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【新連載】 めぐみが行く!

楽しく食べる経験を誰にでも

投稿日:2023.07.14

“頑張って食べなければいけない食事”から抜け出そう

はじめまして!村松恵と申します。
目まぐるしく変化する医療・社会の中で、看護の本質に触れるような、そんなコーナーにしたいと思っています。
休憩室で帰りの電車の中で是非「めぐみが行く」を広げてみてください。
医学の進歩により、先天的な疾患や障害をもった子どもも地域で暮らせるようになりました。しかし、嚥下障害のある子どもへの食支援の情報は乏しく、病院でも在宅でもリソースは少ないのが現状です。今回、「デイケアルームフローラ」(東京都日野市)を開設し、障害があってもなくてもおいしく食べる楽しさを追求する管理栄養士の大高美和さんに、食支援への思いをお聞きしました。(文中敬称略)

美味しく一緒に食べようね

村松:
 娘さんの離乳食作りや食事全般に関して、どんなご苦労がありましたか?
大高:
 第 一子で、 食事に関わらず全部が初めてで必死でしたし、退院後もミルクが上手に飲めず離乳食も進まず、食のプロフェ ッショナルである管理栄養士として大きなショ ックを受けました。 患者さんたちが安全に食べられるようにとろみを付けた食事の指導をしてきたのに、そういう食事を娘に食べさせることには抵抗があって、娘の食べる力に 「うちの子なら大丈夫」というような変な自信があり、 今思うと「頑張って食べる食事」 になっていたと反省すべきこともたくさんあります。
大高美和 さん
NPO法人ゆめのめ理事長/日野市医療的ケア児等支援協議会委員 管理栄養士
実家はレストラン。ディズニーランドのキャストとして学んだホスピタリティを活かして病院勤務。第一子に染色体異常症があったことを契機にNPO法人ゆめのめを立ち上げ、給食やおやつを提供する小規模多機能型デイサービス施設「デイケアルームフローラ」「日野坂CANPAS」を開設し現在に至る。摂食嚥下障害のある子どもの食育支援・ミキサー食講習会を開催。編著『おかあさんのレシピから学ぶ医療的ケア児のミキサー食』(南山堂)
村松:
 本来食事は楽しいものなのに、 支援が必要なお子さんの食事となると、 親も子も苦しい時間になってしまうことがありますよね。
大高:
 1日3回食事の時間が来るのが怖くて、子育ての過程に自分が今いるんだということを感じにくかったです。 離乳食の本を買い、 その中で娘に使えそうなメニ ューを真似て作るようになり、 その積み重ねが少しずつ自信に繋がってきたのだと思います。
村松:
 そういう経験があるからこそ、 レシピを公開したり、 「デイケアルームフローラ」 で給食やおやつをお子さんに合わせた食形態で提供することにつながるんでしょうね。
大高:
 そこでは実際、 ひと手間もふた手間も必要になります。 でもそのひと手間の大切さ、ひと手間をかける理由を少しでも知ることができれば、 『頑張って食べなければならない食事』 から、 『美味しく食べるための食事』 に近づくきっかけになります。 私自身も娘に 『がんばれがんばれ』 と言いながら食べる食事よりも、これからも 『美味しく 一 緒に食べようね』 と言ってあげたいですし、 他のご家族もそうであって欲しいですね。
村松:
 そのためには、 スペシャルな人や場所でしか出来ない食支援ではなくて、 誰でもどこでも出来ることも大切ですよね。
大高:
 そうなんです。 「介助方法」 「姿勢」「食形態」 という環境を整えることは基本ですが、 障害児の子育てに足りないことは、選択‶ なんです。 まずは選択ができるように、 レシピや調理器具の 一 覧表などを作って環境にまつわる情報提供も積極的に行っています。

こども、親、医療者 それぞれの食への想い

大高:
 ”人生をより豊かにする食事‶ を考える時、 こどもは率直に 「自分の好きなものを自分のペースで食べたい」 と思っているでしょうし、 親は食べる量や種類を少しでも増やしたいという切実な願いを抱えています。 一 方、医療者は 「安全」 な食形態の提案を考えています。 また 「この子に何かしてあげたい、 家族の役に立ちたい」 と思って関わっている支援者の中には、 子育ての伴走というよりも自分の知識を 一 方的に 「教える」 ようなスタンスになりがちな方もいます。 「我が家らしい子育て」 の伴走をして欲しいのに、 「障害があるから周りが教える」 みたいな関係になるのは違うなあと感じています。 なので、 デイケアルームフローラも、 お子さんや親御さんの気持ちに寄り添いながら 「安全で継続できる楽しい食事」 を 一 緒に見つけていく場でありたいと思って活動ています。
村松:
 看護師ってどうしても患者さんに接する時 「指導」 という形になりやすいですよね。「食べる楽しみを知る」 「いろんな食材の味や香り、 食感を知る」 「介助法や食形態など上手に食べる方法を知る」 こういったことを、日々の食事の中で子も親も獲得していきます。 その成長過程での変化を喜びとして、 関係者で共有していけるといいですね。

「食」を通して豊かな経験を

大高:
 食べることに障害があっても、 食事は 一生続く訓練ではなく 「楽しみ」 であることを忘れてはいけないと思うんです。 機能だけをみたサポートではなく、 子どもたち自身が成長していく中での可能性が根底にないと。
村松:
 生まれつき食べる機能に障害がある子どもたちは、 食を通した経験が圧倒的に足りないので、 出来るだけ経験をさせたい。 でもそれはちょっとした冒険のこともあるのでなかなか踏み出せないというか。
大高:
 そうなんです。 安心 ・ 安全で1日が終わるのは有難いことではあるけれど 「豊か」とはちょ っと違うな、 と。 遊びも食事も全てが「経験」 なので、 子どもたちには様々な経験(重症心身障害の子が川に入ったり、 ポップコーンや駄菓子をミキサーにかけて食べたり)をさせてあげたい。 それが当たり前に実現できる場所でいたいと思います。 もちろん看護師さんも常駐していますから、 安全面にも十分配慮はしています。 こんなこともできるんだということを、 病院と在宅や施設をつなぐ看護師の皆さんにも、 ぜひ知っていただきたいですね。
家族一緒におやつタイム
(2023年3月15日 オンライン取材)

今回の取材先

デイケアルームフローラ(2019年1月開設)
NPO法人ゆめのめが運営する入浴サービス、給食・おやつ付きの多機能型児童発達支援・放課後等デイサービス。0~18歳までの重症心身障害児が対象。希望により送迎もあり。
関連施設:「日野坂CANPAS」(2022年4月開設)。東京都初の特別支援学校の放課後から卒後まで利用できる多機能型重症児者デイサービス。定員5名の超小規模放課後デイ&生活介護事業所。
村松 恵
看護師歴26年。小児看護に携わる中で皮膚・排泄ケア認定看護師となり、小児専門病院で15年の看護経験。その後在宅にフィールドを移し、小児から高齢者まで幅広い経験を持つ。
私生活では医療的ケア児(小学5年)の母でもある。新潟県十日町市出身。
「めぐみが行く」では、知りたいこと、見たい場所、取材して欲しい人など募集しています。
editor@medi-banx.com まで、メールでご意見・ご感想をお寄せください。

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