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編集部レポート

救急集中治療室で看護師が実施する POCUSの意義と可能性

投稿日:2023.09.08

谷口隼人先生
救急集中治療室では、刻々と変化する患者の容体の把握は非常に重要です。限定された部位の超音波検査(以下エコー)による画像診断は、POCUS(Point-of-care ultrasound:ポーカス)と呼ばれる診断ツールの指針が日本救急医学会によって認証されたこともあり、ベッドサイドでも広く利用されるようになりました。

この度、看護師専用のポケットエコーを病棟に3台常備している横浜市立大学附属市民総合医療センター高度救命救急センター取材の機会を得、看護師によるエコー導入の経緯や今後の展開についてお話をうかがいました。

コロナ禍で医師に再認識された看護師のアセスメント

 同センターの谷口隼人先生がPOCUSに注目されたのは10年ほど前。自身の専門である肺の診断アセスメントに取り入れるとともに、医師や超音波検査士向け養成コースの講師も務めていました。当時から看護師も使えるようにと指導はしていたものの、普及には至りませんでした。そのまま迎えた新型コロナウイルス感染症のパンデミック。同センターでも多くの患者を受け入れてきました。そこで谷口先生が再認識したのは、「患者の傍にいつもいるのは看護師」ということで、そこから救急集中治療室看護師のアセスメントにポケットエコーの活用を、という思いを新たにされたとのこと。
 医師らがECMO(体外式膜型人工肺)の操作を含め必死に患者の救命治療にあたっている一方、重症な患者の容体は、患者の傍にいる看護師がアセスメントし、医師に伝えていました。体に現れる大きな変化はモニターに反映されますが、小さな変化はやはりそばにいる看護師の観察眼がないとキャッチできません。そこにPOCUSというツールを看護師も活用し、エコー画像という客観的な情報が加われば、医師は適切な治療につながる情報を得ることができます。迅速な判断が要求される救急医療現場であればなおのこと、人数が多く、いつでも患者のもとに行くことができる看護師にエコーを使いこなしてほしい、と谷口先生は考えました。プローブを当てる際、患者に触れることで触診として読み取る情報も得られ、看護の「原点回帰」的な意味合いも含んでいるようです。

POCUS Point-of-care ultrasound

従来の領域・臓器別の系統的超音波検査は超音波の専門家により検査室で行われることが多いが、POCUSでは超音波装置の小型化に伴い臨床医がベッドサイドで診療の一環として行うことが多い。
▼用途▼
解剖学的評価、血行動態など生理学的評価、心肺蘇生時の評価、緊急度・重症度評価、経過観察やモニタリングなど。


全ての看護師がマスターすることで普及

 以前、看護師にもエコーを広めようとリーダー看護師を対象に指導をした谷口先生でしたが、異動などで部署を離れていくことも多く、病棟でエコーを使う看護師はいなくなっていったそうです。一方、指導を受けていない看護師の中にも、救急現場での患者のアセスメントにエコーを使ってみたいと、外部での研修に参加したり学会発表を聞いたりして学びを続けている方がいました。今回コロナ禍を経て、改めて先生からエコー研修を提案されたときは「私たちはもっとエコーを学びたい」という声を上げ、先生のモチベーションンを大いに上げたそうです。
 今回は看護師から看護師へ指導する形にし、2022年春、まずは谷口先生からコアメンバーの看護師に指導を開始、同年秋から半年かけてコアメンバーから全看護師に実践指導を行いました。谷口先生が監修し看護師が作成したテキストに沿ってお互いにプローブを当てて画像を確認。その動画をYouTubeにアップし、40人ほどの看護師に一人当たり2カ月以上の期間をかけ、4本の動画による座学、2回の演習、技術チェックというプログラムに自主練も加え学んできた結果、現在、受講した看護師全員が毎日の患者アセスメントにエコーを取り入れています。
 日々多忙な看護師から新たな取り組みの相談を受けたとき、岩間朋子看護師長は全面的にバックアップ。スタッフからの「エコーを学びたい」という申し出に、管理者の立場ですぐにOKサインを出したそうです。エコーを学ぶことで解剖学を学び、レントゲン像などと合わせて見ていくことで、より理解を深め看護に活かせるため、「せっかく始めたのだから継続を」と、どうしたらこのエコー研修から皆が日常的な実践につなげていけるか、という観点で常に考えてきたといいます。
 熱心な看護師たちに応え、谷口先生は「医師が使っているエコーを看護師に貸し出すのではなく、看護師専用のエコーを準備し、機材やシステムを整えることも普及の要素だ」と考えました。現在病棟には看護師専用のポケットエコーVscan Airが3台、常備されています。
 このような背景も、同センターで「すべての看護師」を対象にしたPOCUSへの取り組みを成功に導いた大きなポイントと言えるでしょう。いつでも誰でもエコーが使えるということは、24時間患者のアセスメントができるということ。今では「エコーで胸水の有無を確認」というように、看護計画の中に組み込まれることも珍しくありません。


