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何ぞやシリーズ第20回 「臨床宗教師」って何ぞや?

何ぞやシリーズ第20回 「臨床宗教師」って何ぞや?

投稿日:2020.06.26

2011年の東日本大震災を機に、東北大学を中心に養成が始まった臨床宗教師。
仏教、キリスト教、神道をはじめ様々な宗教者が心のケアに関わる専門職として協力しています。
あなたの周りにも、心のケアを必要としている方はいませんか?

信仰をベースに悩み・悲しみに寄り添う

臨床宗教師の方はどういう活動をなさっているんですか?
一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格である臨床宗教師は、被災地や地域社会、あるいは医療機関や福祉施設などの公共空間で心のケアを提供しています。
欧米のチャプレンの活動を日本流に導入しようと、かねてより宮城県の医師、故・岡部健先生が提唱してこられ、東日本大震災をきっかけに活動が始まりました。
布教・伝道が目的ではなく、宗教者としての経験を生かしつつ対象者の価値観を尊重しながら苦悩や悲嘆を抱える方々に寄り添います。
井川さんは、主にどこでそのような活動をされているのですか?
臨床宗教師として活躍する場所は人それぞれ違っていて、私は主に病院の緩和ケア病棟と地域社会の中に入って高齢者の孤立予防活動にも取り組んでいます。
臨床宗教師の方が地域でも活動されているというのは、初めて知りました!
私は地域に貢献できることを継続していきたいと思っています。私が伺っている高齢者サロンでは、「話を聞くことを通して、いくつになっても学べる喜びを噛みしめている」という方もおられました。
当初、1回ごとに完結する講話を行っていたのですが、死生観について半年以上話すこともありました。
その間、宗教宗派を勧めるわけでもなく、宗派を特定するわけでもないのですが、私は僧侶ですので、高齢の方からお墓や仏壇・葬式のことも聞きたいと言われればそういうお話もします。
本人がわからないことをお教えして、何かを考える際のきっかけ作りをしている感じです。
身寄りがない方の中には、社会とのつながりが希薄な中、「医療や福祉関係者以外の人と話すことはとても貴重だった」と言って下さる方もおられ、私もとても嬉しかったです。

本人の力にゆだね、待つ

病院側の受け入れはどうですか?
病院では対象者と1対1で対話を行うことも多いので、宗教者が医療現場に入ることを警戒されることがあります。
しかし、布教・宗教活動を前提として訪問するわけではないので、医療者と私たちが手をつないでチームに入り、できるだけ情報を共有していくことが患者さんの心のケアには必要なのだと考えています。
私たちは、会話記録というものを残しています。自分たちの関わりを振り返るために、患者さんとの面談で印象に残った場面を逐語録にし、自分が何者で、どうしてそのような関わりをしたのか書き起こす訓練があるのです。

ある若いがん患者さんが、亡くなったご両親の話をされたことがありました。
対話をする中で、ご両親への想いを語り、自分の生命の限りを見つめている、そんな姿が印象的でした。
相手の方が回想することは、私たちの手を離れて自然と起こってくるものです。
能動でも受動でもなく、自然にその人の中で何かが立ち上がってくることに気づきました。ですから、こちらの価値判断をはさまず、信頼感を持ちながら待つ、目の前の方が持っている力にゆだねることが大事だと思います。
宗教的な解釈や井川さんの価値観を伝えるのではなく、求められるまでは患者さん自身からの発信を待つ、ということですか?
はい。今後はこの活動を継続しながら、社会との関わりを増やし、求められたときには伝わりやすい言葉で伝えられるよう、皆さんの思いに少しでも応えられるようにしたいと考えています。
こういう「待つ」時間も含め、病院の看護師さんたちは、医療的な処置に追われ、患者さんとじっくりと向かい合うことができないと感じている方も多いのではないでしょうか。
私達が宗教者としてできることがあるように、看護師さんだからこそできるケアがあり、それはほかの職種や立場の人が取って代われるものではありません。だからこそお互いに協力することで、もっと大きな力が生み出せる仲間になれるのではないかと思っています。
私たちが地域包括ケアに入っていくことで、宗教者と医療者がどう連携していけるか、そういう社会資源もあるんだな、と看護師の皆さんにも知ってもらえたら嬉しいです。
〔つづく)
■取材協力 井川 裕覚
認定臨床宗教師(日本臨床宗教師会)/関東臨床宗教師会副代表・事務局長/上智大学大学院 実践宗教学研究科 死生学専攻 博士後期課程

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