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ナースマガジン vol.34

歯科併設のない急性期病院における地域一体型口腔ケア体制の取り組み ~「口から食べたい」を叶えるために~

投稿日:2021.01.25

適切な口腔ケアによる口腔機能の維持が提唱される一方、歯科が併設されていない急性期病院では対応がスムーズにいかないこともあります。今回、地域一体型口腔ケア体制を構築された医療法人財団荻窪病院の取り組み事例を、オンライン座談会でお聞きする機会を得ました。以下にその内容をご紹介します。(文中敬称略)

司 会:
 宇都宮 宏子 先生 在宅ケア移行支援研究所 宇都宮宏子オフィス 代表

出席者:
 細見 洋泰  先生 前東京都杉並区歯科医師会会長・細見デンタルクリニック院長 
 倉澤 正子  先生 医療法人財団荻窪病院看護部長
 吉本 梨恵  先生 医療法人財団荻窪病院看護部歯科衛生士
 鈴木 美智子 先生 医療法人財団荻窪病院看護部歯科衛生士

基調講演1

歯科併設のない急性期病院における地域一体型口腔ケア体制の取り組み
看護部長
 倉澤 正子先生
 2013年、当時病棟師長として看護師のモチベーションを上げるため、「食事」に着目。入院治療で絶食となっている高齢患者の「食べられる口」を取り戻すため、病院として歯科衛生士の採用を決め、病棟ではなく看護管理室に配属した。

 歯科の併設がない中での歯科衛生士の採用は、口腔ケアの業務分担ではないことを看護職員に理解してもらう必要があった。口腔内が清潔に保たれることで、食事の質向上、チーム医療の重要性を実感できることを目指した。ひいては多職種と連携でき退院後の支援をイメージできる看護師の育成につなげたいと考えた(図1)。
現在、適切な口腔ケアの実践、口腔観察能力のアップにより、口腔がん・顎骨壊死等の疾患の早期発見にもつながり、医療の質向上にも貢献している。
 一方、入院時歯科スクリーニングにより、悪性疾患も含め歯科治療が必要な患者が多数見つかり、地域連携室長でもある副院長に相談。院長の後押しもあり杉並区歯科医師会との連携体制が構築できた。現在、歯科衛生士は杉並区歯科医師会との連携ではコーディネート役として活動しており、非常勤歯科医師の院内ラウンドや歯科往診体制の構築、周術期口腔機能管理へと活動が広がっている。今後も歯科衛生士と看護師が協働し、退院後も病院と地域の歯科がバトンをつないでいける連携を目指したい。

基調講演2

歯科標榜のない急性期病院における口腔ケアの取り組み
看護部 歯科衛生士
 吉本 梨恵先生
 歯科のない急性期病院で統一された適切な口腔ケアを実践できるよう、まず、看護師の口腔ケアの質の向上を目指した(図2)。

 院内の取り組みと並行して杉並区歯科医師会と連携し、まずは歯科往診を開始し、さらにケアの相談、アドバイスや歯科治療を行う歯科医師病棟ラウンド(2回/月)と、周術期等口腔機能管理を実施している。当院での周術期等口腔機能管理は2015年12月から全身麻酔下で悪性腫瘍の手術を受ける外科の患者を対象に実施し、術前に歯科受診することで入院中も清潔な口腔環境を保ちトラブルを防いでいる。また、顎関節脱臼のような口腔外科的処置が必要なケースへの対応としては、近隣の大学病院口腔外科との連携を確立し、歯科衛生士や看護師による対応が困難な症例も安心して対応できるルートができた。
 入院中だけでなく入院前から入院後まで患者のシームレスな口腔管理ができるよう、地域歯科との連携の向上により急性期からの質の高い口腔ケアを提供し、その人らしさや食べられる口腔機能へつなげていける活動を継続していきたい。