主なエコー実施例

膀 胱: 時間尿量が急に減ったとき、尿閉か脱水かを判断

直 腸: 鎮痛剤使用患者の便秘における便の状態の確認

血 管: 抹消静脈の一確認、点滴の漏れの確認

 肺  : 胸水、無気肺の確認
プローブを当てる位置や角度は、何度も練習して覚える
プローブを当てる位置や角度は、何度も練習して覚える


多職種で患者を診るという文化を

 エコーにより可視化されたアセスメント内容の共有は、 患者を支える多くの職種をつなげています。 救急現場での看護師によるエコーは 「多職種で患者を診る」 という文化があってこそ活かされる、 と谷口先生は言います。 看護師がエコーを 「使う」 ことではなく、 エコーを使って得られた患者情報が治療に活かされることこそが目的なのであり、 そのためには《多職種が専門性を持ち寄って患者を診ること》 への互いの尊敬が欠かせません。
 「看護師は数年単位で部署異動があり、 また病院から在宅へ活動のフィールドを移すこともあります。 看護師にとってエコーの技術を身につけるということは、 どこにいっても自分自身の武器になります。 最終的には救急集中治療の現場だとか在宅だとか分けるのではなく、 どこにいても患者の傍にいる看護師として、 患者へのアセスメント能力をつけていくことが求められると思います」 とエールを送る谷口先生。
 今後は下大静脈、 嚥下、 頭蓋内圧、 骨の治癒過程を学びたい、 という要望も上がる中、 その取り組みの積み重ねは看護という仕事への働き甲斐をもたらします。 それは組織全体の活性化、 医療や医療安全の質向上へとつながり、患者に還元されることでしょう。


私たちのPOCUS

救急集中治療室 看護師の皆さんにお聞きしました。
救急集中治療室 看護師の皆さんにお聞きしました。
前列左より:今長谷あかりさん、谷口隼人先生、後藤由利子さん、伊藤里香さん
後列左より:辻本真由美さん、井上成美さん、岩間朋子看護師長
★リハビリワーキングチームで活動していたとき、リハビリをしているのに血液ガスが改善していない患者さんに「なぜ?肺がどうなってるの?」と疑問をもつことが多く、エコーの話が出たときは「やりたい!」と即答した気がします。

★看護師としてできることの可能性を広げられると思ったので、看護部長にもプレゼンテーションして理解を得ました。

★重症な患者さんが多いのでバルーンカテーテルが入っています。カテーテル抜去後の尿貯留を確認し、医師への客観的な報告ツールとして日常的にエコーを活用しています。

★直腸では、蠕動音とエコー画像がどのようにリンクしているか確認し、患者さんの状態の判断ツールとして、またその後の看護ケアの方向づけとしてエコーを活用してます。

★浮腫が強い患者さんが多く、血管の選択に活用しています。皮下に液体貯留が画像で確認された場合もすぐに漏れていると判断できるので、話せない、痛いと言えない救命センターの患者さんには特に有効だと思います。

★肺エコーの場合2次元の画像を3次元にとらえることが求められるため、エコーをすることでより解剖の知識が看護師も身に着くと思います。


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回答締切:2023年9月29日(金)


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