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【ポケットエコーが描く在宅医療の未来】 ナースマガジン×GEヘルスケア・ジャパン

第1回:ポケットエコーが持つ看護の質向上の可能性

国を挙げて「デジタル田園都市国家構想」が提唱される中、「デジタル田園健康特区」では地域の限られた人材で質の高い地域医療を提供できるシステムづくりを目指し、さまざまな事業に取り組んでいます。その中の一つとして、長野県茅野市では訪問看護師によるポケットエコー活用の実証調査を進めています。茅野市の提案する規制緩和「在宅医療における看護師の役割の拡大」をめぐり、第1回は本調査のメインテーマである排泄ケアへのポケットエコー活用の背景と実際について紹介します。

「デジタル田園健康特区」 を知っていますか?

 今、地方では3つの「不」が存在しており、医療環境においても「不便」「不安」「不利」という課題を抱えています。そこでデジタル技術を医療に活用することで、理想的な地域医療を実現しようという取り組みが盛んです。「デジタル田園健康特区」とは、デジタル技術の活用によって、特に人口減少・少子高齢化といった地方部の問題解決のモデル化を目指してデジタル実装を行っている地域のことです。

 その地域の一つである茅野市では、内閣府、民間企業(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)とともに、将来の理想的な地域医療の実現に向け、その担い手である訪問看護師がテクノロジーを使うことで看護の質を向上させることができるのではないか、といったテーマで実証調査が行われています。

排泄ケアにおけるポケットエコーVscan Airの活用

訪問看護業務の中でも排泄ケアは多くのニーズがあります。訪問中に尿失禁や便秘の状態を正しくアセスメントし、適切なケア介入を限られた時間の中で提供しなければなりません。これまでの訪問看護師は、尿失禁や便秘に対するアセスメント項目として「漏れている・漏れていない」「出ている・出ていない」などの症状のみに頼らざるを得ない状況でした。

 今回の実証調査では、GEヘルスケア・ジャパン株式会社製のポケットエコー、Vscan Airを用いた排尿評価及び便秘の状態の可視化に取り組んでいます。エコーに不慣れな訪問看護師にも扱いやすいことが求められるため、次の4点がポイントとなります。
①コンパクト:多くのケア物品と共に、訪問バッグの中に入れて持ち運びやすく、女性でも使いやすい大きさであること

②ワイヤレス: 訪問先に十分なスペースがなくても、スキャンの操作性が保てること

③デバイスフリー:手持ちのスマートフォン・タブレット等を操作画面にできること

④高画質:エコー初心者の看護師でも読影しやすい高画質であること
 小型化、高画質化が進みポケットサイズで使用できるようになったエコーは、看護師が在宅やベッドサイドで無侵襲で簡便にリアルタイムな可視化を実現できるツールです。多職種・療養者・家族と画像共有しやすいという点でも、今後の在宅医療・ケアのキーポイントとなり得るのではないでしょうか。

 では具体的に、ポケットエコーを活用した排泄ケアではどの様なことができるのでしょうか。

 排尿評価をする上では、検尿、残尿測定、膀内圧測定の中でも「残尿測定」が最も大事な情報で、これはエコーを用いて評価することが可能です。現在、在宅医療の現場では、頻尿に対して膀胱が小さいのか残尿が多いのかまでは評価されていないケースがほとんどだと思います。訪問看護師がエコーを用いることで簡便かつ正確な尿量測定を行うことができ、より適切な排尿管理、排尿ケアに繋げられると考えます。

 また、在宅療養中の要介護者の多くに便秘が見られますが、排便ケアの難しさは、肛門周囲に便が外に出てくるのを目視できるまで、便の行方がわからないということでした。その結果、「とりあえず下剤を飲んでもらおう」「出るかわからないけれど、訪問日なので浣腸をしておこう」など利用者さんの状態が確定できないまま排便ケアが行われていたのでないでしょうか。

 しかし、エコーを使用することによって、腸に便があるかないか、また便の硬さについてもある程度の正確性を持って判断が可能になってきています。

訪問看護ステーションでのエコー導入に向けて

 デジタル田園健康特区に指定された茅野市では令和4年10月8日にGEヘルスケア・ジャパン株式会社による第1回「Nurse×tech Project看護師向け研修会」が開催されました。当日は在宅で活躍されている訪問看護師など20名ほどが参加し、Vscan Airを活用して患者の状態を把握し、処置するための講義と実習の研修が行われました。その時の様子を本事業のPMOでもある山岸暁美先生にお聞きしました。

