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ナースマガジン vol.45

達人に訊く!「糖尿病のある患者 のフットケア」ここがポイント!

投稿日:2023.10.27

糖 尿 病 のある患 者さんにとって足病変は深刻な合併症の一つです。白癬症や感染症、潰瘍・胼胝・鶏眼などの足に関するトラブルが悪化し、重症化すると壊疽に陥る可能性があります。
こうした状態を予防するために有 効なのがフットケアです。今回はフットケア外来での患者アドヒアランスに焦点を当てた関りについて、フットケア専門外来看護師であり糖尿病看護認定看護師の橘優子先生にお話を伺いました。
橘 優子 先生
フットケアの達人
橘 優子 先生
順天堂大学医学部附属順天堂医院
足の疾患センター 副センター長
フットケア指導士 糖尿病看護認定看護師
当センターは大学病院内の組織としてはとてもコンパクトですが、医師・看護師・看護助手・臨床検査技師・義肢装具士という多職種がチーム全体で1人1人の患者さんと関わっています。医師だから・フットケア専門外来看護師だからと業務を区切らず、各職種が「ここにある仕事はすべて自分の仕事」という視点を持つことで、日々患者さんの「治る」に向かって共に歩み続けていきたいですね。

橘先生のメッセージ動画は、こちらから

個々に合わせたケアで患者さんと共に歩み、「治る」につなげる

治療の点をつなぎ線を描く

 当センターには、様々な治療法を試みても足病変の改善がみられなかった患者さんが来院します。 治癒への過程が長期化して行き詰まりを感じている患者さんが、 「少しでも良くしたい」という気持ちを抱えて来院されます。 私たちは、 患者さんのこれまでの取り組みから改善点を見出し、 足病変を改善できる様々な治療を提案しています。

 糖尿病のある患者さんの足病変においては、 重傷化している理由を 「本人に実施する意欲がなかったから」 「適切なケアがされていなかった」 という評価をしてしまうことが見受けられます。
しかし、 そこには患者さんなりの事情が存在していますので、そのことに焦点を当て過ぎるのではなく、 「治らなかった」 という事実を分析し、 何を改善すべきか、何を新たに取り入れるかを考え、 患者さんと共に一つずつ取り組んでいきます。フットケア外来で私たちが関わるのは、治療の過程における 「点」 でしかありません。 次の外来までの毎日のケアは患者さん自身に委ねられます。 私たちの外来の間に行われるケアの 「線」 を描くのは患者さん自身ですから、 その努力と取り組みを尊重し、 労うこが大切だと考えています。

長い目で患者さんを診る

 フットケアに限らず、 全ての医療において言えることだと思いますが、 医療者が 「こうして欲しい」 と提案した治療法を患者さんが実行できなかった際に、「コンプライアンス不良」 と評価してしまうことがあります。 しかし、 すべての提案が必ずしも正しいわけではないという考えで、 患者さんの話を聞いています。例えば 「毎日傷を洗って薬を塗ってください」 と伝えていた患者さんが3日に1回しか洗っていなかったとして、 それでも傷の改善が認められたとしたら、「毎日洗うことが必須ではないのかもしれない」 という新たな気づきになります。 今この時の最新のエビデンスがこの先も正しいという保証はないため、 目の前にある事象をきちんと評価していく視点を持ち続けたいと思っています。 また、 足病変の治療は長期に及ぶことが多いため、 治療の継続において患者さんに過度の負担が出ないように考慮することも必要です。 最も推奨される治療法を患者さんが実行できない可能性が高い場合は、 継続できる範囲の最善の治療を患者さんと相談し選択していくことも、 アドヒアランス向上に大事な関わりです。


譲れない条件があっても妥協点を探り、患者さんのメリットを追及する

 足病変の治療は、 患者さんの生活習慣や生活環境、 経済性などの影響を強く受けます。 ここでは、 個別性に着目した症例を紹介します。

症例紹介①

足先に傷がある患者さんが安全靴を履かなければならない仕事に就いているケース
 安全靴はスニーカーなどと比べて作りが大きいため靴の中で足が動いてしまい、 傷が擦れて治りが遅くなってしまいます。 私たちとしては安全靴を履かずに仕事ができることがベストです。 しかし仕事上必要であれば、 安全靴を履いても傷が治る環境を作り出すことが求められます。 受診時に普段履いている安全靴を持ってきてもらい、 義肢装具士と共に靴の中で足が安定するような細工をすることで解決策を見出していきます。

 最近の安全靴は進化しており、 私たちがイメージするよりも履き心地がいいものもたくさん流通しています。 実物を見ずに 「安全靴は良くないものだ」 と決めつけてしまうことは誤った判断につながるので、 実物を見ながら患者さんの働く環境をイメージし、 妥協点や改善点を一緒に探っていくことが大切です。

症例紹介②

仕事の調整がつかず週1回しか受診できない会社員のケース
高度な肥満のため、 足の傷に手が届かず自己処置ができない患者さんがいました。 様々な方法を試行錯誤しましたが、 患者さん自身で傷の処置を行うことはできませんでした。 他の選択肢として頻回な通院、 友人などの協力(支援)を検討しましたが、 どれも現実的ではありませんでした。 患者さんと相談し、週1回ガーゼ交換は通院時にのみ実施することにして、 その間は包帯を取らず濡らさないようにシャワーを浴びてもらう方法を選択しました。 外来受診時に、1週間ガーゼ保護の状態が維持できるよう包帯の固定方法を工夫し、 抗菌性被覆材を用いて治癒までの期間を乗り切りました。 無事に治癒に至り安堵した症例です。
 このように、 患者さんが治療と生活を両立させていくには障害となる事情を有していることは少なくありません。これは在宅療養の患者さんも同様です。例えば週2回訪問看護を利用している方に、 傷の処置のために訪問看護を週4回に増やすことを提案したとします。しかし、 訪問が増えれば患者さんの費用や介護保険の制限も問題となります。

 そのような時には、 現状のサービス内容で如何に傷を良好に管理していくかに知恵を絞り、 工夫していくことが大切です。 毎日処置ができなかったとしても、傷を悪化させないように管理することは可能です。 「毎日処置が必要」 という固定観念に捉われることなく、 患者さんそれぞれの状況に合わせた 「最善」 を選択することが、 無理なく継続できるコツだと思います。

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