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教えて 吉田先生! 【知っておきたい!高齢者の栄養管理 サルコペニア・フレイル予防】

第7回 サルコペニア、フレイル、ロコモティブ症候群…、その違いって?

投稿日:2024.01.19

~フレイルの生い立ち編~

サルコペニア、フレイル、ロコモティブ症候群……。
似たようで、ビミョーに違う3つの病態。今回は、フレイルについて解説します!
ちゅうざん病院 副院長 吉田 貞夫先生

1.フレイルは 、疫学研究から生まれた

 前回、ローゼンバーグ博士は加齢による筋肉量減少を含む一連の「現象」を「サルコペニア」と名付け、その後「定義」が作成されていったことをお伝えしました。一方、フレイルは、疫学研究の過程で、まず「定義」が生まれ、その後概念が広がっています。

 フレイルは、「フレイルティ(frailty)」からアレンジされた言葉です1)。「ティ」がいいにくいという理由らしいですが、アイスティとか、レモンティとかは言っているわけですし、どうなんでしょうね……?
図1 : フレイルの定義を提唱した    L.フリード博士
 話がそれましたが、フレイルを提唱したのはリンダ・フリード(L.Fried)博士(図1)で、フレイルは老年医学の領域で広く普及しました。フリード博士は今も現役で活躍していて、熱く語ったインタビュー動画も見ることができます2)。


2.有名な論文が発表されたのは 、 21世紀の始まった2001年

 フリード博士らは『Frailty in older adults: evidence for aphenotype.(高齢者の脆弱性:表現型のエビデンス)』という論文3)を発表し、体重減少、疲労感、活動量低下、歩行速度低下、筋力低下の5 項目を評価するフレイルの定義が記載されました。3項目該当すれば フレイル、1~2項目該当はプレ・フレイルという判定法も記載されています。この定義に基づき、 Cardiovascular Health Study(CHS)という、心血管系疾患のリスクを研究するためのコホートに登録した 高齢者のデータが解析されました。「evidence」という言葉に、「やっと見つけた!」というフリード博士の思いが感じられます。この5項目を評価する流れは、2020年に発表された日本での現行の診断基準、 日本版CHS基準4)でも変更されていません。


3.その後 、いろいろなフレイルが提唱される

 2001年以降、フレイルに関する論文数はウナギ登りで、サルコペニアをしのぎます。やがて、身体的な脆弱性だけでなく、精神的、社会的な脆弱性にも焦点が当てられるようになりました。2009年には、 フレイルの高齢者は軽度認知機能障害(MCI)の検出率が高いという「3都市研究」5)の結果が発表され(図2)、2013年にはKelaiditi、Cesari、 Gillette-Guyonnet、Vellasらといった著明な研究者たちによって、 「身体的なフレイルティと軽度認知障害を合併した状態」を「コグニティヴ・フレイル cognitive frailty」と定義することが提唱されました6)。
図2:フレイルと認知機能障害との関係(文 献5より)
 また、2008年頃から社会との関わりが減ることで高齢者の生活が困難になることが注目されました。その状態を、2017年、Buntらは、「sociafl frailty(社会的フレイル)」と名付けています7)。

4.サルコペニアとの違い

 フリード博士は、「フレイルの高齢者は、適切なケアで、また元気な状態に戻れる」と解説しています。一方、サルコペニアの高齢者は、経験上、なかなか元気な状態まで改善することは難しい印象があります。

 フリード博士の論文の「フレイル・サイクル」という図に、フレイルへと移行する際のひとつの因子として「骨格筋の減少 サルコペニア」という語が記載されています。しかし、フリード博士の想定したサルコペニアというのは、軽度の骨格筋の減少で、フレイルと判定される高齢者のなかには、診断基準でのサルコペニアには該当しないケースだったのではないかと思います。 そもそも、サルコペニアの定義、診断基準が初めて 提唱されたのは2010年で、フリード博士がこの論文を執筆した2001年当時、サルコペニアの診断基準はまだできていなかったのです。
 

次回は、ロコモティブ症候群について解説します!

参考文献 
1)日本老年医学会.フレイルに関する日本老年医学会からのステートメント、2014年.
  https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20140513_01_01.pdf
2)Frailty and Resilience: A Podcast with Linda Fried
  https://www.youtube.com/watch?v=GanTFFpz3lk&t=151
3)Fried LP, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 56(3):M146-56、2001.
4)Satake S, et al. Geriatr Gerontol Int. 20(10):992-993, 2020.
5)Avila-Funes JA, et al. J Am Geriatr Soc. 57(3):453-61, 2009.
6)Kelaiditi E, et al. J Nutr Health Aging. 17(9):726-34, 2013.
7)Bunt S, et al. Eur J Ageing. 14(3):323-334,2017.

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