンケア

 透析患者様のバスキュラーアクセスは1日おきに消毒薬やテープによる刺激を受け、皮膚トラブルを招くリスクがあります。皮膚トラブルを招いてしまうと、確実な固定が困難になる可能性もあり、バスキュラーアクセスを守るためのスキンケアを伝えていくべきだと考えています。また、透析患者様は原疾患に伴う要因、水分制限に伴う要因などから痒みを訴えやすく、痒み予防に対する保湿の重要性も高いと考えています。

 「リモイス®me 保湿ローション」を試用してみた感想は、使用手順が簡単で(図4) のびがよく、ベタつきが少なく感じました。1プッシュの量で広範囲に塗れるのでコスパもよく、シャント肢に塗った後でもテープが貼れるのは大きなメリットです。当院で使用している5種類のテープで試してみたところ、どれも粘着性はほぼ変わりませんでした。通常ですと、透析中に患者様がシャント肢に痒みを訴えてもクリームを塗るのは難しいですが、「リモイス®me 保湿ローション」は使用できるので便利だと思いました。

下肢のスキンケア

 その他、当院透析室で実施しているスキンケアとしては、2016年に下肢末梢動脈疾患指導管理加算が新設されたこともあり、2週間に1回、「足の日」を決めて、透析時に患者様と一緒に足を観察します。透析患者様は糖尿病を合併していることも多く、足の皮膚トラブルの早期発見と足の観察・清潔の必要性・保湿の必要性を指導する機会としています。

 この「足の日」に足の保湿で「リモイスme保湿ローション」を使用しましたが、ベタつきがなく不快感がないという声が聞かれました。

まとめ

 透析患者の高齢化が進み、 1回4時間以上の安静を必要とする透析をより安全に継続できることが求められています。 そのために、 ルートやシャント肢を安全に固定・保持できるシーネなどの使用が効果的です。

 透析患者は腎不全による痒み成分の体内への蓄積、 水分制限に伴う皮膚表面の水分量低下や老人性乾皮症に伴い、 掻痒感を訴えやすいといえます。 また、 穿刺部位は1日おきに消毒や穿刺針・固定テープなどの物理的・化学的刺激を受け、 刺激によって皮膚トラブルが発生した場合、 高齢・糖尿病が背景にある透析患者は完治までに時間を要してしまいます。 それらのことからも、 透析現場におけるスキンケアの実施は医療安全につながると考えられます。
引用:日本透析医学会 「わが国の慢性透析療法の現況2016年末の慢性透析患者に関する集計」
画像提供 : アルケア株式会社

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