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ナースマガジン vol.39

【看護ケアQ&A】口腔ケアから オーラルマネジメントへ

口腔内の環境は患者さん一人ひとりの状態や疾患により様々です。口腔ケアを行う際には、口腔内のアセスメントや評価、多職 種との連携 等、包括的に捉えるオーラルマネジメントの視点を持ちながら関わることが大 切になってきます。
今回、皆さんから寄せられたお悩みについて、松尾先生、三鬼先生にお答えいただきました。(編集部)
松尾 浩一郎先生
松尾 浩一郎先生
東京医科歯科大学 大学院
地域・福祉口腔機能管理学分野 教授
東京医科歯科大学病院
オーラルヘルスセンター センター長
三鬼 達人先生
三鬼 達人先生
藤田医科大学ばんたね病院 看護科長
摂食・嚥下障害看護認定看護師

口腔内が出血している患者のケア

出血傾向があり、 口腔粘膜から出血している患者のケア方法を教えてください。 一旦きれいになってもすぐに血まみれになってしまう人がいるのですが、 こういった場合はどのように対応したら良いでしょうか。
松尾先生(以下松尾) :出血傾向のある方の口腔ケアに難渋されている方は多いかと思います。出血している場合多くは粘膜が脆弱になっていることが考えられます。例えば、全身状態の悪い患者さんに見られることですが、粘膜が弱っているところに乾燥が加わると、裂けてしまい、そこから出血してくる場合があります。
 このような場合は、口腔粘膜のどこからの出血なのかを見ることが大事な点かと思います。歯が折れている時以外は、歯の表面から出血することはほとんどありません。出血部位は、頬粘膜、口唇などが多いですね。また、化学療法を受けていて粘膜炎ができている方では、可動粘膜(頬粘膜や舌など口腔の動きに合わせて動く粘膜)からの出血が多いというのをまず一つ覚えておいてください。

 ケアする時に血液が乾燥している場合は、保湿をして優しくスポンジブラシなどを使い、その血液を除去します。その際には、どこから出血しているのかを確認しましょう。出血部位にはあまり触らないようにして、それ以外の汚れを取っていくと必要最小限の出血で抑えられるかと思います。出血が持続している部位は圧迫して止血をし、ケアの最後にはしっかり保湿をするようにしましょう。


含嗽時のケアの工夫

重症患者や寝たきりの患者さんで姿勢の保持が難しいのですが、 含嗽がかろうじてできる場合、 どういったポジションを取ればご本人の負担を軽減して含嗽ができるでしょうか。
松尾:重症の方でも、30度程頭が上げられるのであれば、リクライニングポジションをとっていただいてケアができれば良いと思います。気をつけていただきたいのは、仰臥位のままだと、口腔ケアを行った際の汚染物を誤嚥することにより肺炎のリスクが高くなるため、頭部を上げていただき顎を軽く引いた姿勢に整えてケアすることが大事です。 含嗽が難しければ口腔用のウエットシートを用いて拭き取りの対応でも良いですね。
三鬼先生 (以下三鬼) :健康な人でも中途半端なリクライニングの体位だと含嗽はやりにくいと思います。リクライニングがとれず、姿勢を整えることが難しい場合や、 重症患者さんや終末期の患者さんで覚醒状態が悪い場合は、 含嗽ではなく口腔内の拭き取りで対応する方が良いかと思います。拭き取りを行う際は、歯ブラシをした後に汚れを吸引してから拭き取るようにしましょう。拭き取り後は、唾液や粘膜も拭き取ってしまうため、最後に保湿することが重要です。

口腔ケア時の安全・安楽な体位

▶自立度・患者の状態に応じて体位の調整をする。
▶ 誤嚥防止のため頭部屈曲位(頸部前屈)にする。
▶ 麻痺がある場合は健側を下にする。
▶ 座位時は患者と目線を合わせて実施する。