 「研修に参加する前は『エコーはドクターが使うもの、普段使わないのでドキドキします』『エコーは読影した結果を教えてもらうものと思っていました』といった声が聞かれ、本当にわたしたち看護師に使いこなせるのかという不安を抱いているようでした。しかし、研修会に参加してみると『見られるかも』という感覚に変わり、指導側の医師からも『看護師さんたちエコー使えるね』『僕たちは腸のエコーはやったことがないから看護師さんが出来るようになったら助かるなあ』と前向きな意見が聞かれました。

 研修会終了後、各自でトレーニングを積んだ後、各訪問看護ステーションで利用者さんの膀胱エコーや直腸エコーの実施が開始され、自分たちもエコーを使えそう、とさらに自信をつけた看師も多かったようです。

 一方で『スキャン技術とともに読影できる能力をもっと身につけたい』『迷ったときに相談できる人がいてくれるともっと安心して使えるのに』といった具体的な課題も実証調査を開始して明確になりました。そこでこの実証調査の中では、諏訪中央病院の総合診療部や在宅診療部の医師が訪問看護師さんの伴走役となり、訪問看護師がエコーを安心して行えるような体制作りが急ピッチで進められています。本調査研究は2023年3月までに、連携地域にも声をかけ、エコーを活用した排泄アセスメントを300症例行う予定です。

 これまで、エコーが訪問看護ステーションに普及しなかったのは、エコー本体が高価だったこと、看護師向けの教育プログラムが不十分であったことが考えられます。今回の実証調査を通じて、エコーのレンタルシステムの導入と、訪問看護師への伴走支援の実施について検討が重ねられています。これらの実現により質の高い在宅医療・ケアの提供が可能になるのではないでしょうか」。

 調査の報告が待たれますね。


テクノロジーを用いて、排泄コントロールを本人に取り戻すためのケアを目指す

本調査の意義を山岸先生に伺いました

 訪問看護師には、利用者さんの生活の場で看護過程を展開する能力が求められています。それに応えるためには、利用者さんの状態を適切にアセスメントすることが大前提となります。排泄ケアは、今までは膀胱や直腸の「今」の状態を看護師が判断することが難しかったために、それぞれの経験知を基にケアが提供されてきたのではないでしょうか。それが、このポケットエコーを活用することで、訪問看護師が適切に膀胱や直腸・結腸の状態をアセスメントできるようになるわけです。

 これを踏まえ、「〇曜日だから今日は摘便しましょうね」と看護師がケアを一方的に決めてしまうのではなく、エコーでの排泄アセスメントが出来るようになることで、一人ひとりにあった個別性の高い排泄ケアを提供できるということに繋がっていくのだと思います。こういったことの積み重ねで訪問看護の質が向上していくのですよね。

 実際に2022年11月から茅野市の訪問看護師さんたちがポケットエコーを使っているのですが、「尿が出ない」と緊急の呼び出しがあった時、すぐにエコーで尿閉と確認出来、主治医にもその画像を共有できたり、エコーを活用することで、原因がカテーテルトラブルであることが分かった、などの活用状況が現場から届いています。
山岸暁美先生
茅野市特区事業ヘルスケア領域PMO
慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室
(一社)コミュニティヘルス研究機構理事長
 排泄ケアとは、そもそも看護師が「出してあげる」ものではなく、利用者さんご本人によるコントロールを目指していくものです。初めてエコーを触る看護師も多いので、ツールを活用することが目的にならないように気を付けながら、この実証調査を進め、エコーを活用することで利用者さんの「今」の排泄アセスメントを可能にし、それを看護に活かすことを重視したいと思っています。実際に調査を行っていく中で「読影のどの部分で看護師さんたちが困っているのか」といった具体的な課題も明確にし、その解決策も探っていく予定です。

 エコーの結果をどうアセスメントに活かし、アセスメントをいかにケアに繋げるか、それこそがエコーというテクノロジーを活用して、看護の質を向上させることなのではないでしょうか。
(2022年12月16日オンライン取材)
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