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ナースマガジン vol.45

【看護ケアQ&A】 糖尿病のある人へのセルフケア支援

投稿日:2023.11.02

糖尿病治療には、セルフケア支援がとても重要です。しかし高齢での1人暮らしや認知症などの背景があると、関わり方に悩むケースが多いのではないでしょうか。読者の皆様から寄せられたお悩みについて、森先生にご回答いただきました。
森 小律恵 先生
監修
森 小律恵 先生
東京都済生会向島病院
糖尿病看護特定認定看護師
※おことわり
「糖尿病」をめぐる認識や表現が変わりつつある背景を受け、本号では読者の皆様により適切かつ理解しやすい表現を提供するべく、状況や文脈に応じた多様な用語を使用
しております。各コンテンツにおいては、異なる表現を用いている場合がございます。


認知症のある人への支援

認知症のある高齢のご夫婦宅へ訪問しています。 昼食前のインスリン注射の指示がありますが、 いつ食事たのかわからず、 注射後に食事を食べずに低血糖になそうで不安です。 生活の様子も把握しづらく、関わり方に困っています。
—-̶訪問看護ステーションスタッフ
認知症の段階によって、 その人への支援は異なります。
まずは主治医と相談しながら、 血糖コントロールの目標値を変えることも大切です。
 認知症のある人は食事の取り方にムラが出やすく、 また低血糖のサインを自覚しづらくなることがあります。 そのような状況を理解した上で、 食べムラによる血糖値の推移を許容し、 低血糖や高血糖を引き起こさない範囲におさまる目標設定が必要です。目標設定は、 主治医と治療の方向性をすり合わせることが必ですが、 『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』(4ページ参照)で示されている 「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」(ガイドライン94ページ掲載)を確認しておきましょう。 このガイドラインでは、 認知機能やADLに応じた高齢者糖尿病のHbA1cの目標の目安を設定する方法や高齢者の特徴に基づいた評価の指標が示されています。 その人の状態を把握したうえで、 主治医と話し合いながら血糖管理の目標を設定していきましょう。

 また、 できる限り認知症の初期症状を早期にキャッチし、 適切なサポートにつなげることも大切です。 外来の予約日を間違える、 内服薬が足りない、 血糖測定器の操作方法がわからなくなるなど、 普段と違う行動から発見につながることもあります。看護師だけでなく、 受付や医療事務の職員が違和感に気付くことも多いため、 普段からチームとして小さなエピソードでも共有できるとよいですね。 認知機能のスクリーニング方法はいくつかありますが、 当院では比較的容易に行える「DASC(ダスク)ー8」という質問票を使用しています。

 1つ注意したいのは、血糖管理がうまくいかないときに、悪性腫瘍などの別の病気が隠れている場合があることです。高血糖の原因が食生活によるものだけではないことを、常に頭に入れておきましょう。

『高齢者糖尿病診療ガイドライン2023』

日本老年医学会と日本糖尿病学会が共同編集した糖尿病診療の改訂版ガイドライン。
高齢者の生理機能の変化や合併症・併存疾患など、糖尿病診療における考慮すべき点や臨床上の疑問について解説。
編・著:日本老年医学会・日本糖尿病学会
サイズ:B5判/ページ:264頁/発行元:南江堂
発行年月:2023年5月
定価:3,960円(本体3,600円+税10%)
ISBN 978-4-524-23464-6



高齢者への食事支援の関わり

高齢の人の中には、 安価で手軽な菓子パンやラーメン、 うどんなどの炭水化物を主食にする人が多くいます。 どうすれば効果的な食事療法を行ってもらえるのでしょうか。
—-総合病院 (ケアミックスなど)スタッフ
高齢になると手間やお金をかけることが難しくなり、 スーパーの惣菜やレトルト食品の利用が増えていきます。 野菜をあまり食べていない、 糖質制限がうまくできないなど、 食事指導の難しさを感じています。
—-訪問看護ステーション主任看護師地域糖尿病療養指導士
血糖マネジメントのための食事療法は重要ですが、 その人ができる方法を一緒に考えることが大切です。 惣菜やレトルト食品は、 内容を一緒に相談しながら活用するとよいでしょう。
 糖質制限をすれば確かに血糖値は下がっていきます。 しかし、 高齢の人にそこまでの制限を求めるのは難しいケースもあるため、 できる範囲のことから始めていきましょう。 例えば糖質制限だけにこだわらず、 ご飯、 肉・魚、 野菜などの食材をバランスよく食べることも重要だと思います。 特に高齢者はたんぱく質が低下すると、 筋力低下や貧血、 骨粗鬆症などを引き起こしてしまいます。 また、 野菜の摂取を増やすのは難しいと感じるかもしれませんが、 コンビニエンスストアでサラダを買えますし、 きゅうりやトマトを1日1つ食べるならできるという人もいます。 何が食べられるかを聞き、 その人が取り入れやすい方法を選ぶところからはじめてみましょう。 最近ではバランスの良い惣菜やレトルト食品も増えているので、 スーパーごとにどのような惣菜が置いてあるかという情報を聞きながら、 上手に活用できるとよいですね。 看護師自身もその地域に住んでいるのであれば、 実際に売られている商品を把握して、 その中から選択方法を伝えることも可能です。