口腔内を拭き取る際の留意点

▶ 中から外へ向かって拭く。外から中では汚れを押し込んでしまう。
▶ ウェットティッシュ等を使用して拭き取る時は、拭き取り毎に面を都度変えることが必要。
▶ 拭き取った後は必ず保湿をする。唾液や粘膜を拭き取ってしまい、乾燥を助長させる恐れがあるため。


口腔ケアに拒否のある患者について

拒否のみられる患者さんへ行う口腔ケアではどのようなことが重要でしょうか。 対応方法を教えてください。
三鬼:拒否のある人に 「これをやれば絶対に拒否がなくなる」というものはないと思いますが、 それは口腔ケアに限ったことではありません。 まずは丁寧にコミュニケーションを取り、 十分に説明した上で関わること、 身体に触れる際は、 末梢(手)から中枢(顔面・唇・口腔内)に向かって触れていくことが重要だと思います。
 また、 場合によっては、 介助する側も歯を磨きながら、 「一緒に歯を磨きませんか?」 と声をかけ、 歯ブラシを持ってもらうだけで、 自分で実施する人もいますし、 鏡で患者さんの姿を映して歯ブラシをあてることで、 歯を磨くことを認識して口を開いてくれる人もいます。

 自分たちも寝ているところを急に起こされて口に何かを入れられたら拒否したくなりますよね。 強引に行おうとせず、 相手の気持ちになってみましょう。
松尾:例えば、私が行っている訪問歯科でも、内視鏡検査を実施する時に「何をするか」 ということを十分に説明してから開始すると受け入れてもらいやすくなるので、やはり信頼関係の確立が大切になると思います。

 何をするかという説明をして、 患者さんが納得したことを確認してから実施することを心がけると良いでしょう。

口腔ケアの標準化のために

毎日行っている口腔ケアの標準化をしたいと考えています。標準化を周知しようとしても勉強会に参加した人だけに限られてしまい、なかなか全体の標準化に向けて動けていません。ヒントになるような情報を教えてください。
三鬼:当院でも一部署あたりの看護師の人数は多く配置されています。一回の勉強会で全員に教えるということは難しいので、 工夫している点としては、 勉強会は全員が受けられるまで繰り返し開催するという形をとっています。 標準化を目指すのであれば、 全員に行き渡るまで勉強会は開催するのが望ましいと思います。
 OHATや口腔の評価、 口腔ケアの方法を公開している動画サイトを参考にしていただいても良いですね。
松尾:基礎知識を学ぶためにも勉強会は実施した方が良いです。 また、 標準化を図るためには、 アセスメントが重要になるかと思います。 その人の病態であったり、 口腔内環境によってケアの回数や介入の方法は多少変わってきます。 そうした際に、 OHATを用いてアセスメントを行うと、 口腔内の状態を数値化することができます。 OHATは歯科医療者以外が使いやすいように、 というコンセプトで作られたものになっているため、 多職種で連携を深めていく際にも共通言語化ができる点が非常に便利だと思います。 評価項目は8項目、 各項目0点から2点の3段階で評価します。 各項目2点(残存歯、 義歯、 口腔清掃の項目では1点以上)の場合は、 歯科依頼を検討しましょう、 という指標になっています。

 また、私が回診していて思うことは、勉強会に加えてオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)が大切だということですね。回診時に、患者さんのベッドサイドで職員に対して、歯科衛生士が口腔ケアの手技について指導を行いますが、このような個別指導を行うことで、現場にフィードバックをかけることができます。アセスメントとケアのスキルを評価してフィードバックするとケアの質が全体的にあがってくるように思います。


OHAT日本語版はどなたでも使用することができます。「東京医科歯科大学 OHAT」でダウンロードすることができますので検索してみてください。
https://www.ohcw-tmd.com/research/ohat.html
8つの項目(口唇、舌、歯肉・粘膜、 唾液、残存歯、義歯、口腔清掃、 歯痛)のうち、 いずれかの項目で2、もしくは残存歯、 義歯、 口腔清掃で1以上は要歯科受診と判定される。

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