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第10回 症例から学ぶ周術期看護

術後せん妄について考える

投稿日:2024.06.20

術後せん妄とは、手術をきっかけにしておこる精神障害の総称です。術後せん妄に対してどのように取り組むのか、手術を予定している症例を用い、済生会横浜市東部病院の谷口英喜先生に解説いただきました。

今回は術後せん妄について考えてみましょう。

症例

82歳 男性 独居
腹腔鏡補助下、鼠径ヘルニアの手術を予定 
1年前に骨折で入院中にせん妄を起こしていた

既往歴
脳梗塞
認知症で内服治療中

Q. 術後せん妄が起こるとどのような弊害が生じますか?

A. 術後経過に様々な悪影響を及ぼします。
術後早期に起こり、比較的高齢者に多いとされています。症状としては、錯乱、幻覚、妄想状態が急激に起こり、通常数日続いて消失します。術後せん妄が起きると、術後の看護ケアにおいてさまざまな障害となり、その後の術後経過に悪影響を及ぼします。患者の予後にも重大な影響を与える可能性があります。


Q. 術後せん妄に対して どのように取り組んだら良いでしょうか?

A. まずは術前にリスク因子を確認し、ハイリスク患者に予防策を講じます。
現在、術後せん妄は「全身炎症や代謝障害、手術の侵襲などの身体要因や、薬剤(オピオイド、非ベンゾジアゼピン系を含むベンゾジアゼピン系薬剤(以下BZ)、麻酔薬、副腎皮質ステロイドなど)の影響で生じ、急性で変動する意識障害、認知障害」と考えられています。
令和2年度診療報酬改定において、せん妄ハイリスクケア加算が算定可能となりました。急性期医療を担う保険医療機関の一般病棟において、すべての入院患者に対してせん妄のリスク因子の確認を行い、リスク因子に1項目以上該当する場合はハイリスク患者と判定し、薬物を使用せずに、「せん妄対策」を実施した場合に算定できます。
【せん妄のリスク因子の確認】
□ 70歳以上
□ 脳器質的障害
□ 認知症
□ アルコール多飲
□ せん妄の既往
□ リスクとなる薬剤
□ 全身麻酔の手術
【ハイリスク患者に対する対策】
□ 認知機能低下に対する介入
□ 脱水の治療・予防
□ リスクとなる薬剤の漸減・中止
□ 早期離床の取組
□ 仏痛管理の強化
□ 適切な睡眠管理
□ 本人・家族への情報提供


Q. 多職種との連携はどのようにしたら良いでしょうか?

A. 連携の形式はさまざまです。TOPS※での連携例を示します。
※当センターの愛称は、「Tobu Hospital Patient Support Center」略してTOPS(トップス)。

当院の場合、手術2週間前に主治医の紹介形式で全ての待機的手術患者にTOPSを受診してもらい、さまざまな周術期支援の一環として術後せん妄対策も実施されます。TOPSは上記の図の流れで進行します。

本症例は、高齢、脳器質的障害、認知症、せん妄の既往、全身麻酔に該当し、ハイリスク患者と判定。入院前に認知症ケアチームに紹介され、各種予防策が施されました。術当日に睡眠障害は見られたものの、前回入院時のようなせん妄はみられず、術翌日に歩行や経口摂取が開始となりました。


本症例でナースが注意すること

術前にリスク因子を確認
術前にハイリスク患者には対策
認知症ケアチームと情報共有
患者・家族・介護者への十分な説明

Take home message

●術後せん妄は術後ケアを困難に
●術前術中からのシームレスな予防策
●多職種チームによる予防策が必要

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