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めぐみが行く! Vol.5

「地域で生きる」を支える
~小児から高齢者までを包み込める受け皿に~

投稿日:2024.04.25

目まぐるしく変化する医療・社会の中で、看護の本質に触れるような、そんなコーナーにしたいと思っています。
休憩室で帰りの電車の中で是非「めぐみが行く」を広げてみてください。

 少子高齢化が進み、家族構成や働き方、地域社会のあり方が変わってきている現在、看護と介護を一体的に提供するサービス「看護小規模多機能型居宅介護」への注目が高まっています。
 今回住み慣れた地域で、誰もが自分らしく生活を営める地域作りを目指し、介護育児難民や孤独死を出さないことを使命に、在宅医療・介護ケアサービス「ゆらりん」を展開されている株式会社リンデン代表取締役の林田菜緒美さんにお話を伺いました。(文中敬称略)

⇒ナースマガジンVol.47掲載の林田さんのインタビュー記事はこちら
〈サテライト型看護小規模多機能型居宅介護ゆらりん家(ち)、KIDSゆらりん併設〉


医療依存度が高くても地域で生きるをあきらめない

メディバンクス㈱
村松 恵
村松:
 川崎市では初となる看護小規模多機能型居宅介護(以下看多機)を開設されましたが、立ち上げに至るには、どのような経緯があったのでしょうか?

林田:
 看多機を開設する前に、まず訪問看護ステーションを立ち上げていました。そこで人工呼吸器や吸引、胃瘻といった高度な医療的ケアが必要な患者さんとそのご家族が、もっと安心して頼れる場所が作れないかと考えるようになりました。特にご家族は自分の時間を削って看病をされていたので疲弊している方も多く、そういった方たちが自分の時間も確保できるようなケア制度があればと常々思っていたんです。
村松:
 訪看での患者さんご家族との関わりが大きく影響しているんですね。

林田:
 はい。特に印象的だったのは、難病のご主人の看病をされていた奥様からの言葉です。ご主人は気管切開をしており胃瘻。奥様はお一人で懸命に看病されていましたが、やはり介護疲れから日々イライラしていくのを感じていました。そこで私が、「複合サービス施設を作ろうと思う」とお話したらとても喜ばれました。ご主人は、ナーシングホームゆらりん(現在の看多機の先がけとなった事業)の開設には間に合わず亡くなられましたが、奥様は「頑張って作ってね!」と言って背中を押してくださいました。

 そんなご家族からの強い願いもあり、通い・宿泊・訪問看護・介護の4つのサービスを提供できる看多機を始めたんです。
株式会社リンデン
代表取締役

林田菜緒美さん
村松:
 看多機は、自由にサービスを組み合わせられるケアプランなどが特徴的ですよね。

林田:
 そうですね。既存制度ではケアがしきれない方を支え、“このサポートが欲しい!”のニーズに応えることができるのが看多機の良い点だと思います。医療依存度が高い高齢者の看取りも含めた複合型サービスの提供は、点で終わらせないサポートができることが強みになります。「ゆらりん」は、“赤ちゃんからお年寄りまで、その人らしく生きていく”をサポートできる場所でありたいと願って運営しています。


高齢者だけじゃない、小児も加速する在宅移行

林田:
 私が村松さんに出会ったきっかけは、息子さんの訪問看護でしたね。

村松:
 息子には先天性の奇形がたくさんありました。生後5ヶ月で退院しましたが、気管切開をして人工呼吸器もつけて経管栄養。そういう状態でも在宅介護を決めていたので、退院に向けて訪問看護ステーションを探している時、林田さんと初めて会ったんですよね。退院前に、病院までスタッフさんと息子の状態を見に来て下さって。
気管切開後の様子
林田:
 訪問看護ステーションの立ち上げ1年目で小児の経験はなかったので、「それでも大丈夫ですか?」とこちらがお訊きしたんですよね。

村松:
 私が小児専門病院で働いていたことで、やりにくさなどは感じませんでしたか?
自宅のキッチンで沐浴している林田さん
林田:
 当時、小児の臨床経験はあまりなかったけれど、まずはそのお子さんに必要なことをやろうと思っていました。村松さんは小児看護の専門家で、こちらがアドバイスするという立場にはないから、“私はあなたの子のおばあちゃんになりますよ”という気持ちでいました。分からないこともたくさんあるし、ケアする子によってやり方ややることも変わります。吸引にしても一人ひとり違うので、それはもう先生とお母さんに聞くしかないなと思っていましたね。


制度が追い付いていない小児の在宅生活のリアル

村松:
 私自身、小児看護をやっていたこともあり、最初は在宅生活をすごく甘く考えていたんです。とりあえず訪看と繋がりは持っておいて、“リハビリをお願いしたいな”と。でも実際は、眠れないしこんな不規則な生活やっていけないと1週間で音を上げ、毎日来て欲しいと林田さんに泣きつきましたよね。