 商品の栄養成分表示には、 カロリーや塩分などの情報があります。 惣菜には味が濃いものが多いので、 塩分が多ければ食べる量を2回に分けてもらうなど、 より具体的なアドバイスができるでしょう。 その上で、 その人の状態に合わせたインスリンや内服薬の使い方を医師と相談できるとよいと思います。


周囲のサポートが得られないときの支援

糖尿病性昏睡で緊急入院された患者さんを担当していて、 家族が治療内容を知らない、 関心がないというケースがあります。 独居や家族が遠方に住んでいることも多く、 周囲のサポートが得られない人の退院後の様子が気になります。
—-急性期病院主任看護師
家族が、 本人の病気や状態をどう思っているのかを聞いてみましょう。本人のことを心配しながらも、 仕事や様々な状況でサポートが難しいケースもあります。
 医療者は家族のサポートを期待してしまいがちですが、 実際、 適切にインスリン注射できているかを1日1回確認するだけでも簡単ではありません。 まず、 家族の気持ちを直接聞いてみることが大切です。

 また、 その人に合わせた地域のリソースもうまく活用しましょう。 看護師自身が退院後にどのようなサポート体制があるのかを具体的に知ることで、 病院からのバトンをどうつなげるかイメージしやすくなり、 次のケアにも生かせるのではないかと思います。
 
 特に糖尿病のような日常の管理が求められる疾患の場合、 退院後の生活は病院と在宅領域が連携してサポートすることが理想です。 情報共有の際、 看護サマリーなど書類の活用が難しければ、訪問看護ステーションなどに直接電話をすることもあります。 他には、 訪問看護師やヘルパーが使う連絡帳を外来に持参してもらい、 病院スタッフからの伝達を記入することもあります。 その変化にタイムリーに対応できると、重症化を防ぐことはもちろん、 QOLの向上にもつながると思います。適宜、看護師同士、多職種で必要な情報を共有できるような体制を目指していきたいですね。

糖尿病のある人への気持ちを尊重した関わり方

運動療法や食事療法などが難しい場合、 本人が責められていると感じないように関わるにはどうすればよいでしょうか。
—-訪問看護ステーション主任・リーダー
糖尿病のある人に、 病状を理解してもらいながら寄り添っていくための工夫を教えてください。
—-訪問看護ステーションスタッフ
血糖マネジメントがうまくいかない原因を一方的に伝えると、 責められていると感じているかもしれません。 その人の気持ちを聞きながら、 一緒に対策を考えることが大切です。
 HbA1cが高いと 「血糖マネジメントがうまくいっていない」 と捉えてしまいがちです。 その状況に至る原因は様々ですが、 本人が疾患を理解できていないことが原因だと考え、 「しっかりと情報を伝えなければ」 と思ってしまうことも珍しくありません。

 その際、 一方的に伝えるのではなく「これが原因だと思いますが、 どうですか?」 と相手の気持ちも併せて聞くことが大切です。 そうすれば、 責められているというより 「話を聞いてくれている」と感じてもらえるかもしれません。

 このときの関わり方で重要なのは、 相手に多く話してもらうことです。 「指導」と考えると、 医療者が長く話すイメージがあるかもしれませんが、 相手が話す時間が長いほうがよいと思います。 今はインターネットで多くの情報が出てくるので、 とても細かく調べていたり、 調べすぎて偏った考えになったりする場合もあります。 その人が知っている情報を話してもらうことで、 誤った認識があれば訂正したり、 アドバイスできたりすることもあります。 相手の気持ちを聞きながら、その人に合った解決策が一緒に考えられるといいですね。


参考: 一般社団法人日本老年医学会 HP
DASC-8(認知・生活機能質問票)を用いた高齢者の血糖コントロール目標設定のためのカテゴリー分類のしかた
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/dasc8.html


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