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ナースマガジン vol.41

【看護ケアQ&A】なぜ転ぶ?原因から考える転倒・転落予防

投稿日:2022.12.28

転倒・転落は、病院内で発生するインシデントの中でも高い割合を占めており、常に関心の高いテーマです。ケースによっては、その後の生活や身体機能に深刻な影響を及ぼすこともあるため、医療従事者は発生予防のための対策を考えていく必要があります。今回、看護師から寄せられた質問について医療安全の専門家である杉山良子先生にお答えいただきました。
監修
杉山 良子 先生
パラマウントベッド株式会社 顧問(看護師) RoomT2代表
元武蔵野赤十字病院専従安全管理者

転倒 ・転落の要因

転倒・転落はどのような要因で起こりますか。 考慮するべき要因があれば教えてください。
転倒・転落を考えるときは、 まず事象の成り立ちから考える必要があります。 例えば、 注射業務の事故は、看護師の一連の作業の中で事故が起こる 〈プロセス型〉 であるのに対し、転倒・転落の事故は、 患者さん自らの意思があり動くことにより発生する 〈非プロセス型〉 であることが多いと思います。 非プロセス型である転倒・転落事故は、 背景に様々な要因が関わるため、 患者さんの持っている 〈内的要因〉 を理解した上で、 療養環境 〈外的要因〉 をどのように整えていくか考えることが重要ではないでしょうか。
 転倒・転落の要因には、疾患や身体機能など患者さんの持っている内的要因、 物的環境である外的要因、 患者さんが何をしたいのかという行動要因、 これらに加えて 〈管理的要因〉 も一緒に考えていくことが必要かと思います。 管理的要因は、 看護ケアをどのように行っていくかという病院の方針、 職場の風土に関わる部分です。転倒・転落対策を考えるには看護師だけではなく、 病院全体として取り組む必要があるのではないかと考えています。

 その中でも、外的要因である療養環境を整える上では、適切な「もの」(=製品、ツール)を選択することが大切です。例えば、認知機能に低下がみられ、よく動く患者さんの場合、事前に患者さんの動きを察知するためのセンサーを活用するのも一つだと思います。 目の前の患者さんにはどのような 「もの」 が適しているのか、 選択するための目を養っていくことが必要だと思います。


環境整備の工夫

小規模多機能型居宅介護施設に勤務しています。 歩行が不安定な利用者さんが、 ご自身は転ばずに動けると思っており、 施設内では職員が移動時に付き添いをしています。 ご家族の話では、 最近自宅内で転倒することが増えているようです。重大な事故にしないために取り入れられる対策があれば教えてください。
このような場合、 患者さんは自分が転倒せずに動けると思っていることが多いです。 看護師は、 このことを念頭に置いて療養環境を作っていきましょう。
  歩行に問題がない健康な人でも転倒することはありますよね。療養環境を整えるにあたっては、 転倒・転落をゼロにするというよりも、転倒・転落による受傷をゼロにするという考え方を持ちながら介入すると良いでしょう。 そうすることで、 患者さんの行動を支援するための環境の整備につながっていくのではないでしょうか。 具体的には低床ベッドにする、 患者さんの動線を考え家具や物を配置する、 睡眠状態を把握できる睡眠センサーを導入するなど様々な工夫があるので、 その方に合った対策がとれると良いですね。

 また、 看護師1人1人の取り組みはもちろんですが、 看護管理者が中心となり対象の患者さんにどのようなツールが適しているかを考えると良いでしょう。 ツールの選択については現場に則して病棟や施設ごとの特徴を踏まえ、 どのようなツールがどれだけ必要か、適正な使い方ができているかなどを考えていくことが望ましいと思っています。


身体拘束について

身体拘束をせず患者さんの安全を守るために、 看護師はどのような視点を持つことが大切でしょうか。
まず、 身体拘束は転倒・転落の対策を目的として行うものではない、 ということは前提としてお伝えしたいことです。転倒・転落の問題を考えるときには身体拘束が関連する課題として挙がると思いますが、 身体拘束は切迫性、非代替性、 一時性、 これらすべての要件を満たした場合に行う手段ですね。転倒・転落を防止するための身体拘束をしないという倫理的視点に加えて、 繰り返しになりますが患者さんが安全に行動できるためのツールを上手に活用していくと良いでしょう。
 ツールを選択する際には、 患者さんの行動を見て・聞いて・理解した上で、 医療者は対応を考えていきましょう。

 治療の過程においては患者さんの安全を守るために、 チームで協議して一時的に身体拘束が必要だと決定することもあると思います。 その時に大切なことは、 患者さんへのケアを細やかに行うこと、 身体拘束を解除するときの基準は看護師個人の判断ではなく組織全体で決定していくことだと思います。
 
 入院時に身体拘束に関する同意書を書いていただくところが多いと思いますが、 同意書があるからといって身体拘束が前提にあるわけではありません。 これらのプロセスを皆の共通認識として共有して、 事故を未然に防ぐことが医療安全の質の向上につながっていくと考えます。

転倒・転落とKYT

転倒・転落予防における効果的な研修がありましたら教えてください。
危険予知トレーニングは転倒・転落の未然防止のためにも効果的な教育方法だと思います。 KYTを行うときには写真やイラストを教材として用いると良いですね。一般公開されているKYTの教材などを活用してみるのも良いでしょう。 KYTでは、 正解・不正解はないので相手の意見を否定せず、 画像から見てとれる危険を意見として出し合いましょう。
 その際は、 ある場面のイラストを見て、 何らかの作用や変化が加わることにより発生する危険を予測しましょう。 危険ストーリーの文章で表現するというやり方をおすすめしています。(危険ストーリー…潜在要因+事故の型による文章。 例: 「〇〇すると、 ××して、 △△になる」 など)
 集団での研修が難しい場合は、例えば日々のカンファレンスをウォーキングカンファレンスとして行い、患者さんのベッドサイドに行ってチーム内で短時間のKYTを実践してみるのも良いですね。実際に足を運ぶことで新たな学びや気づきにつながることも多いのではないでしょうか。


転倒転落事故による傷害 0を目指して誕生した転倒転落研究会「RoomT2」。
臨床現場で働くナースが集まり転倒転落について情報共有する場として開設されました。
「RoomT2 転倒転落研究会 Supportedby PARAMOUNTBED 」 https : // www.roomt2.com /

参考:
杉山良子 編著
「改訂新版 ナースのための危険予知トレーニングテキスト」
(メディカ出版)

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