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聴きある記

聴きある記「第22回日本在宅ホスピス協会全国大会in山梨」「第19回日本訪問歯科医学会」

投稿日:2020.05.15

多死社会に向け、求められるコミュニケーション

いきなりクイズから始めたい。11月30日はなんの日? 正解は「人生会議の日」。
厚生労働省は2018年11月30日、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の愛称を「人生会議」とすると発表し、あわせて毎年11月30日を「人生会議の日」と定めた。「いい看取り・看取られ」の意味が込められている。「人生会議」は、もしものときのために、あなたが望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取組のことだ。
日本の年間死者数は2040年にはおよそ168万人となり、ピークを迎えると言われている。「多死社会」を迎えるにあたり、医療職と患者・家族のコミュニケーションはますます重要となる。

山梨の訪問看護の現場で活躍が期待されるTSM

去る9月28・29日に行われた同大会では、「支え、支えられる人たちをつなぐTHP(TSM)の活動」という市民講座が開かれた。山梨県看護協会では山梨県からの委託により「TSM(トータルサポートマネジャー)」の養成に取り組んでいる。「TSM」の大元は、「THP(トータルヘルスプランナー)」だ。THPの取り組みを始めたのは、日本在宅ホスピス協会である。
介護保険制度では介護支援専門員(ケアマネジャー)は患者・家族と専門職との調整役となっているが、THPは患者・家族の思いを汲み取り、医師・看護師、医療の専門職、自治体の関係者らを繋いで調整する役割を担う。その人が安心して自宅で最期まで暮らせるように支援する。現在THPとして認定されているのは約50名で大半は看護師だ。
一方、山梨県のTSM養成研修修了者は22名となっている(平成31年1月現在、山梨県看護協会のホームページによる)。

山梨県では75歳以上人ロ10万人当たりの在宅療養支援診療所数は全国平均に満たず、訪問看護ステーションの数の半数も全国平均よりやや下回るという。このマンパワーで2025年問題に対応するべく、すべての訪問看護ステーションにTSMを配置し、退院支援や看取り期の多職種連携について、ケアマネジャーの活動を医療面から支え、協働することを計画している。同講座では、TSMの活動が紹介され、今後の方向性を考える内容となった。
今後、THPの活動が全国で活発化すれば、在宅医療における医療職と患者・家族のコミュニケーションが深化する一助となるだろう。

在宅医療発展の要は地域・コミュニティづくり

教育講演では「支え、支えられる社会に向けて国が目指すもの」とのタイトルで、厚生労働省の吉田学医政局長が演者として登壇した。
吉田局長は「在宅医療」に着目した現状の問題点として、「地域・機能偏在」、今後充実すべき個別サービスとして、「多死社会における看取り」、「医療〜介護・生活支援の連携」などを挙げた。さらに、今後求められる人材は「総合診療+αができる医師」、「訪問看護/リハを担う専門職」、「医療に理解がある介護職(特にケアマネジャー)」だと具体的に述べた。そして、「要となるのは、地域・コミュニティづくり」であると纏めた。
第22回目となる本大会は「支え、支えられ自分らしく生きる」がテーマとなったが、参加者にとっては「自分らしく逝くには」という大きなテーマについて、個人の、ひいては社会全体の課題として、あらためて考えさせられる貴重な機会となったように感じた。

[取材・執筆] 小山朝子(介護ジャーナリスト)

●シンポジウム

訪問歯科における医科歯科連携

1 長崎修二先生(在宅サポートながさきクリニック)

在宅医療は入院医療、外来通院医療に次ぐ第3の医療といわれている。嚥下機能・口腔衛生に関心をもつ医師は多い。しかし、「医科は口の中は診ない。歯科は口の中しか診ない」ともいわれている。身体機能の低下などにより高齢者の歯科受療率は低下し、在宅患者のロ腔環境は悪いことが多い。嚥下機能の低下によりロ腔環境維持と摂食の意欲が低下するので、積極的な介入が必要である。
在宅医療を行っていて医科歯科連携が進んでいるという実感はあまりない。医科-歯科のみならず、看護、ケアマネジャーとの連携、情報共有が重要となる。

2 原等子先生(新潟県立看護大学)

訪問歯科診療と訪問看護は、食支援、口腔保清、口腔機能向上など多くの面で接点がある。
①自宅以外の多様な高齢者施設の増加、
②在宅療養患者の重症化、
③医療選択の多様化
など、訪問歯科診療と訪問ロ腔衛生のニーズは多様化している。訪問歯科診療への期待は大きい。医師、薬剤師、リハビリテーション(以下リハ)、看護、介護などの医療スタッフと情報交換・連携し、口腔ケア・リハの提案・指導をしてほしい。

3 武井典子先生(日本歯科衛生士会)

歯科衛生士が誕生して70年、わが国は世界で2番目に就業歯科衛生士が多く、その90%以上が歯科診療所に勤務している。人口高齢化により歯科診療所を受診する患者の45%以上が65歳以上となっている。日本歯科衛生士会では、専門性を向上させるため生涯研修制度(1989年)、認定研修制度(2008年)をスタートし、2019年からはeーラーニング(DH-KEN)も導入した。訪問歯科診療において、ロ腔健康管理をすることにより、①誤嚥性肺炎予防、②在宅療養者の「食べる楽しみ」の維持・向上、③低栄養予防が歯科衛生士の役割である。

4 久篠奈苗先生(東京家政大学)

地域包括ケアシステムが推進され多職種連携がスタンダードとなり、リハ領域と歯科の連携・協働の機会は増大している。理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)は健康、疾病・障害の予防と治療に幅広く対応していくことが求められる。
摂食嚥下リハでは、PT・OTは口腔機能以外にも食事に関連した全身機能や環境について多角的に介入している。訪問歯科医療においては歯科医療者が無理な姿勢で治療を行う場合も多い。医療者側の腰痛リスクを軽減することが重要であり、PT、OTが介入して腰痛予防体操や無理のない姿勢指導を行うことができる。

●特別講演1

在宅医療と医科歯科介護の連携について

佐々木淳先生(医療法人社団悠翔会)

わが国の高齢化率は上昇し、疾病構造の変化により、医療の役割は治癒からケア・サポートへと変わってきた。

高齢者の低栄養はリスク

高齢者にとって低栄養は単独で大きなリスクとなる。食事量低下・低栄養は廃用症候群・運動機能低下・筋量減少など負のサイクルをもたらす。最も死亡リスクが少ないBMlは米国の研究では27、わが国の研究でも25.1(男性、60-69歳)という結果が出ている。訪問看護利用高齢者の60%は低体重という報告もある。
成人の食事については生活習慣病予防の観点からカロリー・塩分制限が強調されてきたが、高齢者の食事の優先順位は十分な力ロリー、たんぱく質である。また、サルコペニア・フレイル予防の上では、オーラルフレイル(口腔機能低下)予防が重要。ロ腔ケアを行うことで誤嚥性肺炎発症率・死亡率ともに低下する。
脳卒中発症後は嚥下機能が障害され経ロ摂取をあきらめることが多いが、6ヶ月後には嚥下機能が回復するという報告がある。「誤嚥性肺炎=食事が危険」なのではなく、適切な口腔ケアを行い、患者の摂食機能に応じた食事・機能回復支援を多職種連携により行うことが求められる。退院後は在宅医療となるケースが多いが、連続した栄養サポートが必要となる。

[取材・執筆] 西谷 誠(ニュートリション・アルファ)

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