【座談会】地域一体型口腔ケア体制の目指すもの

意識変革の実感
宇都宮: この取り組みで大変だったこと、改善してきていると感じていることは、 どんなことですか?
倉澤: 当時も今も、 「口腔ケアは歯科衛生士にお願いする」という感覚のスタッフがいます。患者 ・ 家族に近い看護師が実践できるということは、ご自宅で本人・家族が継続して口腔ケアができるよう指導できるということ。そこを目指して、意識改革を院内に伝えていく必要がまだまだあるのかなと思います。
吉本: 今までは歯科医師の指示の下で動くことが多かったのですが、 ここでは、 自分で考え、 多職種と連携しながら行動しなければならないことがとても勉強になりました。 私たちは 「口腔ケアをする人」ではなく 「口腔ケアをする人のサポーター」 として関わっている事をしっかり伝え、 自分自身もぶれないように常に言い聞かせて活動しています。
鈴木: 多職種でチーム医療を実践している病院で出会ったリンクナースさんが、 口腔ケアに熱心に取り組まれていて、 多職種と協働する楽しさを知りました。当院でも病棟の看護師から口腔ケアが楽しいという声や、 皆さんに安心を感じていただいているのかなと思うと、 とても嬉しいです。
地域連携の追い風に乗って
宇都宮: 当時杉並区歯科医師会長でいらした細見先生は、 荻窪病院さんからの連携依頼をどうとらえていたのでしょうか?
細見: 当時、 歯科の併設が無いところで活動している歯科衛生士をバックアップするためには、 歯科医師会がサポートする必要があるだろうと、 理事会でも話をしていました。さらに平成24年度の診療報酬改定で周術期口腔機能管理料が新設されたこともあり、 我々も入院患者の口腔内環境改善や在院日数削減 (資料1) のための連携を目指し、ご協力させていただいたのです。
 スタッフの努力は、 院内から口臭が消えていたことからも感じられました。 歯科衛生士は歯科衛生士で自分たちのプライドを守り、 看護師は看護師で口腔内のケアに対して興味を持って自主的に取り組み始めたことで、 お互いの理解があるところがうまくマッチングしました。 これは退院支援の面でも、 患者個々の生活背景を情報収集できる看護師と、 口腔ケアのプロのの歯科衛生士が情報共有し合えば、 より強力なサポート体制になると感じています。
宇都宮: 地域一体型口腔ケア体制が退院後も継続されるために、今後どのようなことに取り組んでいこうとお考えでしょうか。
鈴木: 退院後に歯科介入が必要と思われる方は、 ケアマネジャーと情報共有しています。また、退院時指導の一つとして口腔ケアの手順書を作り、 看護師とともにご家族の指導も行っています。 今年は口腔ケアスクリーニングを改定し、 入院時だけでなく退院まで定期的に口腔観察を行い、きれいなだけでなく想いを伝えられる、 味わえるお口を目指して取り組んでいます。
倉澤: かかりつけ歯科医がいない患者を地域の歯科につなぐ役割になることも重要だと感じています。 最期まで味や食感を楽しむことはQOL維持・向上につながりますから、 看護師として患者のQOLを守ることは大切にしていきたいと思います。
細見: 我々が関与することで、 少しずつ看護師や医師からの相談が増えてきたことが嬉しいです。 歯科医師は相談を受けたらぜひ病院スタッフに協力してほしいし、病院スタッフの方ももっと歯科医師へ相談をしていただければと思います。
宇都宮: 今回、皆さんの取り組みを伺い、発信することができてとても嬉しいです。これは病院の機能を考える上での課題であると同時に、 住み慣れた地域で最期まで口から食べることを続けたいと願う療養者にとっても、 意味のある取り組みだと思います。 診療科として歯科を標榜していない全国の急性期病院は、 参考にされてはいかがでしょうか。皆さん本日はありがとうございました。
提供:株式会社大塚製薬工場
※本記事は株式会社大塚製薬工場運営サイト「栄養の杜」にて公開された記事から要旨をまとめたものです。詳細は「栄養の杜」をご覧ください。

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