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ナースマガジン 10周年 特別企画座談会

地域包括ケアの視点から褥瘡管理を考える

退院後も病院で行ってきた看護を継続できるよう、病院の看護師が地域に出向き施設や在宅の条件に合わせて工夫、指導する退院後訪問活用が呼びかけられています。本座談会では、宇都宮先生のファシリテーションのもと「在宅での褥瘡管理が必要な患者と支援」をテーマに現状や課題、課題解決に向けたアプローチについてディスカッションしていただきました。
座 長:
宇都宮 宏子 先生

出席者:
間宮 直子 先生
高橋 麻由美 先生
畑 千晶 先生

(2022年6月2日 オンラインにて)

組織を越えて看護師同士がつながるために必要なことは

宇都宮: 組織を越えて看護師同士がつながるためには、色々な壁があるかと思いますが、それぞれの立場からこうしたらどうかという意見はありますか。
座長
在宅ケア移行支援研究所 宇都宮宏子オフ ィス 代表
宇都宮宏子 先生
1980年京都大学医療技術短期大学部看護学科卒業。
医療機関で看護師として勤務、高松の病院で訪問看護を経験し在宅ケアの世界に入る。1992年、京都の訪問看護ステーションで勤務、介護保険制度創設時、ケアマネジャー・在宅サービスの管理・指導の立場で働きながら、病院から在宅に向けた専門的な介入の必要性を感じ 2002 年、京大病院で「退院支援専従看護師」として活動。2012年 4 月より、『在宅ケア移行支援研究所』を起業し独立。医療機関の在宅移行支援、地域の医療介護連携推進、在宅医療推進事業研修・コンサルテーションを中心に活動。
高 橋: 私自身は上司が施設外での活動を理解してくれていたことや、年俸制であることもあり、インフォーマルな活動を行えてきたと思います。

 おそらく病院の中で収益をあげていかないと、WOCナースが組織の外に出て専門的な知識や技術を提供していくのは難しいと思います。現在感染対策に関しては、感染防止対策地域連携加算がつくようになっていますので、WOCナース領域にも施設間連携が出来る体制がないと難しいのではないでしょうか。
医療法人社団 博栄会グループ
連携副部長 赤羽中央総合病院
看護師長 皮膚 ・ 排泄ケア認定看護師
高橋麻由美 先生
2002年から褥瘡専任看護師として活動し、多発性褥瘡で亡くなられた症例をきっかけに、根拠のある褥瘡管理の必要性を感じ2008年WOCナース資格取得。褥瘡専従看護師として法人内で活動するほか、インフォーマルな形での相談業務や、同行訪問も開始。多職種に向けた研修や北区床ずれをなくそうプロジェクト等を企画・参加。
病院では NSTや在宅支援部門の立ち上げ、老健施設では福祉用具専門相談員とPTと連携しシーティングの改善、管理栄養士や介護職と連携し看取り期の食支援や他施設 OTを招きコミュニケーションの導入に取り組むなど、積極的に多職種と連携し組織横断的に褥瘡予防・管理を行う。ICT導入を提案し会議時間の削減や、他施設、多職種間での情報共有を実現。
間 宮: 実は5年程前、全国の医療機関に所属するWOCナースに「地域に出たいと思いますか?」と学会が調査をしました。約7割のWOCナースは肯定的に思っているのにもかかわらず、実際に地域にでているのはほんの僅かでした。理由は「院内での業務が忙しすぎる」からです。自分の技術を提供したいという思いがあるのにそのギャップに苦しんでいるのが現状です。WOCの院内での活動に診療報酬が付くのはありがたいのですが、それで病院内での業務が繁忙になっています。

 私は看護管理者であり、褥瘡専従という立場であるため、院内業務を調整して、比較的在宅への同行訪問に出やすい状況です。しかし、働き方改革により、医師のタスクシフトが進められています。私自身は特定看護師としてそのタスクシフトの一としての業務の調整が難しいのは事実です。若い看護師たちは、病院でのタスクシフトがさらに進むと、思うように出られなくなるのではないかと懸念もあります。さらに、WOCナースの同行訪問によって診療報酬を算定できますが、それは利用者の経済的負担となります。その負担を憂慮して私たちには声がかけにくくなり、結果として必要なケアが行き届きにくくなっていると感じています。
大阪府済生会吹田病院 副看護部長
皮膚 ・ 排泄ケア特定認定看護師
間宮直子先生
2002年院内にストーマ外来開設。2004年WOCナース資格取得。2008 年在宅・高齢者施設へ訪問開始。2016 年特定行為研修修了。
医療機関内では当たり前に行う処置が院外では当たり前ではないことを感じ、訪問看護師、デイサービスなど在宅療養者にかかわる人に合わせた褥瘡管理のケア手順書などが作成されるよう啓発。院内での管理業務、褥瘡回診、褥瘡外来等のほか在宅、高齢者施設への訪問を行う。
2019年からは高齢者の爪のトラブルに着目し、つめ切り看護外来を開設。また、看護部では 2016年より、在宅支援の強化を目的に訪問看護ステーションに院内の看護管理者等が 6か月~1年間出向する取り組みを開始。
宇都宮: みなさんのような専門的な知識を持った人たちが地域に出られるよう、組織を越えたどこかに所属し、病院業務のほかに週2日くらい地域で活動できるような仕組みがあってもいいのではと思います。ウィル訪問看護ステーションはその未来形ですよね。
畑: はい、社内SNS等を活用し、相談のある事業所とやり取りをしています。ただ診療報酬が上がらないと病院のWOCナースは地域に出してもらえず、ほかの業務を優先されるということなのでしょうね。

