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看護・医療しゃべり場 インタビュー編

トヨタの考えを医療安全に活かす 転倒・転落防止への取り組み

投稿日:2023.01.02

院内に転倒転落予防チームを有する病院も多い中、「転倒・転落の件数を減らしたい」「どのように工夫すれば良いか」など課題を抱えているケースもあると思います。

今回は、2017年から5年間、医療安全管理グループにて転倒・転落防止活動に取り組まれてきたトヨタ記念病院 看護長 林麻古先生に、転倒・転落防止におけるデータ活用、多職種連携の取り組みについてお話を伺いました。
トヨタ記念病院
外来棟 看護長
林 麻古 先生

現場から見えてくるもの

 トヨタ記念病院は、トヨタ自動車株式会社が経営母体で 1938年に工場内の診療所として開院しました。トヨタの社会貢献の一翼を担うべく、地域の皆さまに安全で高度な医療を提供することを基本方針としています。トヨタ自動車の考え方の一つに「現地現物」という言葉があります。これは、「自分の目で現地に行って必ず現物を確認する」という意味ですが、当院もこの考え方を非常に大切にしています。

 例えば、医療安全管理グループではインシデントが起きた場合、現場に行って状況の確認をします。直接、情報収集をするとレポート内容との違いが見つかる場合もあり、詳細に状況を確認することができます。現場で何が起きているのか、「なぜなぜ分析」※で要因を分析して、再発防止のための対策立案に繋げていく、このような考え方を基本として未然防止活動に取り組んでいます。
※「なぜなぜ分析」:なぜという問いかけを繰り返すことで根本的な原因を探るトヨタ自動車 (株 )で生み出された分析方法。

データから状況を読み取るために

 当院では、私が着任する以前から転倒・転落に関するデータを継続的に収集していました。前任者より引き継ぎ、病棟毎のデータを収集し整理していく中で、この貴重なデータをタイムリーに病棟に返していくことでもっと活用できる のではないか、「データには人を動かす根拠となるポイントが含まれている」と考えました。そこで、転倒・転落発生時、カルテ記録とインシデントレポートから安静度、履物、予防策、リスク評価など得られたデータをエクセルで病棟ごとに集計し、一覧にしました。データは電子カルテからアクセスできるページにおき、病棟ごとの比較ができ、毎月タイムリーな展開が可能となりました。

 転倒・転落発生時の記録は、当院独自のフォーマットを作成しました。項目は、インシデントレポートや看護記録を参考に、発見場所、発生前の最終状況、履物など状況が詳しく分かるようにしました。

 私自身、転倒・転落発生の状況をカルテで確認するとき、判読に時間がかかった経緯があります。看護記録はどの職員が見ても分かりやすいようにしたい、そう考えました。発生時や転倒リスクの高い患者の記録をテンプレートとして統一したことで、情報共有が円滑になりました。 また、アセスメントシートを紙運用から電子カルテに変更し、評価内容を全職種が閲覧できるようになり、共通の認識をもって対応できるようになりました。活動の基本は現場だと考えているので、転倒・転落発生時、集計結果やカルテを見て気になることがあれば病棟に足を運び直接伝えるよう心がけています。転倒・転落の要因をスタッフ間で共有することができれば具体的な対策が立てられますよね。現場のスタッフの思いを引き出し、一緒に考えていくことが発生件数の減少につながっているのではないかと考えています。

多職種で取り組む「トライアングルの会」

 医療安全管理グループの活動では、院内事故防止委員会「トライアングルの会」のメンバーが大切な役割を担っています。医師を含む多職種で構成されており、各部署から高い志を持ったメンバーが集まっています。情報発信として定期的に電子カルテにニュースを掲載し、インシデント情報の共有を行い、再発防止に努めています。

 「トライアングルの会」の転倒転落防止グループは、病棟でもコアとなるメンバーを選出してもらっています。メンバーが毎月集まるデータを大切に考えているため、各部署への働きかけを積極的に行うことができ、スタッフも自部署の状況を具体的に知るきっかけとなり院内の転倒・転落防止に対する意識は日々高まっていると感じています。

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