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症例から学ぶ周術期看護 【術中管理編】

術中の水分と体温管理を考えてみよう

投稿日:2022.04.04


手術中の看護ってどのようなことを行っているの?

今更聞けない…そんな想いにお応えし、麻酔科医の谷口英喜先生にわかりやすく解説いただきました。
済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/栄養部長 谷口英喜先生

症例
77歳女性、身長143cm、体重40kg
直腸癌の診断で開腹低位前方切除術の予定。

既往歴
糖尿病で内服治療

入院後経過
15時に入院後、術前の腸管洗浄の目的で緩下薬を内服。手術は翌朝に
予定されている。入院後は絶食。飲水は21時まで自由(1000mLを飲水)。

術中経過
9時に手術室入室。手術時間は3時間6分、出血量は150mL、腹水100mL。

Q. 術中の水分補給の目的は?

A. 次の3つの水分を補うために術中水分補給を実施します。

❶術前体液量の補正
  術前の絶飲食期間や緩下剤に伴う下痢により不足した体液を補います。
  絶飲食期間に応じて4-2-1ルール(ナースマガジン37号20ページ参照)に則って計算します。

❷術中の不感蒸泄の補正
  術野から失われる不感蒸泄を補正します。
  術中不感蒸泄量・・・開腹手術では多く(5mL/kg/h)、体表の手術では少なめ(2-3mL/kg/h)

❸手術による体液喪失分の補正
  主に手術による出血や漏出液から生じる体液喪失を補正します。

本症例に当てはめてみましょう。

❶術前体液量の補正
20時間の絶食時間、4-2-1ルールで算出すると
10kg×4+10kg×2+20kg×1=80mL/h
 ➡20時間なので1600mLの不足。
ただし、水分を1000mL摂取されていますので、不足分は600mLになります。

❷術中の不感蒸泄の補正
本例は開腹手術ですので5mL/kg/h、
体重が40kgなので200mL/hの補正を行います。

❸手術による体液喪失分の補正
本例では、出血量150mLと腹水100mLを補正します。
●実際の輸液計画
手術室入室から30分を目安に❶の補正➡細胞外液補充液600mL
その後は、4-2-1ルールから維持液80mL/hと❷の補正として200mL/h➡細胞外液補充液280mL/h
❸の出血150mLに対しては、輸血なら同量を、細胞外液補充液ならその3倍量を、腹水100mLは細胞外液補充液100mL➡細胞外液補充液550mLを追加投与

Q. 術中の体温低下はなぜ悪い?

A. 術中、患者の体温は全身麻酔によりコントロール不全になっていて、体温は外気温に影響を受けます。手術室は多くの手術用機械があり、術衣による蒸し暑さから室温は低い設定になります。そのため、術中に患者の体温は低下しやすくなります。

体温低下により、止血凝固能が低下し出血量が増加、免疫能や心機能が低下し感染症および心肺合併症が増加します。さらには、患者は覚醒後にシバリングを起こして酸素消費量が増加し、精神的にも不安を惹起させます。

Q. 術中の体温を上昇させる方法は?

A. 体温を上げるには、次の3つの方法を組み合わせます。
❶室温および体表を暖める
空調で室温を上げます。ベアハッカーを使用して体表を暖めます。
患者ベッドを電気毛布などで暖めることもあります。

❷輸液による加温
暖かい輸液を投与したり、輸液ルートを暖めたりします。

❸アミノ酸輸液
アミノ酸輸液により体温を増加させることができます。
特に、全身麻酔中には有効性が高まります。
ただし、保険適応外使用になります。

本症例でナースが注意すること

*手術室入室時に患者は脱水傾向なのでふらつき、転倒に注意
*体温を計測して、低体温にならない工夫を多角的に実施
*術中の低体温は患者の術後回復を遅らせることに留意

Take home message

●術前不足分を推測し輸液で迅速に補給
●4-2-1ルールの活用および不感蒸泄量を推測して必要水分量を算出
●低体温の予防で術後回復を促進

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