 間宮先生は病院から地域に出向いているWOCナースの代表格かと思いますし、高橋先生も北区でのお取組みを数多くされていますよね。これが全国に広がっていけば地域の療養者の皮膚ももっと健やかに過ごせるのではと感じます。
ウ ィル訪問看護ステーショ ン江戸川
皮膚 ・ 排泄ケア認定看護師
畑千晶先生
褥瘡やストーマトラブルの悩みを訪問看護の現場で解決できないかと考え、2016年WOCナース資格取得。2021年4月よりウィル訪問看護ステーションの相談支援チームとして活動開始。
福祉用具の選定や、退院時の調整、社内SNSやオンライン同行訪問、ケア方法の配信など ICTを活用した事業所を越えての勉強会や、コンサルテーション業務を行う。相談先では保湿剤を推奨し、予防的なスキンケアに興味を持ってもらうよう心がけている。困難事例の窓口として、自社だけでなく地域にWOCをリソースとして案内するため、WOCcafe(都内在宅 WOCの集まり)企画に参加。
間宮: これまでそういうエビデンスが十分でなかったこともあると思います。

 院外に出向いた実績やその効果について、病院におけるアウトリーチとして報告していく必要があると考えています。新たに何かを始めてそれを広めていくことは容易ではありません。加算が付くのはエビデンスを出してからなのかな、と思っています。
畑: そのモデルとして、オンライン同行についてはどのように思われますか?認定看護師をオンラインでつないで同行するのが、このコロナ禍での工夫として出てきたと思います。当ステーションでも事業所を越えた相談が活発です。今後の可能性としてはどうお考えですか?
間宮: 可能性としてはありだと思います。当院の認定看護師室には現在、私以外に認知症看護、摂食嚥下障害看護の認定看護師が専従として配属されていますが、専属として病棟配属の認定看護師も多くなっています。オンライン同行が進めば、医療職の働き方改革が推進される中で、部署から時間の作り方の工夫が可能となります。また、このような壁を越えるために、所属機関内で自由に活動できるようにWOCナースだけではなく認定看護師全員が中央化されるようなシステムを検討することも必要かもしれないと考えてもいます。
高橋: 地域のスタッフと電話やメールで情報交換していた時には、ケアマネジャー、訪門看護師、ショートステイなどそれぞれに連絡が必要なためとても忙しく、処置中にも手を止めなければならないような状況がありました。しかし、現在ではICTが導入され連携がスムーズになったと感じています。さらにコロナ禍で、オンライン研修などもこれまで以上に盛んになったのでオンライン連携の可能性は広がると思います。
宇都宮: オンライン同行、社内SNSもそうですが、ICTをうまく活用するのはこれからの時代大切ですね。在宅ICTのタイムラインに、病院側の医療者が参加する、という取り組みが広がっています。在宅での様子がタイムラインで読めるので、WOCをはじめとした認定看護師が在宅で気になるケアについてアドバイスできます。ここに褥瘡をはじめ、誤嚥性肺炎など重症化する手前のケア、予防の視点も取り入れてほしいと願っています。

1人ではできない褥瘡管理、周囲を巻き込む力が大切

宇都宮: みなさんはWOCナースとしてそれぞれの現場から組織横断的に様々な取り組みをされています。患者、利用者に必要だと感じたことを実現し、自施設の看護ケアの質を上げる教育や体制、どうして実現出来たのかという部分を教えていただけますか。
間宮: 私は、 疑問を持ったらつい 「これって、どうなのだろう?」と考えてしまいます。でもこの「興味を持つ」ということがとても大切で、それがなかったら前に進まなかったと思います。このドレッシング材を使用したら「明日は傷がどうなっている?」。この外用薬を使用したら「1週間後はどうなっている?」と。こうした好奇心から、まず自分の眼で確かめてみたいという欲求が強くなります。WOC領域は創傷、オストミー、失禁と幅広いですが、1つでも良いので興味をもって自分で答えを導き出せるようにするのが、課題解決を実現できるための条件だと考えています。

