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症例から学ぶ周術期看護 【術前管理編】

術前の水分管理を考えてみよう

投稿日:2021.12.20



周術期看護を本よりもっと詳しく教えてほしい、臨床で働いて今更こんなこと聞けない…

そんな思いにお応えし、今号より周術期看護について麻酔科医の谷口英喜先生にわかりやすく説明していただきました。
済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/栄養部長 谷口英喜先生

症例
65歳男性、身長172cm、体重68kg
会社の健康診断にて便潜血陽性、精査の結果、下行結腸癌の診断。
左半結腸切除術が予定された患者。血液検査値に異常は認められなかった。

既往歴
高血圧で内服治療

入院後経過
手術前日の昼食を摂取後に入院となった。
入院後、術前の腸管洗浄の目的で緩下薬を内服。手術は翌朝に予定されている。飲水は21時まで自由、入院後は絶食。

なぜ、特別な水分管理が必要?

術前に特別な水分管理が必要な理由は、絶飲食と腸管洗浄に伴う脱水症を予防する目的です。脱水状態で全身麻酔の導入を行うと、血圧低下や頻脈を起こす恐れがあります。そのため、以前は輸液による水分補給が実施されていました。しかし、現在では経口的な水分補給が通常行われています。

手術の前に飲水しても良い?

飲水の時間と、飲料の種類を守れば飲水は可能です。日本麻酔科学会術前絶飲食ガイドラインに従い、清澄水(せいちょうすい)であれば年齢や飲水量は問わず、麻酔導入2時間前までの摂取が可能です。清澄水とは、水、茶、アップル・オレンジジュース(果肉を含まない果物ジュース)、コーヒー(ミルクを含まない)、経口補水液などを指します。浸透圧や熱量が高い飲 料 、アミノ酸含有飲料は胃排泄時間が遅くなる可能性があるので注意が必要であり、脂肪含有飲料、食物繊維含有飲料、アルコールの使用は推奨されていません。

この症例で適切な飲料は?

腸管洗浄による脱水症が起きているので、脱水症に適応がある経口補水液を選択します。

●投与計画
経口補水液1,500mLを術前夜21時から、手術当日の7時までに摂取します。500mL以上摂取できない場合には、輸液療法の併用を考慮します。

目標とする飲水量の求め方は?

飲水の目的は脱水予防です。脱水にならないように、不足分を摂取します。不足分とは、通常の生活で失われる不感蒸泄(皮膚や呼気からの蒸発)、尿、発汗、便などから失われる維持量と本症例では腸管洗浄による下痢で失われる水分量を加味します。

●維持量の求め方
4-2-1ルールで知られているHoliday&Segarの式を使ってみましょう。
1時間当たりの輸液量算出式
体重10kgまで ……………… 4mL/kg/hr
体重11kg~20kg ………… 2mL/kg/hr
体重21kgから ……………… 1mL/kg/hr
4-2-1ルール
❶体重20kgの小児の場合
10kg×4+10kg×2=60mL/hr

❷体重60kgの成人の場合
10kg×4+10kg×2+40kg×1=100mL/hr
本症例の体重は68kgなので
10kg×4+10kg×2+48kg×1=108mL/hr
と計算できます。
●下痢により失われる水分量
下痢の程度や便の性状により量は異なります。
ここでは、1.5Lの下痢便が出たと仮定しましょう。

●必要な水分投与量
108mL×24hr+1,500mL=4,092mL
を24時間に摂取することになります。
手術前夜21時から、手術当日の朝7時までの10時
間分の水分補給を計画しますので、
4,092mL/24 hr×10hr=1,705mL
を摂取すれば良いことになります。

本症例でナースが注意すること

*飲水時間を守らせる
*飲料の種類を守らせる
*摂取量を確認し、不足していたら輸液を考慮する

Take home message

●術前絶飲食ガイドラインに則った術前水分管理
●清澄水を麻酔導入2時間前まで摂取
●4-2-1ルールを活用して必要水分量を算出

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