林田:
 5~10分おきに吸引が必要で、30分も眠れていなかったですよね。やっぱり寝ないと体も心も壊れてしまうから。当時は、本当にイライラしているのを感じていました。
村松:
 綱渡りの毎日で、まだ相談支援専門員の方に繋がっていなかったのですが、林田さんがその場で連絡をしてくださって。我が家は「ゆらりん」ともう一つの事業所を使って訪問や訪問リハビリを組んで、毎日1週間誰かが来てくれるプランを作って頂きました。このような地域連携のサポートもとても有難かったです。本来は病院でそれを整えて退院できればよかったけれど、小児看護の看護師と言えども、退院して生活が始まってみないと、制度も含めて何もわかりませんでした。在宅医療は生活の組み立てであり、医療ケアができるから成り立つ訳ではないことを、初めて知りました。
 先ほど林田さんが、ケアは「お母さんに聞けばいい」って仰ってましたけど、一緒にサポートに入ってもらって、そこが本当に大事だなと思いました。当時、専門家の立場でお母さんに“指導しよう”なんて思っている看護師さんが自宅に入ってこられたら、私はもう心のシャッターを下ろしていたと思うんです。訪問看護師は人の家に入っていくお仕事なので、それがどういうことかを分かっている人間性も大事だなと。

 そういう私の思いをわかってくださっていたという意味でも、訪問してもらっている時、林田さんの存在が私にとっては一筋の光だったんです。

林田:
 当時は自分の時間を持てず、ずっと家にいる村松さんのことも心配でした。多くの資格を持って活躍されてたことは知っていたし、もったいなさも感じていました。村松さんは、働きに出たり、何か動いていた方が潰れずに済む人だと思ったんです。ご家族の息苦しさを解決するために使える制度や方法を考えることも大事ですね。

村松:
 私も働きたいという気持ちがあったので、その後押しをしてくれる人は世の中にこの人しかいない!と思っていました(笑)。林田さんは常に隣で伴走してくれて、女性としても人としても魅力的です。憧れつつ、本当に尊敬しています。

医療的ケア児のための療育施設を創りたい
「KIDSゆらりん」の立ち上げ

村松:
 「ゆらりん」には、医療的ケア児・者のための児童発達支援、放課後等デイサービス、生活介護をサポートする「KIDSゆらりん」もありますね。これは、私も立ち上げと運営・管理に携わらせてもらいました。

林田:
 10年前に村松さんを見ていて、24時間付きっきりで預けるところもない、働けない、というのを傍で感じて、“じゃあ近くに作ってしまおう!”という話になったんです。私は、やる気があって本当にできそうだなと思う人に出会ったときに、それを応援するのが楽しいんです。

施設の壁には季節が感じられるような装飾が沢山
小児と高齢者が一緒にレクリエーションをして楽しむ姿。これぞ共生社会
村松:
 私が立ち上げに関わろうと考えたのは、医療的ケアが必要な重度の障害児は、保育園の受け入れが難しいことを実感したのも大きかったですね。10年前ですが、“医療的ケア児がいるのに働くなんて無理ですよ”という雰囲気で、保育園のエントリーシートももらえませんでした。

林田:
 それを聞いて、やっぱり働く場所を作らなくちゃ!と思いました。村松さんに出会っていなければこの「KIDSゆらりん」は開設していなかったと思います。この出会いのおかげで、息子さん以外の医療的ケアを必要とするたくさんのお子さんにも利用してもらえるようになりました。

 制度の受け皿がない人たちのサポートは、これから益々必要とされるでしょう。そのニーズに応え、支える自分であり続けたいと思います。


終わりに

今でこそ、「医療的ケア児」というカテゴリーが出来ていますが、息子が退院したばかりの頃はまだまだそういった制度も整っていない時代でした。
小児専門病院での臨床経験があっても、自分で経験しないと分からなかった在宅生活の過酷さ。
医療職でも難解な福祉サービス制度の複雑さ。
医療、介護、福祉に囲まれる毎日で「子育て」の範疇からはこぼれ落ちる医療的ケア児。
「子育て」ではなく「孤育て」だった日々。
そんな日々の中で、林田さんは母親や父親にも目を配り、手を差し伸べてくださいました。
「指導」や「教育」とは全く違う関わり方を、林田さんの立ち振る舞いで私は学びました。
「地域で暮らす」を支えたい、その一心で林田さんと駆け抜けたゆらりんでの日々は、「後編」に続きます。
是非、お楽しみに。
村松 恵
看護師歴26年。小児看護に携わる中で皮膚・排泄ケア認定看護師となり、小児専門病院で15年の看護経験。その後在宅にフィールドを移し、小児から高齢者まで幅広い経験を持つ。
私生活では医療的ケア児(小学5年)の母でもある。新潟県十日町市出身。
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