 それともう1つ、1人ではなく、何でも周りの人を巻き込んで進めることも大切だと思っています。
高橋: 間宮さんもおっしゃるように褥瘡ケアは1人ではできませんので、周りの人を巻き込むことがとても大切ですね。1人でも不適切なケアをすれば褥瘡は出来てしまいます。褥瘡の形を見れば、日々のケアがわかると念押ししつつ、できたケアに関してはスタッフをほめ、モチベーションアップにつながるよう心がけています。
また、仕組み作りも重要と考えています。老健施設のスキンケアを充実させるためスキンケア研修の実施と、皮膚掻痒症に対する軟膏フローチャートを作成しケアを統一したところ、掻痒感は2割減、掻破は4割減、皮疹は9割減と悪化予防ができました。実施可能な仕組み作りも周囲を巻き込む手段の一つだと考えています。集合研修が行いにくいコロナ禍においても、ケアの方法を周知していくためにオンライン研修の充実化に力を入れていきたいと考えています。
畑: 在宅領域は上手くいくと褥瘡が治るところまでかかわれるのは利点です。私自身、WOC領域はとても楽しいと感じているので、周囲に楽しさをわかってもらえる努力をしています。褥瘡が良くなったらチームみんなで喜ぶ、ほめる、楽しさを伝えることを心がけています。
宇都宮: ありがとうございます。特に急性期の病棟看護師は自宅に帰った後の嬉しそうな患者さんの顔を見られないですよね。次に姿を見られるのは再入院となった時です。自宅で頑張っている様子のフィードバックが、看護師同士の連携において大事だなと思っています。
間宮: そうですね。私が在宅へ同行訪問する際は、ご家族に許可をいただいて写真を撮ります。入院されていた病棟のスタッフに元気になった姿を見せたいから、と言うと「今の様子を伝えて欲しい」と皆さん喜んで了承して下さいます。
畑: 小児のケースなどで退院後1か月、3か月のタイミングで写真付きのサマリーを病院へ送ったケースがあり大変喜ばれた経験があります。お話を聞いていて、それを褥瘡管理においてもやるべきで、在宅の様子を継続的に病院や施設の看護師に伝える、それも一つの大事な連携の形なのだろうなと感じました。一時的、 一方的ではない連携が必要ですよね。

療養者が居心地の良い暮らしの実現のために

宇都宮: 退院後もずっと居心地よく、最後まで自分らしく過ごしていくために、早い段階で専門的な知識を持った看護師が介入することについては、どのように思いますか?
間宮: 終末期の療養者にとって褥瘡外来通院は困難を伴います。そのような方たちの元に訪問を続け、また連携するべき訪問看護師への支援を続けるのが大切だと思います。私たちの活動が最期まで自宅で過ごすという思いをかなえる一助となればと考えています。その中でケアマネジャーの存在は重要です。以前、褥瘡学会でのディスカッションに参加したケアマネジャーが、病院からWOCナースが地域に出向いていることを知り、感激して涙ぐんでいらしたことがありました。
それを目の当たりにして、地域によっては褥瘡管理の情報が全く行き渡っていないのを痛感しました。私たち急性期のWOCナースは、地域にアセスメントを伝える役割も担っていると思っています。しっかりと情報を発信して、私たちをリソースナースとして活用できるのだと、ケアマネジャー全体に広げていかなければと思います。
畑: そうですね。在宅では家族が一番近くにいて、訪問看護師は点でしかありません。ケアマネジャーがうまく介入し、さらにかかわる職種全員が正しい褥瘡管理について知ってつながる必要があります。そのうえでそれぞれの視点で得意な部分を生かせたら良いですよね。また、在宅での褥瘡は時に治癒だけが目標ではなくて、日常生活が優先されると考えています。寝たきりの人よりも、軽度の褥瘡があって、もっと外に出たい、座りたいし動きたい人こそ治りづらいケースがあります。そんな時は、悪化させない、感染させないことを目標に、いつか治るといいねという視点で、本人の望む暮らしをお手伝いすることが大切だと考えています。
高橋: スキンケアや洗浄、排泄ケアなど、WOCナースとしては当たり前に行っているケアを、地域で実際に行う人たちに無理なく行ってもらえるような方法で伝えていくことで、患者、療養者の生活の質をあげられると感じています。

 そしてやはりみなさんおっしゃるように、ケアマネジャーの介入は大切です。訪問看護師が入らないと私たちWOCナースは同行訪問ができない現状で、訪問看護すら入れず褥瘡が悪化しているケースがあります。その辺りも上手く介入できるような仕組みが出来ていったら良いなと期待しています。
宇都宮: 急性期のナースがどんなことを考えているのかアセスメントを伝え、それを受けて実際に自宅で継続できる方法を地域の訪問看護師や、ケアマネジャーを通じて考えていくのが褥瘡予防の観点からも大切ですね。

 すぐに取り組みを報酬制度にするのは難しいかもしれませんが、成功事例を出していくことで、みなさんのような人たちが地域にもっと入りやすくなる仕掛けを作っていくことが必要だと感じました。

 ぜひこれからも良いと思ったことを取り入れていただいて、さらに成果を出してくださるのを期待しています。本日は貴重なお話をありがとうございました。
参考文献:1)貝谷敏子ほか . 皮膚・排泄ケア認定看護師による地域連携に関連する診療報酬算定の実態調査 .日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌 . 2017, 21(3), p284-295.

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