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第6回 症例から学ぶ周術期看護 

周術期における早期経口摂取

投稿日:2023.03.27

術後の早期経口摂取ってどのようにすればいいの?
そんな疑問について麻酔科医の谷口英喜先生にわかりやすく解説いただきました。

今回は、術後の回復を目指した早期経口摂取について考えてみましょう。

症例
76歳女性、身長142cm、体重44kg

既往歴
高血圧、脳伷塞
早期結腸がんの診断で、腹腔鏡補助下結腸切除術が実施された。手術時間は185分、出血量10mL、ドレーンや胃管の留置も無く術後病棟へ帰室となった。

帰室後経過
術後経過は良好。翌朝、腹部レントゲンで異常がないことを確認し、飲水開始となった。患者はいつから食事が食べられるのか気にかけている。



Q. 術後の飲水開始時間の基準はありますか。

A. 明確な基準はありません。

1.麻酔科側からの基準
麻酔科的には、全身麻酔から覚醒して抜管できれば飲水は可能と判断できます。海外の手術室では、手術室内で飲水する所もあります。挿管困難があり、複数回の挿管操作を試みた場合には、嚥下機能の確認が必要になります。

2.外科側からの基準
外科的には、下部(大腸)の消化管を吻合しても絶食による腸管安静は必要ないとされています。一方、食道や胃などの上部消化管の吻合後に関しては、未だエビデンスが
少ない状況です。

3.生理機能からの基準
消化器外科手術を受けることで、胃・小腸・大腸の蠕動が一時的に抑制されます。回復の順番は小腸が最も早く4~8時間で回復、次に胃が24~36時間で回復、最後に大腸が48~72時間かけて回復してきます。

以上の理由から、一般的には小腸が動き出す抜管4~6時間後から飲水が開始されています。もちろん消化器外科手術でなければ、もっと早い時間からの飲水が可能です。
図 「消化管の生理学的な回復時間」


Q. 消化器外科手術の初回食事形態はどんなものが良いでしょうか。

A. 液体食が好ましいでしょう。

図で示しましたように、消化器外科手術後に最も早く蠕動が開始するのは小腸です。胃蠕動が回復するまでには時間を要しますので、術直後の食形態は固形ではなく液体が望ましいと考えられます。液体であれば、胃蠕動が弱くても小腸まで達します。誤って固形物を摂取させてしまうと蠕動が弱いので、患者は胃もたれや嘔吐を起こすでしょう。


Q. 液体食ですと、エネルギー不足になりませんか。

A. 術直後の早期経口摂取の目的は腸蠕動促進です。

DREAMの要である、術後の早期飲水(Drinking)および早期食事摂取(Eating)の目的は、エネルギー摂取ではありません。目的は腸管を刺激することで蠕動を促進させ、術後腸管麻痺を回避することにあります。術直後は体の内部エネルギーを消費しているので、外部から過剰のエネルギーを投与することで、高血糖の弊害が生じることが明らかになっています。術後3日目くらいからはしっかりと栄養を摂取する必要があります。


Q. 液体食から徐々にお粥の固さをあげていくのが良いでしょうか。

A. お粥の分上げは、不要です。

前は液体食から3分粥、5分粥、7分粥、全粥のようにstep up(分上げ)していました。しかし、分上げにエビデンスがないこと、諸外国では実施していないこと、お粥の摂取期間が長いほどエネルギー投与が少なくなることなど、分上げの意義が薄れました。現在では、液体食の次は液体食の次は全粥にあげても問題ないと考えられています。大事なことは、患者によく噛んでから飲み込んでもらうことです。噛むことで唾液や消化液の分泌が促されます。
以前から作られていた分粥の成分…お粥はエネルギーが少ない


Q. 排ガスやグル音の確認をしてから 経口摂取は開始すべきでしょうか。

A. 排ガスを待つ必要はありません。腸管蠕動音を聴取して開始しましょう。

以前は、排ガスを確認して経口摂取を開始していました。しかし、図にあるように小腸は術後4時間から蠕動を開始しています。ガスは大腸の蠕動が開始してから排出されますので、それを待っていては48時間以上も絶食になってしまいます。また、以前から使用されていたグル音という言葉は現在使用されません。「腸管蠕動音」という名称を使用するようにしましょう。腸管蠕動音は小腸の蠕動音なので、早期から聴取できます。確認してから飲水を開始するのがベストです。

Q. 術前も含めて、なぜ絶食時間を短縮することが良いのでしょうか。

A. 腸管蠕動促進と血糖コントロールを良くするためです。

以前は、消化器外科手術後は絶食によるbowel rest(腸管安静)が良いと思われていました。しかし、腸管安静に伴い吻合部には血流が乏しくなるために創傷治癒の遅れが生じること、蠕動運動が弱くなり腸管麻痺が起きやすくなることが指摘されました。動物実験では、吻合部を刺激することで腸管血流が増加して、縫合不全の発生抑制になることが示されました。また、絶食はインスリン抵抗性を増強させ、血糖コントロールを不良にします。以上の理由から、周術期を通した絶食時間の短縮が術後回復促進には良いと考えられるようになりました。

本症例でナースが注意すること

・排ガスは待たない、腸管蠕動音を聴取する
・蠕動が再開する消化管の順番と時間を把握しておく
・早期経口摂取の目的は腸管麻痺抑制である

Take home message

●周術期の絶飲食期間は短く  
●小腸では術後4時間で蠕動再開
●腸管安静により回復が遅れる

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